第3話 過去との決別


 ギンにシュークリームを渡す。


「泥棒猫から奪って来たとっておきだ」

「泥棒猫?」

「ジョーダン、忘れてくれ」

「変なの」


 シュークリームを頬張るギン、美味しそうだ。もっと在庫があれば、良かったのに。そんな風に思う。そうすれば誰も悲しまずに済んだのに。

 ユニシロで買って来た衣類をその辺に放る。


「これ着といてくれ……俺は少し寝るよ……ソファで寝たんで身体が痛い。ベッドで寝直す」

「シン! じゃあさじゃあさ、テレビ、見てていい?」

「そんなのいちいち許可取るなよ」


 俺は寝室まで行くと、ベッドにダイブした。まだスーツを着替えていない。流石に着替えようと思い、クローゼットを開き適当にTシャツと短パンを取り出し着替えてベッドにもぐりこむ、タオルケットを身に纏い、俺は眠りについた。


 夢を、見た。

 河川敷、口喧嘩してる男二人。


「シン! お前、アカネの事好きなんだろ!」

「お前だって! アカネの事狙ってる癖に!」


 殴り合いにまで発展する。相手の名前はジロー。三人は幼馴染だった。切っても切れない腐れ縁だった。だけど――


「――はぁはぁ!」

「また俺の勝ちだシン。お前じゃ俺に勝てねぇよ」


 アカネを守れるのはジローだけだった。昔から俺は二人の金魚のふんだった。どうしても、二人の関係に割って入る事が出来なかった。俺はすごく、すごく悔しかった。アカネと一緒に居られたら。そんな風に思ってた。だから。


「好きです!」


 

 俺は歓喜のあまり鼻血を出した。だけど、幸せは長くは続かない。

 チンピラに絡まれて、窮地に陥った俺達を救ったのはジローだった。

 その時からだろう、アカネがジローに惹かれていったのは。

 段々と、アカネの心が自分から離れていくのを感じて行った。

 俺は悲しかった。とっても悲しかったんだ。離れていく君の心が、じゃない。

 それに納得している自分自身が。


 だから二人の結婚式の余興だってやってやった。やけくそだった。

 何をしたのか覚えてすらいない。変な歌でも歌ったんだっけ……そんな事を考えていたら真っ暗い部屋で目を覚ます。


「もう、こんな時間か……ん? あっちの部屋も暗いな……」


 居間に向かうとテレビの光だけが部屋を照らしていた。俺は壁のスイッチを押して明かりを点ける。


「うわっ!?」

「おうわ!?」


 俺は、ギンに釣られてびっくりする。


「こらギン、テレビを見る時は部屋を明るくして離れてみてねって言われなかったか?」

「だって、電気の付け方分からなくって……」

 知識が中途半端なヤツだな、そう思った。だが初めての場所で勝手が違うのも仕方ないのかもしれない。電気のスイッチの位置を教えてやる。


「うん、覚えた」

「よろしい、んで何見てたんだ?」

「映画」

「お、これ見逃してたんだよなー、ちょうどいいや」


 そう言って俺はキッチンへと向かう。冷蔵庫からビール缶を取り出す。


「これを肴に一杯行こう」

「……? 僕も?」

「腹減っただろ? つまみもあるぞ」


 相手が未成年っぽい事をすっかり忘れて酒を進める俺は目の前の事に集中したかったのかもしれないし、現実逃避したかっただけなのかもしれない。誘拐に未成年飲酒の前科二犯となってしまった俺に未来はあるのか。知った事か。飲んでやる。

 俺は冷蔵庫に戻りストゼロを持ってくる。とことん酔ってやる。


「それ危ないやつじゃあ……?」

「ストゼロ如きで危ないんじゃテキーラも飲めねーやい!」

「シン、なんか怖いよお」

「飲め飲め!」


 二人は映画を見ながら飲み明かした。

 楽しかった。映画のここがいい、ここが悪い、なんて笑いながら話し合った。

 映画も終わり、すっかり酩酊した時だった。

 俺はふとこぼした。


「ずっと、三人で居たかったなぁ……」

「どうしたの?」

「俺さあ、親友と彼女、同時に失っちまったんだ」

「死んじゃったの?」

「フラレて、取られた」

「恋の事はよくわかんないや」

「教えてやろうか?」

「ホント?」

「ばぁか」


 ガハハと笑って俺は次の缶を開ける。俺の死因は急性アルコール中毒かな。なんて思ったりした。

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