美少女シスター奴隷クラリス
金蛇の花園。奴隷商人スネイル・トレイターが己が美少女奴隷たちを囲う愛と官能の鳥籠。
帝都の外れの広大な敷地に構えられたそこには、主人のスネイルと奴隷たちが住まう大きな屋敷の他にも様々な建物があるのだが、今回の舞台はそんなバリエーション豊かな建物のひとつ……聖堂である。
「プレシス様……今日も花園の皆が良い日を迎えられますように……」
荘厳な雰囲気の漂う聖堂。天に向かって手を掲げ、慈愛の微笑みを地に向ける美しい女神像が安置されているそこで、像の足元に跪き祈りを捧げるひとりのシスターの姿があった。
奴隷という最低身分まで堕ちた身からすると、大陸内で信仰される女神プレシスへの祈りなんてどうでもいい扱いに成り下がるものではある。が、しかし、美少女奴隷たちの中には、未だに信仰心をなくしていない敬虔な信徒もいた。
祈りを捧げる彼女はそのひとり。名をクラリスという。
厳かなシスター服を身に纏うクラリスは、光るような金の長髪と、露出がまったくないにも関わらず抜群のスタイルの良さがかえってえっちさを引き立てる美少女であった。むろん、例に漏れずスネイルの美少女奴隷だ。
ちなみにスネイルが彼女を寝室に呼び出した際、「これもプレシス様のお導き。であれば否やはありません」とノリノリでシスター服を脱ぎ出して以来、主人からご指名はない。
「ふぅ……。今朝のお祈りもおしまいですね」
立ち上がり、もう一度女神プレシス像に目礼。クラリスは奴隷身分に落ちる以前、女神プレシスを信仰しその教えを広げるプレシス教団の信徒として、帝国内の教会でシスターとして務めを果たしていた過去を持つ。
自身が籍を置く教会がちょっと色々やらかしたので訳あって奴隷にまで堕ちてしまっていたが、クラリス自身は女神への信仰心を失ってはいなかった。
こうして毎朝女神に祈りを捧げるのは、彼女自身の、そして彼女とともに暮らす大事な美少女奴隷たちが健やかな生活を送ることを祈念してのものだ。
「そろそろ本業に移りましょうか……」
呟いて、クラリスは聖堂の端に設置された小さな個室へと足を向けた。小さな部屋の中に小窓のついたついたてが一枚置かれており、その両側に腰掛けることができるようになっているそれは、いわゆる懺悔室だ。
美少女シスター奴隷クラリスは、昔とった杵柄で、金蛇の花園の一角で奴隷たちの懺悔を聞き、その罪悪感を軽減させる手伝いをしているのだ。ついでに言うと女神プレシスは寛大なので、女神への信仰心がなくても罪を告白した者なら誰でも赦して下さるのである。
なお金蛇の花園の懺悔室は奴隷たちのプライバシーを守るため、美少女錬金術師奴隷ルーシィの全面協力のもと変声可能なマジックアイテムが用意されている。これで罪を告白しても誰だかバレないね!
「では……哀れな罪人を待ちましょう……」
そうして懺悔室の奥の方で待機するクラリス。少し経ったのち、控えめに扉をノックする音が聞こえて来た。
「どうぞ」
「……失礼するぜ」
ついたてで視界が遮られているし、ルーシィの変声マジックアイテムが既に効果を発揮しているため、クラリスには誰が懺悔室を訪れたのかわからない。口ぶり的にリーチェの気もするが、まあわからないのだ。
「それでは罪人よ。さっそくあなたの罪をお聞かせなさい」
「……おう。実はこの前あのクソバカのロサと大喧嘩しちまってよ」
いつものことですね。と思ったが、クラリスは何も言わなかった。相手が誰かはわからないので。もしかしたらクロユキかもしれませんし。
「あまりにムカついたから、何か弱みを握ってやろうと思って、アイツの部屋に忍び込んじまったんだ……」
おお、なんと勇気のある告白だろうか。いくら大喧嘩をしたからとはいえ、勝手に同僚の部屋に入ってしまったことを罪と捉えているのですね。
「大丈夫ですよ。女神プレシス様はそんな行為もお許しに」
「……いやそしたらアイツの部屋から男物のパンツを見つけてよ」
「パンツ」
「アイツぜってースネイル様のパンツ盗んでるぜ! 許せねえ! そうだろクラリス!」
どうやらこの罪人、自分の罪ではなく他人の罪を告白しやがりに来たらしい。いや懺悔室ってそういう使い方するもんじゃないですからね。
「あなたの憤りは分かりましたが、それは私ではなくスネイル様にお話しした方がよろしいのではないでしょうか」
「いやだって見つけた経緯が経緯だし」
ごもっとも。いやごもっともなんですが。でもやっぱり私に言うことじゃありませんよね。
「はぁ……じゃあまあロサにはそれとなく伝えておきますが、他人の部屋に勝手に立ち入ってはいけませんよ。自分がやられたら嫌なことはしてはいけません」
「そうだな……。まあオレは別に部屋にやましいもんとかないけど」
「そういうことではないのですが……何はともあれあなたは罪を告白しました。女神プレシス様は山よりも高く海よりも深い慈愛の心であなたの罪をお許しになるでしょう。はい次」
