第4話

 最初のサーブは俺。とりあえずスマッシュされないように手前に低く落とした。


 その後の展開は予想の通り。俺は殆ど置いてけぼりで試合が進んでいた。時々こちらにシャトルが飛んでくるのでうまく威力を吸収して手前に落とし、前に出てブロックの真似事をしていた。


 そんなことはどうでもいい。加賀美千佳がおかしかった。インターハイ出場選手である小野田さんと圧倒的パワーの悠理の猛攻をほとんど一人で受け流していた。


 結果僅差で俺たちの勝利で終わった。


「やっぱり千佳ちゃんは強いね!」


「皆様のお陰ですね。いつも付き合ってくださっておりますから」


「皆様って誰だ?」


「プロの選手とかだね。千佳ちゃんの家庭には定期的にプロの選手が集まってくるんだよ。その時に一緒に遊んでくれるんだ。私もそこでバドミントン教えてもらって強くなったんだ」


 それで全て合点がいった。加賀美家の経営する加賀美グループは世界トップクラスのスポーツブランドだ。新商品を試すといった理由で世界中から日々プロの選手を集めているのだろう。

 加賀美邸の敷地に多種多様なスポーツの設備が整っているのも同様の理由だろう。


「ってことは他のスポーツもあれだけ上手だったりするの?」


「そんなことはありませんよ。このレベルで出来るのはバドミントンだけです。環がいつも相手をしてくれていましたしね。他は普通の部活でエースにぎりぎりなれるかどうかというレベルですね」


「それでもそこそこ狂ってるよね」


 その後俺たちは4人までで成立するスポーツで遊んだ。加賀美千佳は他のスポーツもかなり上手かったが宣言通りの実力であり、男子の中でも特にパワーのある悠理に普通に負けていた。


 さて、俺はというと。


 まともに全員に勝てたのはテニスくらいだった。やったことのあるスポーツが4人で出来るもので本当に助かった。


「もうこんな時間ですね」


 時計を見るともう8時になっていた。相当な時間遊んでいたようだった。


 こんなに純粋にスポーツで遊んだのは久々だった。


 途中からは加賀美に対する嫌悪感を忘れ、純粋に没頭していた。


 こういうのならもう一度やっても良いかもな。


 間に日常回入れる!!!!!


 無事にテストが終わり、結果が校内に貼り出された。俺と悠理はそれを見るべく二人で見に来ていた。


「俺らは何位だろうな」


 そういう悠理の順位はというと、学年2位だった。ちなみに俺は3位。

 小野田さんは4位で、加賀美千佳はいつもの如く1位。


「いや今回はお前に勝てるとは思わなかったな」


 凄くにやにやしながら悠理は言う。


「お前今回は思いっきり失敗したとか今回は二桁かもとか言ってたけど嘘だったのかよ」


「いやあ今回は調子が悪かったからなあ」


「500点満点中490点とか取ってたら1桁に決まってんだろコラ」


 こいつ調子悪いとか言ってたのテスト返却後だから確信犯だ。


 ちなみに3位の俺は470点。大体この点数を取れれば2位は普通に取れる。


「覚えとけよ悠理」


「ああわりいわりい」


「悠理くんすごいね!めちゃくちゃ点数高いじゃん!」


 そう声をかけてきたのはいつもテンション高めな小野田さん。その後ろを加賀美千佳が付いてきていた。


「それでも加賀美には勝てなかったけどな」


「まあ流石の千佳ちゃんだからね!」


 まあこいつの場合は家庭の環境もあるんだろうな。


 そんな会話をしていると、後ろから声をかけてくる者がいた。


「いやー4人とも相変わらずあったまいいね」


 委員長こと佐野美香である。


「委員長。いやあそれほどでもないよ。凄かったのはこの二人だよ」


 俺は悠理と加賀美千佳を指しながら言う。正直こいつらの点数が異次元過ぎてな。俺たちは他の一桁の方々と誤差程度の点数しかない。


「それでも4位以内だよ。凄いって」


 そう言ってくれるとありがたいものだ。


「えっへん!私たちは一緒に勉強会したからね!」


 自信満々に小野田さんが答える。こういう時に小野田さんがいると非常に助かる。


「そうだったんだ。確かに千佳ちゃんと晴くんは付き合ってたし。どこでやってたの?」


「私たちの家ですね」


 そう答えたのは加賀美千佳。その答えを聞いた委員長は俺の方へ来て、


「千佳ちゃんと環ちゃんの家どうだった?」


 興味津々に聞いてきた。この二人の金持ちっぷりは割と知られているからな。しかし二人の家に行った人は誰もいないし、二人は話そうとしないしで皆の興味の的だったりする。


「千佳の家は洋風のお城のような感じだったよ。そして、スポーツ施設の充実がやばかった。そこら辺の大規模な運動用の施設よりも快適」


 加賀美千佳の家だけの情報を伝えておいた。


「それは凄いね。一回私も連れて行って欲しいな」


「んで、肝心の環の方は?」


 小野田さんの理由を話さなかった理由は明確で、この人小野田環ラブの方なのだ。


 1年の頃からよく話していたが、結構な頻度で彼女の話題が出てくるのだ。


 ちなみに、委員長は基本的に相手の事は名字+さんとかくんで呼ぶのだが、小野田さんと仲良くする地盤固めのために加賀美さんではなく千佳ちゃん。俺たちを下の名前で呼んでいるのだ。


 それにより3人と仲が良い感を演出でき会話に入りやすくなる効果を狙いつつ、小野田さんを下の名前で呼ぶ口実を作っているのだ。


 ちなみに、俺たちは加賀美千佳と付き合うって知った当日にこれから下の名前で呼ぶからと先程の理由と共に説明された。というか圧をかけられた。


 委員長は小野田さんが絡むとIQ200のおバカになるのだ。


 そのおかげで肝心の小野田さんは何も気付いていないご様子。


 多分というか加賀美千佳にはバレているが。まあ好意から来ているものってのと小野田さんが楽しそうにしているということもあり何も言ってない。


「何の話をしてるの?」


 こそこそと話をしている俺たちが気になったのか、小野田さんが割って入ってきた。


「今度は私も誘ってってお願いしてたの」


「いいじゃんやろうやろう!」


 小野田さんはあっさりとOKを出した。流石委員長。


「やったあ!」


 勢いに任せて小野田さんを抱きしめていた。上手に加賀美さんに表情が見えないように俺らの方を向いて抱きしめているあたりプロだ。


 ただし表情はとてもだらしないものだった。


 ちなみにここで委員長が来てから一言も発していない悠理さんはというと、


「こいつほんと馬鹿だなあ」


 委員長の行動に呆れて何も言えなかったご様子。非常にわかる。だからといって俺に全部丸投げするんじゃねえ。


「じゃあ環ちゃん部活先に行ってるね!」


「うん!」


 委員長は満足したのか、バド部の方へ向かった。


 ちなみに委員長は中学ではバスケ部。つまりはそういうことです。


「じゃあ私も部活行ってくる!」


 その後軽く会話した後、俺たちは小野田さんの一言で解散した。

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