名無しの猫 p.3
人気が一切ない深夜、シャム達四人は街の端にある海沿いに来ていた。
巨大な排水口からは大量の水が流し出されており、四人はその光景を眺める。
「ね、ねぇ。この水、ちゃんと洗浄されてるんだよね? 侵入する水路って雨水の水路? それとも汚水の水路だっけ?」
シャムは目の前の排水口から放流される大量の水を見ながら眉を潜ませる。
海に放出される水は全て下水処理されているとはいえ、抵抗感がなくなることはない。
任務前に水路の図面は目を通してはいるが、シャムは現実逃避のために一部の記憶を抹消していた。
『混ざってると思うぜぇ、この水にはいろんな奴らのウン――』
「黙りなさいルーズ」
メリッサは余計な口を挟もうとするルーズを拳で叩く。
いつもよりほんのりツッコミの加減が強く、メリッサの動揺が窺えた。
「テメェら下々の悩みなんざ些事だ。さっさと行け」
ジークは後方で腕組みをしてふんぞり返っている。
その様子を疎ましく思うシャムは手を腰に当ててギリギリと歯を鳴らす。
「出口で待機だからって好き勝手言わないでよぉ」
シャムの抗議にジークは我関せずと鼻息一つで一蹴する。
「……」
一連の流れを静観しているリーエンは、黙してジークを観察し、視線に気づいたジークはギラリとした瞳の焦点をリーエンへ合わせる。
「あ? なんか文句でもあんのか?」
「……べつに」
リーエンはそう言いつつも、そこはかとない苛立ちを出しているとシャムは感じた。
妙な空気を察知し、シャムはパンと両手を叩く。
「と、取りあえず突入の前に作戦概要お願いしますジーク隊長!」
取り繕うシャムにジークは面倒そうに懐から取り出した小さな端末を地面に放ると、四人の間に落ちたそれがホログラムを映し出す。
それは下水路の図面を映し出し、下水路の中腹あたりに赤い点が大量に点在していた。
ジークはホログラムを参照しながら任務内容をチームへと再度共有する。
「分かってる通り、今回の目標は下水路に潜んでる機関の残党の確保及び獣の討伐だ。地形の性質上俺様はこの出入り口で待機し、取りこぼした獣の討伐や機関残党を取り押さえる。お前ら三人で潜入して隠れてる奴らを炙り出せ」
「ジークが入っちゃうと施設が壊れて生き埋めになっちゃうもんね、私達」
うんうんと首を縦に振りながら言うシャムにジークは「テメェに言われたくねぇ」とツッコミつつ端末をしまう。
「侵入後、獣と接敵したら異界の展開を開始しろ。異界にさえ閉じ込めれば万一奴らを逃がすこともなくなる」
話は以上だと言わんばかりにジークは腕を組む。
「潜入を開始しろ」
「「「
ジークの合図にメリッサ、リーエン、シャムの三人は排水口へと歩き出し、任務が開始された。
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