名無しの猫 p.10
男が叫んだ途端、壁が爆弾によって吹き飛ばされるように外から突き破られる。
仕切られた壁を破壊してモニタールームに侵入してきたのは、一体の獣だった。
獣は黒く長い髪をたなびかせ、頭は人間の形を保ったままだが、白衣を羽織った体自体は大量の触手が歪に絡み合い、不規則に伸び縮みしていた。
その獣の顔を、シャムは見間違うはずがなかった。
「さぁこいつらを地獄に叩き落とせQ-81番!」
涎を垂らして叫ぶ男の顎に、メリッサは拳を振り落として気絶させ、これ以上の指示を止める。
シャムはそんなメリッサを庇うように前に立ち、迫り来る獣、イルマに立ちふさがった。
「イルマさん……」
変わり果てた恩人を前に、シャムは片手に持っていた銃を再度握りしめ、目の前の獣へそれを向ける。
獣となったイルマは、身体中から蛸のような触手を無尽蔵に伸ばし、部屋中を覆う。
ある程度の広さがあったモニタールームも、あっという間に触手に包まれると狭さすら感じる。
このまま圧殺するつもりなのか、獣は侵入してきた壁の穴までも塞ぎ、触手はじわじわとシャムとメリッサがいる方向へと這っていく。
「メリッサはそいつを抑えてて!」
そう言ってシャムは本体である獣へと駆ける。
獣は触手を無作為に伸ばしながら、本体である体を部屋の天井近くへと寄せていく。
シャムは走りながらその本体に向かい、銃弾を乱発した。
だが、獣は身体中の触手を新たに伸ばし、触手を網目状に形成して銃弾の雨を防ぐ。
さらに、網目状の触手はそのままシャムを絡め取るために襲ってきた。
「甘いよ」
シャムは空いていた左手を横へ伸ばすと、左腕を中心に、青い炎に包まれた球体が八つ浮かぶ。
炎の球体のうち一つがシャムの手のひらに収まると、シャムはそれを力一杯握りつぶした。
すると、握りつぶした指の間から、木の根が破裂するが如く生えてきた。
シャムはそれを床に叩きつけると、成長を続ける木の根が床を這い、壁を伝い、部屋を覆っていた触手ごと上から押さえつける。
シャムを襲う網目状の触手すら床を這っていた木の根が飛び出し、壁際へと無理やり押さえつける。
部屋中を侵食しつつあった触手はその動きを止め、メリッサの近くまで這って来ていた触手も木の根に侵攻を防がれた。
体から触手を伸ばしていた獣はシャムが発現させた木の根によって逆に拘束される形になったが、体からは新たに触手を発生させる。
新たに伸びてきた触手は今度はシャムに目標を絞り、
「まだまだぁ!」
シャムは再び炎の球体を呼び出し、残り七つのうち一つを握りつぶす。
今度は見えない斬撃が暴風のように部屋中を暴れ回り、襲いくる触手を次々と切り払う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます