夜空の子守歌 p.9

 リーエンとの通信を一旦切り上げ、ジークはメリッサとシャムの前を走りつつ、周辺の様子を探る。

 三人が走っているのは街の大通りのど真ん中。

 道の両端には店や家が並んでいるが、異界内の空が紫色に染められているからか、不気味な雰囲気が街を彩る。

 周辺を警戒しながら走っていると、メリッサの腰に吊っていたルーズが点滅する。


『お、くるぞー!』


 ルーズが陽気に叫ぶと、三人が走る進行方向上に紫色の靄をかきわけるように、ぞろぞろと人が歩いてきた。

 いずれの姿も人間のそれだが、全員がどこか虚空を見ており、正気を失っている事は明らかだった。


「うるせぇぞ銃、いちいち叫ぶんじゃねぇ」


 ジークは煩わしい様子でメリッサが握るルーズを横目で睨みつつ、己の銃を取り出す。

 メリッサと全く同じ形をした銃だが、ルーズのように喋る事は一切ない。

 続いてメリッサ、シャムもそれぞれの銃を構える。

 前方をジーク、左をメリッサ、右をシャムが警戒した。

 すると、メリッサが睨んでいた家の屋根から人影が飛び出す。

 人間体のそれは宙で体を複雑に変形させ、腕が六本の蜘蛛を形取った化物へと変身した。

 メリッサはためらわず銃口の照準を化物に合わせ、引き金を引く。

 空気を震わせるほどの銃声が響く。

 ただのハンドガンでは発揮されないはずの威力と衝撃が弾丸に込められ、音速を超えた弾が飛ぶ。

 弾丸は寸分違わず化物の胸に直撃すると、化物はあまりの衝撃に飛んだ方向とは逆に吹き飛ばされ、屋根に激突する。


「獣を確認。まだ来るわよ」


 そうメリッサが言うと同時、シャム側の屋根からも、人間体の化物、”獣”が現れ、一斉に駆け出す。


「鬱陶しい」

「迎え撃とう!」


 ジークとシャムも発砲を開始し、戦闘が本格的に開始された。

 互いに背中を預け、互いの死角を補うように陣形を組む。

 三人の銃は襲い来る獣達の雄叫びをも覆うほどの銃声を轟かせ、獣達を次々となぎ倒していく。

 しかし獣の勢いはとどまらず、三人は何度も発砲し応戦するも、弾切れはもちろん起こる。

 メリッサが十六発目を発砲すると、銃底からマガジンが自動的に飛び出る。

 だが、マガジンはそのまま銃からこぼれ落ちることなく、銃底から半分ほど姿を晒してとどまる。

 メリッサは飛び出たマガジンに手で触れるとマガジンの側面に五芒星の模様が浮かび上がる。

 キン、と澄んだ音が鳴り、メリッサはマガジンを銃へと叩き戻す。

 弾切れを起こしていたはずの銃は装填を完了し、メリッサの発砲が再開。

 ジークとシャムも押し寄せる獣に応戦しつつ、要所要所でメリッサと同じ行程で弾丸の補充を行う。

 止むことのないメリッサ達の猛攻を前に、獣達は接近することすら許されなかった。

 だが、逆に獣達の数も衰えを見せる事無く、獣の群れの後方から次々とあふれてくる。


「チッ、消耗戦を仕掛ける気か」

「そんな事になったらこっちの”渦”が尽きて弾の補充も邪術も使えなっちゃうよ!」


 状況を整理するジークにシャムは注意を促す。


「分かってる。雑魚共の処理は俺様がやる。俺様の邪術が発動したらテメェら二人は本丸を捜しに行け」


 ジークはそう言って一歩前に出る。

 一人だけ陣形を崩して前に出たからか、獣達の注意が一斉にジークに向くが、ジークはそんな事も気にも止めず、拳を振り上げる。


「うらああああ!」


 咆哮が一つ。

 同時に、振り落とされたジークの拳が地面を叩くと、地面に激震が走り、亀裂が大通りを駆け抜け、辺りの建物をも揺るがし、まるで見えない力によって、建物の一部が砕ける。

 建物に上っていた獣はバランスを崩して倒れ、大通りからメリッサ達へ直進していた獣数体がジークによって作られた地割れの中へと飲まれていった。


『ケハハ! さすが破壊王の邪術だなぁ!』

「うるせぇぞ銃。テメェらさっさと行け」


 まるでハエを追い払うかのようにジークは右手を払う。


了解コピー

了解コピーだよ!」


 ぞんざいな態度は今に始まったことではないが、これでもジークはチームの得手不得手を熟知した上で指示を下していることはメリッサも把握している。

 索敵と隠密が得意なリーエンは異界の出入り口付近で敵の増援の警戒、ジークは多対一に長けていることから周辺の獣を相手にする。

 どの状況にも臨機応変にサポートへ回れるシャムは一対一を得意とするメリッサと共に本丸を叩く。

 メリッサとシャムは、ジークが作った地割れに沿って大通りを直進し、態勢の崩れた獣達を撃ち抜きながら進撃する。

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