銃士達の邂逅 p.12
宙でアメーバ型の
地面へ着地する瞬間に受け身を取り、周囲を見渡すと、リーエンとシャムの近くに着地していた。
「ぐっ!」
扱い切れていない術を再度発動させた反動で、メリッサの片足はやはり火傷していた。
だが、今度こそターゲットを討伐できたとメリッサは確信する。
「これで終いか」
少し後方からジークも合流し、今度こそ仕留めた獣の亡骸を睨む。
「ァ……アァ……」
うめき声が一つ上がった。
さらに警戒を強めた四人は避雷針に突き刺さったままの獣の
だが、獣は明らかに命の灯火が尽きかけようとしており、虚ろな瞳でメリッサ達を見やる。
「ァ……アビス、が……来る――」
それだけ言い残すと獣は瞳を閉じ、避雷針から落ちて物言わぬ殻となった。
「アビス? 何の事だ?」
ジークは眉を潜めて疑問を投げるが、それを知る獣は応えない。
「駄目。もう死んじゃったみたい」
シャムは避雷針の近くで身をかがめて獣の様子を見て首を横に振った。
「……アビス……っ!」
メリッサはぽつりと獣が放った言葉を反芻すると、記憶の中に眠る炎と赤い髪の男の光景がまたしても脳裏をよぎり、拳を強く握る。
『……』
いつもならルーズが茶化してくるタイミングだが、さきほどから何故か沈黙を保つ。
「まぁ良い。当初の予定とは違ったが、おそらくこいつが近場の獣を全て狩り尽くしてたんだろ。任務完了だ」
ふぅ、とジークが警戒を解くと、それに続いてリーエンも肩の力を抜き、シャムは身を丸めて喜びを貯める。
「いやったあああ!」
両手を大きく広げて飛び上がり、花火のように嬉しさを爆発させたシャムだが、片腕が勢い余って避雷針にぶつかる。
獣が避雷針にめり込んだ衝撃で既にヒビが入っていた事、シャムが追い打ちでぶつかった事が致命打となった。
ヒビは一気に広がり、獣と人間の骨で出来た避雷針は中腹からぽっきり折れ、ゆっくりと地面に落ちた。
「「「「……あ」」」」
その様を見た四人は間の抜けた声を上げる。
「はー、なんでこうも妙な展開になるんだろうな」
ヴィクセントは執務室で腕を組んで立ち、とんとんと指で己の腕を叩く。
ヴィクセントの前にメリッサ、ジーク、リーエン、シャムの四人が横に並んで立ち、今回の任務の総評が言い渡されるのを待つ。
「小規模とはいえ、幾つかの地域で獣の深化スピードの加速と活動範囲の拡大が観測され、今回の作戦区域もその影響化となっていた。
同時に、当初ターゲットとしていた獣が乱入してきた新種の獣によって全滅、それをお前らが撃退。その後、防衛対象である避雷針を自らの手で倒壊させた、と」
ざっくりと本任務の経緯をまとめあげたヴィクセントだが、それを聞いてシャムが床に膝を落として泣き叫ぶ。
「ごめんなさいぃぃ!」
涙と鼻水を垂れ流してワンワン泣くが、ジークは鬱陶しげに片耳を小指で塞ぎ、メリッサはその様を眺めるだけ、リーエンは視線すら投げない。
「盛り上がると周りが見えなくなる癖が祟ったな。とはいえ、乱入した獣の件は観測出来なかったこっちの落ち度だ。ハプニングへの適切な対応も評価するべきだが、そもそもの防衛対象を自分で壊すとなっちゃなぁ……」
判断に迷うヴィクセントと引き続き泣きわめくシャム。
見かねたメリッサは一歩前に出た。
「そもそも今回の任務はチームプレーの質を見るのが目的なんでしょ? なら、場を乱した私以外は条件を満たしているわ」
そうメリッサが提言すると、シャムががしりとメリッサの腰に抱きつく。
「そんな事ないよぉ! メリッサ戻ってきてくれたし、やらかしたの私だしぃ!」
おいおいと泣くシャムをメリッサは引き剥がそうとするも、想像以上の力で腰を掴まれ、なかなか振りほどけない。
「何テメェらで騒いでやがる。隊員の落ち度は俺様の物だ」
ジークも続いて提言するが、上司であるはずのヴィクセントに大層な態度で腰に手を当ててふんぞり返る。
「だが俺様の活躍は全ての汚点を帳消しにするには十分のはずだろ。崇めろ、ヴィン」
「さすがは我らが王だな。態度だけは満点だ」
「ア?」
リーエンがぽつりと呟き、ジークのこめかみに血管が浮かぶ。
言葉だけを聞くと他愛のない皮肉に聞こえるが、メリッサはリーエンの声の中に微かな苛立ちと殺気を感じた。
時折リーエンがジークに向ける殺気について思案するが、ヴィクセントの咳払いがそれを阻害した。
「まぁ、確かに今回はチームプレーを見定めるのが主旨だ。ジーク、リーエン、シャムは連携をとり続けたと評価できるだろう。メリッサは、そうだな……」
ボリボリと頭をかき、ヴィクセントは言葉を探す。
「問題はあったが、最終的には手を貸した。今もチームのために自分で責任を背負おうとしてやがる……ふむ、分かった」
パンと手を叩き、応えに行き着いた様子でニヤリと笑う。
「結論だ。任務は失敗、課題は合格だ。延長戦を言い渡す」
予想外の解答を言い渡され、四人は沈黙した。
「……延長戦?」
言葉の意味を理解出来ず、メリッサは訝しげにヴィクセントを睨んだ。
「お前らチームとして今後も行動しろ。それから長期駐留の任務をやってもらう。期間は一年。駐留地での任務完遂を迎えたら合格とする」
一人で納得して嬉しげに言うヴィクセントだが、ジークは「ハァ?」と疑問の声を上げた。
「なんでこいつらと組まなきゃなんねーんだよ」
「そりゃお前らどのチームに入ってもやってけねーだろ。一応の連携は今回で見せたんだ。一度この四人で活動してみろ」
突然のチーム結成どころか長期任務を言い渡され、メリッサは内心戸惑う。
チラリとリーエンへ視線を移すと、いつもは無表情のリーエンが、ほんの少しだけ怪しく笑みを浮かべ、ジークの背中を睨みつけている。
声をかけようとしたが、未だ腰にまとわりつくシャムがさらに力強く抱きしめてくる。
「やったねメリッサ、同じチームだ!」
「いい加減離れなさい」
メリッサとシャムが騒ぎ、ジークは不満げに目をひくつかせ、リーエンは無言で拳を強く握りしめていた。
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