第2話 シュークリーム
俺はユニシロで適当な男性用Sサイズの服を揃えて買った。ユニシロも昔より高くなったなぁとしみじみ思ってしまった。俺が子供の頃はもっと安かった。
そして帰り際、思い出した様にコンビニに寄る。
「シュークリーム……シュークリーム……コンビニのでいいのかな……」
スイーツコーナーを眺めていると人とぶつかった。お互いスイーツに目を奪われていたらしい。
「あっ、すいませ――」
「きゃっ、ごめんなさ――」
――一番、会いたくない相手だった。同じ町に住んでいるのは知っていた。だけで極力会わないように努めていた。だけどギンの買い物のために、いつもと違うルートと時間を通ったのがマズかった。
「アカネ……」
「シン君、久しぶり、だね?」
その女性は左手薬指に指輪をしていた。知っていた。知っていたさ。俺はそっと息を吸い込んだ。そう彼女は俺の元カノだった。
「ああ、何年振りだ? 結婚式以来だろ?」
「そ、そうそう! 懐かしいなぁ。シン君、余興やってくれたよね」
「あれは、はずかった」
「あはは、変わらないねシン君は」
変わったさ、俺は変わった。もうお前の事好きじゃない。それだけで充分変わっただろう。そうだと言ってくれよ。誰でもいいからさ。俺は泣き出しそうだった。
「――シン君? シン君!」
「ああ、悪い悪い。積もる話もあるだろうけど、また今度な、俺、人待たせてるんだ」
「そうなんだ。じゃあまた今度、また三人で」
三人、俺とアカネと、その旦那。旦那も俺の知り合いだった。友達だった。親友だった! 裏切られたんじゃない。負けただけだと何度も自嘲した。俺はスイーツコーナーからシュークリームを引っ手繰ってセルフレジで急いで会計を済ます。便利な時代になったものだ。その時、「あっ」という声が聞こえた。
シュークリームは最後の一つだった。
アカネも……シュークリームが好きだった。
俺は急いで店を出た。これはギンのだ。お前のじゃない。
家に着く。ギンが出迎えてくれる。
「おかえり、あれ? シン泣いてる?」
「ギン、頼むから、泣いてないって言ってくれ……」
俺はギンに思わず抱き着いた。それは相手を求めてというより、大きなぬいぐるみに抱き着くような意味合いだったかもしれない。しかし、抱き返してくる細い腕。
「泣いてない、シンは泣いてないよ。シンは強いもんね?」
「ああ、俺は強い。昔の事なんか知った事か」
「そう、それでいい、それでいいよ」
俺は、泣いてしまった。
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