2.遡及少女石神さとりと悪魔の不可解な茶会
茶道部の部室は、学校でも立ち居る人の少ない場所である。授業で使われないのだから、部員位しか入らない。だから校内でも“静か”な空間である。そして、今日は部活も無いから部員も居ない。元々、お茶の先生が来る時しか来ない部員が大半で、それ以外だとイロハが居るか、
「さとり、今日部活無いんだからさっさと行こうよ。」
部外者の千恵が来るだけである。
「イロハに渡すものがあるから置いてこうと思って。あの子、明日は来るって言ってたから。」
「明日イロハちゃん来るなら、私も来ようかな〜」
「テスト期間なんだから勉強しなさい。」
「勉強してもしなくても、成績変わらないから大丈夫。」
千恵の場合、ただ勉強したくないだけなのは明白。
「今日だってテスト期間なんだから、街中ぶらついたり出来ないわよ。」
「そんなこと言っても、私達今日がシフトなんだから、暗くなるまでは仕方ないじゃん。」
自習室とかで勉強すればと思うけど。
「だから、ハンバーガー食べに行こうよ。」
「じゃあ、そこで勉強しましょ。」
「え〜、鬼〜」
「さとりもハンバーガー食べない?ご一緒にポテトはいかがですか?」
こないだから千恵は、何かに付けて食べさせようとしてくる。
「私はコーヒーだけで大丈夫。」
「でも、私が食べた分さとりも食べないと、私だけ重くなるじゃん。」
「あなたが我慢しなさい。それに陸上部なんだから私より運動してるでしょ。」
「え〜、鬼〜」
千恵は良くも悪くも、読みやすい。
「茶道部でいつもお菓子食べてるのに、何でさとりの方が軽いの、不公平じゃない?」
「お茶菓子なんて、文化祭の時くらいしか出ないの。」
「嘘だ〜、イロハちゃんは何時もカラフルなマカロンくれるもん。」
あの子は人が居ないからって
「私の前で出したら、没収するってイロハにも言っておいて」
「そう言えばさ、さとりとイロハちゃん以外の茶道部の人、私見たことないんだけど、本当にちゃんと部活動してるの、さとりが私物化してるんじゃないの?」
「失礼ね、先輩も先生もいるんだから私物化できる訳ないでしょ。」
「でもイロハちゃんも見たことないって言ってたよ、他の部員」
「あなたもイロハも、人が居ない時に来てるだけ、イロハの方が幽霊部員なんだからね。」
「先生だってほとんど来ないんでしょ、それにお茶の先生はさとりの親戚なんでしょ、怪しいな〜」
「人の部におやつ食べに来ないで、自分の部に顔出しなさいよ。」
「だって先生がさ〜、みんながお前の真似したら身体壊すから毎日は来なくて良いって。」
確かに、あんな風に砲丸投げるのは千恵くらいしかいないけど、酷い先生。
「ずっとランニングしてれば痩せれるんじゃないの。」
「そんなの全然楽しくないんだけど。ね〜、ハンバーガー食べないならもう帰ろう、今日はもう何もなさそうだし。」
「そうね、千恵は勉強してくれないし。」
「テスト期間なんだから、シフト外してくれても良いのにね。」
「テスト期間なんだから、勉強しなさい。それに後ろ向きに歩かないの、また車とぶつかるわよ。」
「ぶつかってないって、かすっただけ。それに私頑丈だから。」
だから気を付けなさいと言ってるんだけど。丁度電柱の向こうから車が来ていた。
「ほら、車来たわよ。」
「えっ、わっ、ちょっと、こんな道で飛ばし過ぎ。何、今の。」
千恵は、私のこと押し退けてるのに気付いてないらしい。予想してたけど、別のことに気を取られて避けるのが遅くなってしまった。
「あっ、ごめん、どこかぶつけた?大丈夫?」
私が立ち止まったから、変に心配されている。
「大丈夫だから、ちょっと用事を思い出しただけ、悪いけど先に帰って。」
「怒ってる?ごめんね。」
「怒ってない。けど気を付けてね、千恵。あなたは頑丈でも車は壊れるから。本当に用事を思い出したの。」
とりあえず、千恵は先に帰して、さっき見たものを確かめないと行けない。
おそらく、彼は偶然この電柱にぶつかっただけ、それが私にとって最悪な出来事だった。
多分、ちょっと前、あんまり前だと嫌だけど、こういうのは大概強い思いって感じは無くて、ただただ暗い思いだけが滞留してる。
彼の家は割と近い。鍵がかかってたら諦めるけど、こういう場合、案外鍵がかかってないことが多い。
そして彼の家も、鍵はかかっていなかった。
「最悪」
とりあえず、私が居た証拠が残らない様に慎重に部屋に入る。案の定、彼も中に居た。生きては居なかったけど。問題はここから、見つけるのがもっと遅かったら、異臭がするとか言えば何とかなるけど、
彼はまだ死にたて見たい。
仕方ないから先生に言うしかないか、あれこれうるさくされるのは嫌だけど。
スマホを出して思わず溜息が出ていた。
「もしもし、先生ですか、石神です。これから言う住所に警察呼んで欲しいんですけど。えっ、自殺ですよ自殺。今ちょっと、大きい声出せないんで、仕方ないでしょ、見えちゃったんだから。とにかくお願いします。理由ですか、分かりません、国語の先生なんだから自分で考えて下さい。あっ、以外とフレッシュです。以上。」
こういう時、自分って性格悪いって思ってしまう、千恵やイロハが私の友達なのが不思議な位に。
あれから1週間、先生から小言を言われたけど仕方ない。こんなのを野に放ってるそっちが悪いんだから。
思念って、思いの外いろんなところに残るもので、それを分かってれば我慢出来るけど、不意打ちで特異なものだとどうしようもない。千恵にはああ言ったけど、実のところ私も茶道部の部員が居るか居ないか分からない。それ位、この部室は“静か”だしイロハと千恵位しか入ってないのかもしれない。イロハはなんというか綺麗な思念、千恵は怒るかもしれないけど見たままで安心できる思念、そしてもちろん私の思念だって残ってる。でも一度だって自分の思念を見れたことはない、いや、見れているのかもしれない。
お茶を点てて、器を手に取る。お茶を飲んでそこに残った思念を睨むと、向かいにはいつも黒い靄の様な悪魔が見える。そして私を見て嗤う。
「馬鹿みたい。」
そんなこと私が気にしないって、知ってるはずなのに。
PS.以下にて、ある特定の定数に於けるXの定義域を示します。ご参照下さい。
定数=押田桧凪
https://kakuyomu.jp/works/16816700426648445854
※提示された前提条件は以下の通り
①名前は“石神さとり”である。
②石神さとりは少女である。
③残留思念を読み取る能力がある。
俺が思うに、ある特定の初期状態を前提条件として、短期的、限定的に現場の状態や関連するモノの状態などを読み取る能力である。
④お茶が好き、或は茶道部。
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