銃士達の邂逅 p.6

 避雷針が今頃こちらに向かってきている事を把握しつつ、メリッサは森の中を駆ける。


 森の中で一際高い木を発見し、メリッサは体内を巡るエネルギー、"渦"を身体強化に回し、超人的な身体能力を得て飛ぶ。


 五メートル近く上へ軽々とジャンプし、枝を踏み台にしてあっという間に木の頂上へと登る。


 辺り周辺を見渡し、後方に訓練施設があることを確認すると、前方から飛んでくる飛翔体を目で捉える。


 予定通り、人骨と獣の骨で出来た槍、避雷針リードランスはメリッサの頭上を過ぎると訓練施設の近くへと飛んでいき、大きな音を立てて地表に刺さったことを知らせる。


 すると、避雷針が刺さった方角から紫色の柱が一本、天空に向かって伸びた。


 青色の空が紫色に塗り替えられ、その範囲はメリッサがいる地点をも通り越し、施設を中心に半径二キロほどを覆い尽くした。


 異界が展開されたことを確認し、メリッサは周辺の気配を探る。


『へ、相も変わらず単独プレー噛ましちゃって大丈夫なのかよメリッサ?』


 集中して獣を探索しているにも関わらず、ルーズは遠慮無くメリッサに話しかけてきた。


「良いのよ別に。獣を討伐することが任務達成条件なんだから、過程なんてどうでも良い」


 メリッサはルーズに適当に返事をしつつ、森を形成する木々や自然の動きを観察する。


 実践で積んだ経験と訓練時代の鍛錬で得た技量で、メリッサは少し遠くの木々が不自然に揺らぐのを見逃さない。


「あそこね」


 目標を捉え、上っていた木から飛び降り、ターゲットに向かって一直線に走り出した。



 避雷針が異界を展開した後、シャムはジークから通信を受けていた。


「えぇ!? メリッサがどっか行っちゃったの?」


 シャムは訓練施設のすぐ外、β地点から少し離れた所であたふたと通信機に向かって叫ぶ。

 リーエンはその様子を後ろで眺めていた。


『あぁ、お前達は避雷針の防衛に周れ。俺様はメリッサを探しにいく』


 そう言い残してジークは一方的に通信を切った。


 ターゲットの数がどの程度になるのか不明の中、シャム達はジーク達が担当していたα地点へ向かう必要がある。


 だが、今から行って防衛に間に合うのかは分からない。


「どどど、どうしようリーエン!」


 シャムはあわあわと口を震わせてリーエンにしがみつくが、リーエンは他人事のように無表情を貫く。


「大変そうだな」

「うぅ! リーエンは協力してくれるよね! 他の任務は放棄したって聞いたけど、私達同期だよね、見捨てないよね!」


 シャムはリーエンの肩を掴んでぶんぶんと揺らすが、リーエンはそれでも表情を崩さない。

 内心の不安がさらに膨らみ、シャムは肩をふるわせると、リーエンがため息を一つ吐く。


「……今回は手を貸すさ」

「え、本当!?」


 まさか本当に協力してくれるとは思わず、シャムはリーエンの顔をまじまじと覗き込む。


「べつに。あの王様気取りを近くで観察する良いチャンスだと思っただけだ」


 淡々と応えるリーエンだが、シャムは一瞬だけ背筋が凍るほどの殺気を感じ取った。


「え……えと、それってジークのこと?」


 そう問いかけるが、リーエンが視線をシャムから別の場所へと向け、シャムもつられて後方を振り向く。


 視線の先で広がる森の間から、緑色の物体がもぞもぞと這い出てきた。


 緑色の液体で出来た身体は不規則に変形し続け、体内にはここに来るまで取り込んだらしい動植物の死骸が浮かんでおり、順次溶かされていく。


 シャムとリーエンはその獣の形状からアメーバを連想した。

 二人は互いのホルスターから銃を取り出し、構える。


「アレ、明らかにターゲットの獣じゃないよね」

「あぁ、それにこの周辺で観測されてる獣達のプロファイルにこのタイプの獣はいなかったはずだ」


 シャムは目の前の獣から異質な雰囲気を感じ取っていた。


 すると、アメーバ型の体内に捕らわれた動物達の中に、ブリーフィングで見た獣の死骸が浮かんでいるのを目撃した。


「リーエン、あれって……」

「間違いなくターゲットだな。群れで動く習性を持ってる奴らだったと考えると、既に全滅した可能性もある」


 警戒する二人とアメーバ型はしばらく対峙する。


 アメーバ状の獣は体内に人間の頭とおぼしき物体を一つ浮かばせており、その頭に着いた両目がしっかりとシャムとリーエンを捉える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る