異形の子
於菟
異形の子
私は産まれた時から人間ではなかった。人間という生き物は"そうあるべき"という姿が決まっている。私の姿はその定型から逸脱した異形のものだった。
私には産まれた瞬間の記憶がある、誰にも信じてもらえないかもしれない、自分でも絶対にそうだという確信が出来ているわけではない。思い込みかもしれないけど私の心の内にずっと在るもの。
暗い肉壁に押し出されるようにして私は眩しい世界に排出された。それと同時に聞こえてくる歓喜の声。しかしその声は萎んでいき、黄色い声は灰色の様相を呈してくる。
「どうして片腕が無いんだ」「障害者か」「最悪ね」「可哀想に」
その時の私は目が見えなかったはずだけれど、今でもその瞬間を思い出そうとすると醜い大人達の顔がフラッシュバックする。
そして、同時に私を優しく包み込む母の温もりを感じるのだ。私が異形として生を受け排他的な環境で育ってもなお人間より人間らしくいられたのは、ひとえに容姿で差別することなく愛情を注いでくれた家族のおかげだと言える。
そんな私も結婚をし子供を持つことになった。そして私と夫の元に産まれてきた子供は私と同じく定型ではなかった。
この子は私と同じように苦しい幼少時代を過ごすことになるだろう、それを過ぎても理解のある友が現れるとは限らない。そう思うと安易に子供を産む選択をした自分が情けなくなる。私の両親も同じ思いに苛まれていたのだろうか。
ふと、記憶の中の父と母を想起した。そこには今の私のような腑抜けた姿はなく、頼りがいのある二人の親しかいなかった。
母親が後悔をしても子供の人生は好転しない。ならば子供を守る盾となろう、子供を支える柱となろう、子供にとって良き大人の手本になれるように努めよう。
私と違い覚悟が出来ていたらしい夫は安らかな笑顔で私たちの子を抱っこしていた。この人となら子供を不幸にすることもないだろう。
いつか子に恨まれることになるだろう、せめてその覚悟はしておこう。そして、そうなった時に子供が立ち直れるように育んでいこう。
いつの日か、すべての人間が人間として受け入れられる世の中になることを願って。
異形の子 於菟 @airuu55
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