第4話 異能力


 すっかり意識が飛んでいた。休みが二日続きで良かった。まあ休みじゃなくても飲むのだが。すっかり二日酔いだ。しかし、これ以上、缶をため込む訳にもいかない。捨てに行こうとした時。辺りに缶が無い事に気づく。


「あれ? ギン?」

「あ、起きたんだ。勝手に掃除機使わせてもらってるよ」

「ああ……なぁ、空き缶は?」

「捨てて来た」

「……よく場所分かったな」

「近所の人が教えてくれたよ」

「なっ、馬鹿!」


 つい、怒鳴ってしまった。つくづく俺は自分勝手な男だ。


「どしたのさ急に怒って!」

「俺が誘拐犯だって思われたらどうする!?」

「ああ、そんな事か」

「そんな事って」

「大丈夫だよ、都合の悪い記憶は


 今、ギンはなんて言った? 記憶を、消す?

 どういう意味だ。まさか殴って物理的に気絶させたとかそういう話じゃあるまいな。思わず問い詰める。


「どういう意味だ。ちゃんと答えろ」

「僕、研究所から逃げ出して来たんだ」

「研究所?」


 自分の頭を指さすギン。


「脳波に干渉して記憶を操作する実験をしていたの、僕はその被検体」

「そんな馬鹿な」

「でもホントだよ。試しに消してあげよっか。そうだな。昨日、シンは僕のために何を買って来てくれた?」


 そう言ってギンは俺にキスをした。

 頭が真っ白になった。

 それも一瞬。すぐに離れる。


「さあ僕の質問に答えて?」

「あ? あ? あっと、それは、あれ? ほら、お前が今……違う……いや違くない……あれ? なんでお前、病衣じゃないんだ? 俺の服でもない……」

「ほらね?」

「その服、俺が買って来たのか?」

「それとシュークリームをね」

「シュークリーム……アカネ……」


 コンビニでアカネに会った事だけ思い出す。

 その時、ギンの顔がぐっと近づく。


「そんな事も忘れさせてあげるよ?」

「そんな事って言うなよ、俺にとって大事な――」

「――それはシンを苦しめる記憶だよ」


 ギンの顔は真剣だった。俺は思わず息を飲む。


「本当に、忘れさせてくれるのか?」

「シンさえよければね?」


 それは最良の選択なのではないだろうか。アカネにとっても、ジローにとっても、シンにとっても。でも。


「――出来ない」

「どうして?」

「この記憶のおかげで俺は、お前と出会えたよ、ギン」

「関係ないじゃないか、そんなの」

「関係あるよ、この記憶は今の俺を構成する一部なんだ。これが欠落したら、俺は俺でなくなっちまう。多分、お前の事も拒否しちまう」

「シン……僕を受け入れるって言うの? こんな変な力を持った、気持ち悪い、モルモットをさ」

「気持ち悪くなんかない。お前がモルモットだって言うんなら、俺はキメラだ。矛盾を抱えて、生きる化け物だよ。人間みんなそうなんだ」

「変だよシン」

「ギン、もうそんな力使わなくていいよ」


 俺はギンを抱きしめた。ギンは静かに泣いていた。立場は逆転していた。あの時、アカネに会って泣いた俺と正反対だった。

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