夜空の子守歌 p.12
「あはははは! これで一つ!」
串刺し状態のシャムを天高く持ち上げ、アイナは笑う。
髪の槍で吊されたシャムは口から大量の血を吐き出すと、持っていた銃を落とし、体全体から力が抜けたようにダランと手足を垂らす。
アイナはそのまま槍を振るい、死体となったシャムの体をゴミのように遠くへと投げた。
「お前!」
メリッサは冷静だった表情から一変し、明らかな怒りの表情を露わにする。
「あとは貴方だけですよ!」
さきほどメリッサが散らした髪は再生され、二本の髪の槍がメリッサを襲う。
メリッサは襲い来る槍の猛攻を、身を翻して躱しつつ、弾を補充しては隙を見て弾丸をたたき込む。
だが、いずれの攻撃も、アイナが操っている残りの髪の壁によって全て相殺されてしまう。
『ちくしょう! ちょうどマガジン一個分であの髪の壁が崩れるか!』
ルーズが歯がゆそうに言い、メリッサもマガジンを術で補充しながら同意する。
この蜘蛛女の髪は銃弾で崩せるが、あと一歩手数が足りない。
あの髪の壁を壊した後に攻撃を通さなくてはあの獣にろくに痛手を与えることが出来ない。
メリッサは槍の乱舞を飛んで躱すと、銃を左手に持ち、右手を後ろに下げる。
「私の邪術で、こじ開ける」
そう呟くと、メリッサはアイナに向かって一直線に走った。
『おいおいお前まだ邪術扱いきれないだろ!』
ルーズは焦った様子でメリッサに忠告するが、メリッサはそれを無視。
「血迷いましたね!」
アイナは二本の槍を鞭のように操り、突進してくるメリッサを迎え撃つ。
銃弾は最後の詰めのために温存する必要がある。
縦横無尽に襲い来る槍を、メリッサは一切迎撃することなく、体一つで避け続ける。
だが、流石の攻撃の数を前に、体の端々に切り傷が幾つも刻まれていく。
「ぐっ!」
致命傷だけは避けるために猛攻を避け続け、その間、何も握っていないメリッサの右手が赤く輝き始める。
その輝きは時間が経つに連れて輝きを増していった。
最後に槍の突きを飛んで躱すと、それを踏み台にしてアイナの目の前へと飛翔する。
「無駄です!」
メリッサとアイナの間に髪の壁が出現し、接近を阻んだ。
「っ!」
息を短く吐き、メリッサは右拳を強く大きく振りかぶり、壁に向かって振り落とす。
赤く輝いていた拳はいつしか炎へと変化し、炎を纏った拳が髪の壁に当たると同時、強烈な爆発が巻き起こる。
「ぐ、うぅあああ!」
爆炎は壁を貫いてアイナの顔を焼くが、その強烈な攻撃はメリッサの右腕をも巻き込む。
「く――っ!」
あまりの衝撃にメリッサの右腕の感覚を奪い、扱いきれない炎の熱が追い打ちのようにロングコートの右袖を焼き払い、腕全体を焦がす。
だが、道は開かれた。
メリッサは宙で眼前のアイナに向かって、左手で握った銃を向けた。
「食らいなさい」
怒気のこもった声と共に、銃弾が何発も放たれた。
弾はアイナの腹、胸、肩、左目、と何発も打ち込まれていく、そのたびにアイナは体を仰け反らせる。
「ぎぃぃ! ふざけるなぁ!」
止まない銃弾の雨に向かって、アイナは破れかぶれに髪の槍を振るった。
だが、それは運悪く宙で身動きの取れないメリッサへの直撃コースとなり、槍の先端がメリッサを襲う。
「くっ!」
もう一度炎の邪術を試みるメリッサだったが、槍とメリッサの間に入ってきた人影がそれを止めた。
「ど、りゃああああ!」
間の抜けた、しかし気合いの入った声と共に、髪の槍が割り込んできた人物に蹴り上げられ、明後日の方向へと飛んでいく。
髪の槍を蹴り飛ばしたのは、栗色の髪を揺らし、胸部分に大穴を開けた服を着た少女だった。
「シャム!」
「お前は死んだはずだ!」
メリッサが叫び、アイナは絶望の声を上げる。
「仕留めるよメリッサ!」
シャムは拾っていた銃を構え、メリッサも着地と同時にアイナへと銃口を向ける。
「なぜだなぜだなぜだぁ!」
アイナが拒絶の叫びを上げるが、メリッサは見向きもしない。
「これが貴方へ送る賛美歌よ」
メリッサとシャムの銃撃が、辺り一帯に奏でられていく。
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