夜空の子守歌 p.4
「……暇じゃねぇか」
晴れた空を野獣のような眼光で睨みながら、男が一人、フードトラックの横につけたベンチに座ってぼやく。
男の金色の髪はライオンのように逆立ち、鍛え上げられた肉体は男が着ているタンクトップとジョガーパンツによって、筋肉がさらに盛り上がって見える。
着用しているエプロンは男のサイズに合わず今にもはち切れそうになっており、あまりのミスマッチに、それを見た者はつい笑ってしまうだろう。
だが、男がいる噴水広場には人はおろか犬の一匹も徘徊していなかった。
男が睨みを効かせていると、トラックの中から人が一人出てくる。
「ジーク。ただでさえ酷い顔を余計に醜くくしたら、来る客も来なくなる」
トラックから出てきた人物に、男ジークは、「アァ?」と他者から見れば震え上がるほどの殺気を帯びた表情で睨む。
「てめぇは車の中で緩んでんじゃねぇぞ、リーエン」
車から降りてきた人物、リーエンは、大の大人でも震え上がるであろうジークの修羅のような顔に臆することなく、さらりと流す。
リーエンは背中まで伸びた髪を一つに結い、低めの身長からどこか幼さを感じさせつつも、落ち着いた口調や態度から、実際の年齢は見た目以上に高い事はわかる。
ただ、分からない事といえば性別だろうか。
男とも女とも捉えられる顔と体型、声も女性としてはハスキー、男性としてはキーが高めに聞こえ、初対面ではすぐに判別することは難しい。
リーエンはジークと同じデザインのエプロンの下に長袖のTシャツとハーフパンツを着用し、性別の分かりずらさに拍車をかけていた。
「こんなにも人がいないんじゃ、商売上がったりだ。今日は引き上げる事も視野に入れた方が良いかもしれない」
冷静に状況を分析するリーエンだが、ジークは「ふん」と気に食わない様子で鼻息一つ吐く。
「なんの成果も得られず帰れるか。俺様に退却の文字は存在しない」
ふんぞり返って腕を組み、ジークは誰もいない広場を凝視する。
リーエンは横目でジークの態度を見て肩を竦める。
「せいぜい頑張るがいいさ。私は今日の売り上げは赤字になると賭けるよ、王様」
皮肉で答えるリーエンにジークは頭に血管を浮かべるほど苛立ち、ぎぎぎ、と顔をリーエンに向けると、少し遠くで誰かが歩いている様子が見えた。
「おい、獲物がいるぞ」
「何が獲物だ、客の候補だ」
静かに諭すリーエンと、変わらず睨みを効かせるジーク。
「ならあの客候補を連れてこい。もてなしてやる」
睨みだけで人を殺しそうな眼光でジークはトラック内の厨房へと向かう。
「……ふぅ」
リーエンは手で顔を覆い、指の隙間からトラックに入っていくジークを睨む。
「失望させないでくれよ王様」
誰にも聞こえないほど小さく呟き、リーエンは遠くに見える男性に向かって歩いて行く。
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