第2話
そしてその放課後。
俺と加賀美千佳はカップルらしく一緒に帰ることもなく、いつも通り悠理と帰る。
校門の時点でお別れなのだ。あまりに方向が違いすぎた。
「晴さんよお。本当に良かったのか?」
「良かったとは?」
「加賀美千佳と付き合ったことだよ」
「別に問題ないだろ。勉学どころか運動すら優秀。性格も理想的で非の打ち所がないと評判の人だぞ?寧ろ俺には勿体無いくらいだ」
「強いて言うならファンクラブからの攻撃が怖いってところか?」
「お前も結構な人気者なんだからそんな心配する必要はねえだろ⋯⋯」
「そんなことはどうでも良いんだ。お前アイツのこと大嫌いなんだろ?」
「バレたか」
「バレたか。じゃねえよ。結構俺に言ってるだろ」
「まあな」
「なら告白断れば良かったじゃねえか」
「それは俺の信条に反する。告白されたら彼女がいないのならokするんだ」
「そんな信条ねえだろ」
「現に彼女今までに20人くらいいたんだが」
「それはお前が人が好きすぎるだけだろ」
「現に大好きだがな。まあ特別な人は流石にいるが」
「度が過ぎた博愛主義者だから今までのカップルは成り立ってたが、嫌いな人間は違う筈だろ?」
「確かに嫌いな奴だったらいやだな」
「じゃあ何故okしたんだ?どうせお前から告白したわけじゃねえだろ?」
「不可解だったからだよ」
「どういう意味だ?」
「基本的に俺は好きな奴らの敵となる人間以外は嫌う事は無いんだよ」
「確かにお前が意味もなく他人を嫌うことはなかったな」
「なのに俺はアイツのことが嫌いで嫌いで仕方がない。全てが気に入らないんだ」
「外敵ではないし寧ろ味方なはずなのに」
「そういう感情を抱いたのは生まれて初めてなんだ」
「だから付き合うんだ。アイツと共に居ることでその理由を解明するんだ」
「意味不明な理由だな」
「俺も分かってる。ただ俺を理解するために必要だと思ったんだ」
「そのためにアイツを利用するのか。人の好意を弄ぶなんて人が悪いな」
「まあお前以外から見ると聖人らしいけどな」
「それは見る目がねえな」
「酷え言い草だな。まあ事実そうだけどな」
「まあ、意味もなく人を嫌いたくないとかいう心の在り方は聖人ではあるがな。その結果起こす行動は邪悪だが」
「なんか言ったか?」
「何でもねえよ。耳に変なもんでも詰まってんじゃねえか?」
「そういうことにしといてやるよ」
そして土曜日、俺と悠理は小野田環に指定された住所までたどり着いた。
そこにはあり得ないレベルの豪邸が二つ並んでいた。ヤクザが住んでいそうな和風の家と姫でも住んでそうな洋風のお城のような家だ。
「なんだこれは」
「紛れもない豪邸だな。こんな通りがあるなんて知らなかった」
「あのじゃじゃ馬はマジもんのお嬢様だったみてえだな」
俺たちは前もって言われていた通り加賀美千佳の到着を待つことにした。
待つこと数分。
加賀美千佳は洋風の豪邸から出てきた。あの豪邸の主は加賀美家だった。
「晴さん、黒須さん、こんにちは」
「おはよう、千佳さん。今日も綺麗だね」
「ありがとうございます」
こいつ綺麗だって言われ慣れてんな。なんだこいつ。
「では環の家に向かいましょう」
そう言って加賀美千佳はお隣の豪邸のチャイムを鳴らす。本当に小野田さんはお嬢様だったようだ。
「お待たせ千佳ちゃん。それにみんなも」
出てきたのは小野田環ではなかった。
「環さんのお姉さんですか?」
「そうだよ。私は小野田巴。環の姉です!」
「はいはい巴ちゃん。案内してもらえる?」
「はーい」
連れられるがまま玄関を入ると目の前には巨大な壺が鎮座していた。そしてその横はガラスが貼ってあり風流な庭が見える。
「すげえなここ」
悠理が俺にだけ聞こえるように小声で言ってきた。
「マジで住む世界が違うって感じだな」
廊下を歩いていると見たこともない絵やら書やら壺やらが並んでおり、金持ちであることをありありと見せつけられた気分だ。
そして小野田環さんのいる部屋に到着した。
「思ってたよりも普通の部屋だな」
中は和風建築らしく畳が敷かれているだけの普通の女の子の部屋という感じだった。馬鹿みたいに広いということもなく、一般的な家庭サイズの部屋だった。
「入ってきて初めて口にする言葉がそれなの!?」
「今までのインパクトがでかすぎたんだよ」
「確かにこのレベルの家は中々見ませんもんね」
「あんたが言うな」
悠理の言うとおりだ。自分の豪邸を棚に上げておいて良く言うよ。なんだあのお城は。まだこっちの方が現実味あるわ。いやこっちにも無いけども。
「そんなことよりも」
「勉強を始めませんか?」
「そうだね。早いうちにぱっぱとやろう」
一人文句を言う人がいたが無事に勉強会が始まることになった。
せっかく四人いるということで各々の得意教科を教えあうことに。
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