無釉者は、今日も夢見て世界を愛する

@Atelier_yasyokU

1、「制服、マシュマロ、迷宮」

「学園内では、制服を着崩してはならない。」


生徒指導の先生のとても有益なお話。

欠伸交じりに聞く生徒たちの顔が見えていないのだろうか。

なんて。

「私」は思うのです。


現在地点は、よくある普通の教室内。

深い緑の大きな黒板の前に立った体格の良い先生が大声で。

この物語の一文目を叫んでいます。

揃った生徒たちは男子生徒15人女子生徒15人の、至って普通の子供たち。

私は女子生徒の中の一人です。


マシュマロの袋を開けようと思ったのに、うっかり手が滑って。

パンッ、なんて破裂音と共にマシュマロが空中に逃げるように散ってしまいました。

先生の顔が瞬きするたびにコマ送りのように真っ赤になっていって。

「お前は職員室に来い!」

なんて指差し名指しするものですから、思わず。


「嫌ですよ、夜に好きな漫画家さんが最新刊の予告をするんです。」


SNSでと付け足して笑ってやりました。

もちろん首根っこ掴んで引き摺られます。

他の生徒達には帰れと怒鳴りつけ、私は連行。

友人がありがたやなんて両手を合わせたので、あとでしばくと伝えましたよ。

モールス信号で。

友人の学が偏っていれば届くはずです。


引き摺られながら廊下の外を見ていれば、グラウンドに鯨が浮かんでいます。

今日は何を捕食して、何を頭の上の穴から吐き出すんでしょうね。


先生は一生懸命口を開けて怒鳴って、私を見ますが。

一瞬離した視線のせいで、廊下がかぎ編みの棒で掻き回されたみたいに絡まってしまいました。


「まるで迷宮ですね、先生」

「そうだな」

「こうなった以上、私を開放するのが得策では?」

「いいや、こうなったのなら」


と先生は私の首根っこを掴んだままお説教を始めてしまいました。

耳に痛いですが、それは我慢するしかありません。

10分も立たないうちに声が枯れてしまったようなので。


「もう良いじゃないですか、クジラも鳴くから帰ろ、ですよ」


と、また廊下の外を見れば。

もう鯨はグラウンドの砂を食って満足したのか帰っていました。

先生はまた私の首根っこを引っ張ったあとに、ぱっと離して。


「気を付けて帰れよ」


と解放しました。

空中で分解したマシュマロを回収して帰ろうと。

私は笑ったのです。


この学校は気味が悪いと笑ったのです。

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