銃士達の邂逅 p.13

「詳細は追って伝える。解散」


 机の前に座りまた飲酒を始めたヴィクセントは、しっしと動物を追いやるかのように手のひらでメリッサ達を追い出す。


 四人が退出しようとすると、「おいメリッサ」とヴィクセントが呼び止める。


「何?」


 メリッサ以外の三人は先に出てしまい、メリッサだけが執務室の入口でヴィクセントへ肩越しで振り向く。


「アビス。乱入して来た獣が死に際にそう言ったんだよな」

「えぇ。いい加減それが何なのか分かったの?」

「まだ調査中だ。何かわかり次第、全隊員に通達する」


 ヴィクセントは顎髭を摩りながら応じ、酒を飲み続ける。

 もう用はないと判断し、メリッサは執務室を後にして廊下を歩く。

 アビスという言葉と共にまたしても昔の光景が頭の中で広がる。


 赤い髪の男が炎の中からメリッサに向かって満面の笑みを浮かべて言い放つ。


死の淵アビスが来るぞ」


 手は自然と腰裏に吊った銃へと伸び、ホルスターから抜き取る。

 黒光りするその銃は大きく、重く、近づく者をすり潰すような威圧感さえある。


 未だ脳裏をよぎるあの光景が、メリッサの中で恨み、憎しみ、後悔、怒り、様々な感情を芽生えさせ、体が小さく震えだす。


 すると、銃の隙間が小さく緑色に発光し、ルーズが何かを言おうとしているのを知らせる。


『ケハハ! 結局他人と群れて行動しねーといけねーみたいだな。良かったなぁメリッサちゃんよぉ!』

「……」


 いつものように冷やかすルーズだが、メリッサは一言も返さず、代わりに凍るような殺気を返す。


『ん、んだよ。連れねぇな』


 いつもと様子が違うメリッサにルーズは戸惑うが、メリッサの知ったことではない。

 渦巻く感情を胸に秘めながら、メリッサは廊下を歩き出す。



 訓練所での任務から一月後、メリッサ達四人は指定された街へと飛ばされていた。


 朝霜が流れて人気のない通りに立ち、組織によって手配された空き家を眺める。


「喫茶店を装ってこの街周辺の獣を殲滅、及び本部から降りてくる任務の遂行を一年か。恨むぜヴィン」


 ジークは肩を震わせ、忌々しそうに目の前の空き家を睨む。

 二階建ての空き家に、組織から手配された者達によって荷物が次々と運び込まれていく。


 その様子を、シャムは目を輝かせ、リーエンは興味なさげに眺める。


「わぁ、リーエンリーエン、喫茶店だって。私バイトてしたことないからすごく楽しみだなぁ」

「そうか」


 適当に応じるリーエンだが、それでもシャムは嬉しいらしく喋り続ける。

 三者三様の反応を遠巻きに見ながら、メリッサは深いため息を吐く。


『なんだなんだメリッサ。辺境の地へ飛ばさてへこんでるのか?』


 楽しそうにするルーズに図星を突かれ、メリッサは腰に手を当て天を仰ぐ。


「動揺もするわよ。こんな所より前線に居続けたい」

『しかもお前の大っ嫌いな団体行動強いられてるもんなぁ。で、まだアイツ等が死んじゃうんじゃないかってビビってんの?』


 メリッサは無駄口を止めないルーズを、ホルスターから抜き出してデコピンする。


『あいたっ!』

「いちいちうるさいのよアナタは……あの三人は、これから見定める」


 メリッサはルーズを無理矢理黙らせるとそのままホルスターに戻し、ちらりと三人へ視線を移す。


 メリッサと共に訓練を終えた同期のほとんどは既に任務で命を落とし、残ったのはここにいる四名のみ。


 獣との戦いは常に死と隣り合わせにあり、メリッサはこれまで何人もの死を見て、その度に獣への憎悪を膨らませ、仲間との距離を遠ざけてきた。


 ふと、一月前に訓練施設でジークが言った台詞が思い出される。

 信用する必要はない。ただ、全員が獣への復讐のために獣を殺す銃弾になれれば良い。


「しばらくは手を貸すわよ」


 ぽつりとメリッサはそう呟き、四人の長期任務はひっそりと幕を上げた。

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