「じゃああの放火魔に釘刺し頼むぜ!」
重ね重ね補足するが、一応ルーシィ謹製の変声器を使用しているのでクラリスにはこの罪人の名前はわからない。わからないったらわからない。
美少女竜騎兵奴隷みたいな人が赦しを受けて去ったのち、再び懺悔室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「……失礼するわ」
ついたてで視界が遮られているし、ルーシィの変声マジックアイテムが効果を発揮している。なのでクラリスには誰が懺悔室を訪れたのかわからない。口ぶり的にロサの気もしたが、わからないものはわからない。
「それではロs……罪人よ。さっそくあなたの罪をお聞かせなさい」
「……いま名前出さなかった?」
「気のせいです」
懺悔の相手はわからないのだ。
「まあいいけど。……えっと、この前リーチェのクソバカと喧嘩したのよ」
お互いにクソバカって思ってるんですね。と思ったが、クラリスは何も言わなかった。
「もうほんっとーに頭きたから、なんか弱点見つけてやろうと思って……」
「リーチェの部屋に忍び込んだ?」
「えっ……なんでわかったの。すごい、クラリス姉」
二人の思考回路結構似てますからね。と思ったものの、クラリスはやっぱり何も言わなかった。まだついたての先にいるのがロサと決まったわけじゃないので。
「まあそれはどうでもいいのです。あなたはリーチェと喧嘩をして、その流れで彼女の部屋に忍び込んでしまった。その罪を告白して赦しを得に来たのですね。問題ありません、女神プレシス様は……」
「別にあいつの部屋に忍び込んだこと自体はいいのよ」
「良くないと思いますが」
前提条件が狂ってますね。
「いい? 問題なのはねクラリス姉。リーチェの部屋から男物のパンツが見つかってしまったことよ」
「パンツ」
「あのトカゲ女絶対スネイル様のパンツ盗んでるわよ! 許せないでしょ! ねえクラリス姉!」
「ふたりともどの口が言ってんですか?」
「は? ふたりとも?」
おっといけない。クラリスは呆れで痛くなってきたこめかみを押さえながら言葉を継いだ。というか部屋にやましいこと大ありじゃないですかリーチェ。
「まああなたの憤りはわかりました。でもこれはわたしに懺悔する内容ではありませんね。スネイル様にお伝えなさい」
「いやでも見つけた経緯が経緯だし……」
パンツ盗んどいていまさら同僚の部屋に忍び込んだことでガタガタ言わないでください。
「ではリーチェにはそれとなく伝えておきますが、他人の部屋に勝手に立ち入ってはいけませんよ。あと人の振り見て我が振り直せ。パンツを盗んではいけません」
「べっ、別にあたしはやましいことなにもないんですけど」
「じゃああなたは罪を告白したんで女神プレシス様は山よりも高く海よりも深い慈愛の心であなたの罪をお許しになるでしょう。よかったね。はい次」
「なんか雑じゃない!?」
雑にもなろうというものだ。二人目の罪人を送り出し、クラリスはため息を吐く。
暫定リーチェと暫定ロサのクソバカ二人組が、どちらも主人のスネイル様のパンツを盗んでいたという事実。信じていた後輩美少女奴隷の罪深さにクラリスはビックリである。
「……あの、いいですかクラリス先輩?」
声が変わっているのでわからないが、新米美少女奴隷的な雰囲気を醸し出している少女が懺悔室を訪れたようだ。三人目の告解となる。
どうぞ、と招き入れ、クラリスは彼女が罪を告白するのを待った。
「あの、わたしまだお屋敷に来て日が浅いので、全然皆さんの部屋とか覚えられてないんです」
「うんうん仕方ありませんね。初めての時期はそういうものです」
自分にもありましたよ、そういう時期。若さゆえの悩みですね。とクラリスはついたての向こうで微笑ましい気分を抱く。
「それで昨晩、ネメシア先輩から頼まれごとをして。先輩の部屋からスキンケアの道具を取ってきて欲しいって言われたんですね」
「ふむふむ」
ネメシアと新米美少女奴隷は仲がいいですからね。目の前の彼女がリズベットかはわかりませんが。
「それでネメシア先輩のお部屋に入ったんですけど」
「はい。何かやってしまいましたか?」
「いいえ。ネメシア先輩の部屋だと思って入ってしまったのが、クラリス先輩の部屋だったんです」
「はい?」
クラリスは思わず聞き返した。あれれ、これはちょっと嫌な予感がしますね?
「それでその……わたし最近お洗濯とかしてるんでわかるんですけど……クラリス先輩の部屋からスネイル様のパンツが……」
「忘れなさい。はい次」
「えっ、先輩!? これマズくないですか先輩!? これ盗んd」
「懺悔の時間はもう終わりです。ありがとうございました」
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