第3話

 俺は数学

 加賀美千佳は物理と化学

 悠里は国語

 小野田さんは英語が担当となった。


 加賀美千佳は勉強が出来ることは知っていたが小野田さんも出来るのは予想外だった。


 そして教えるのがめちゃくちゃ上手だった。別に英語が苦手なわけでは無かったが参考になることがかなり多かった。


 また、聞いたところ英語だけでなくスペイン語も話せるとのこと。

 理由は巻き舌がかっこいいから使えるようになったらおシャレだと思ったからだそうだ。こういう所は小野田さんらしい。


 しかし巻き舌はスペイン語で必須というわけではないらしく結局使えないままらしい。巻き舌の出来る悠理に散々煽られていた。


「黒須さん見かけによらず本が好きなのですね」


「本は好きだな。家には大量の本があったから小学生の時とかはずっと読んでた」


「ってことはもしかして小学生の頃ってひょろひょろだったりするの?」


 ふと疑問に思ったらしい小野田さんが質問を投げかけた。


「そんなことはないよ。昔からゴリラだった。普通に鐘が鳴るまで外で毎日遊んでたしなこいつ」


「ゴリラじゃねえよ。少しだけ体が丈夫なだけだ」


「鍛えずに握力90越えてるくせに何言ってんだ」


「他が弱いんだよ」


 マジこいつ⋯⋯ 悠理のゴリラ伝説語ってやろうか?


「それだけの力もあるし文学も好きなのに部活に入らなかったんだ」


「そ、そうだな。本は好きだが1人で読むのが好きだしスポーツもこれといってやりたいものが無かったんだ」


 焦ったような雰囲気で答える悠理。こいつは部活には入りたくても入れないからなあ⋯⋯


「つまりこいつは1人が好きな一匹狼ってわけだね」


「おおかっこいい!」


「適当ぬかすな」


 小野田さんは感動したと言わんばかりの表情で悠理を見ていた。


 めちゃくちゃ騙されやすそうだな⋯⋯


 こいつ本当に学年4位なのか?


 そして加賀美千佳はというと、軽く微笑んでいた。


 普通に悠理の理由に納得してくれたのだろう。


 てか自分の魅力わかってますよみたいな微笑みやめろ。


「それでも体を動かすのはお好きなんでしょう?」


「まあそうだな」


「なら千佳ちゃんの家で遊ばない?」


「それくらいなら構わねえぞ」


 家で遊ぶってことはもしかしてそれ専用の土地があるってのか?

 まったく金持ちってのは分からない。


「ならさっさと勉強片付けないとね」


 4人(小野田さんは特に)はより集中して勉強をした。


 そして無事勉強も終了し、加賀美家に移動した。


 今朝も見ていたが改めて馬鹿げている。こんな場所に城建ててどうすんだよ。ここは日本だ。


 とは思いつつも趣味が悪いとまでは言い切れないのがこの家の凄いところだ。日本に溶け込むように所々今風のデザインが施されており、あくまで家でありテーマパークではないということが伝わってくる。


 ただよくある豪邸っぽく何のためにあるのか分からない噴水や謎の銅像もあった。

 手入れも大変だろうに。人でも雇って整備してもらってるんだろうな。

「ではお二人とも。これをどうぞ」


 2人共々豪邸に見入っていたところに突然渡されたのはスポーツウェアの着替えだった。


「ありがとう」


 俺たちは素直にきがえ俺たちは案内された更衣室で素直に着替えた。何故かサイズがピッタリだった。


「なんで俺らと同じサイズのウェアがあるの?」


「それは来客用にスポーツウェアの全てのサイズを10枚程度取り揃えているからですね」


 なかなかにぶっ飛んでいる回答が飛んできた。来客用のウェアって。


「各場所にはスポーツに合わせた靴等も取り揃えております」


 この家は何をしたいんだ。そこまでやるなら店やってくれよ。


「お待たせ!なんのスポーツやる?」


 説明が終わった後、家で着替えてきたらしい小野田さんがやってきた。


 どこからどう見てもテニスウェアだ。その上Baboratのラケットバッグをからっている。

 どう見てもテニスをする人だ。


「その格好だとどう考えてもテニス一択じゃねえか」


「え?バドミントンだけど」


 ラケットバッグから出てきたのはバドミントンの用具だった。


「思いっきりテニス用のバッグだけど……」


「こっちの方がたくさん荷物入るからね。バドミントン用のバッグだと別に持たないといけないのめんどくさいし」


「思ってたより合理的な理由だったな」


「バドの試合とかだと目立つから普通のやつ使ってるけどね」


 この家に来る用に持ってるって感じか。


「それにバドだけじゃないよ」


 バッグの中には卓球のラケット等様々な用具が詰め込まれていた。


「まあせっかくだしバドミントンでもやるか」


「分かりました。では行きましょうか」


 俺たちはテニスコートの近くにある小さな小屋の所まで連れてこられた。


 その扉を開けるとそこには奥にマッドサイエンティストでも潜んでいそうな階段があった。

 その階段を降り見えた先には様々な室内競技が取り揃えられた空間が広がっていた。


「バドミントンコートの裏に用具が置いてありますのでそれぞれ自由にお使いください」


 俺と悠理は言われるがままコート裏に向かった。

「本当にバドで良かったのか?小野田さんバド部のエースだぞ?」


 小野田環という人物はバドミントン部に所属している。その実力は1年生にしてインターハイに個人戦にて出場する程だ。テレビにも取り上げられ、将来を期待されているバドミントンプレイヤーだ。


 そんな化け物相手にしてまともに相手になる小市民なんているわけもなく……


「流石に手加減してくれるだろうし大丈夫だろ。それにバドは少しやっていたことがあるからな。お、このラケットめちゃくちゃ良いな」


「お前何でもやってるな」



「あの親の元で育ってきたからなあ……」


「とりあえず二人が待っているだろうしさっさと行こうぜ」


「了解。じゃあお前のラケットをさっさと決めるか」


 俺に合うラケットを見繕ってもらった後、コートに戻ると既に二人は打ち始めていた。


 それはもう苛烈に。


「加賀美はバド部じゃなかったよな?」


「ああ。そもそも部活には所属していないな」


「それであのレベルかよ。流石加賀美様ってわけだ」


「憎たらしいことにな」


 そんなことを話している俺たちに気付いた加賀美千佳が打ち合いを切り上げ、こっちに来た。


「お待たせ」


「ちょうど良い用具はあったようですね。よかったです」


「ほんとお前の家すげえわ。充実してたわ」


「早く始めようよ!一緒にやりたい!」


 組み合わせは自然と決まった。俺と加賀美千佳。悠理と小野田さんのペアとなった。正直こいつと組むのは嫌だが付き合っている以上仕方ない。


 加賀美千佳は初心者だろうという甘い予想は大きく外れ、俺だけ初心者に近い状態で放り込まれるという最悪の事態に至ってしまったが大丈夫だろうか。


 しかしそんな心配はよそにゲームが始まってしまった。

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