第2話 雪の日に
雪は午前中から降り続いていたが、午後になり降る雪の量が増えてきた。
こうも辺り一面が真っ白になるほど雪が降り積もると、太平洋側の平野部にあるこの街の交通機関は混乱する。それは現在、私が運転する車も例外ではなくて、雪が降り積もるなかテイルランプが並ぶ県道も、ノロノロ運転を強いられている。
雪のおかげで取引先とのやり取りができなくなり、職場の上司の判断でお昼過ぎに帰宅するように指示をされ、雪の中帰路についた。しかし、年に数回しか雪が降ることのないこの地方で、十年に一度くらいの靴が埋まりそうなほど雪が積もれば、ノーマルタイヤで普段雪道に慣れていない私を含めたドライバー達はゆっくりと車を進めるしかない。
そんな雪が降り積もるなかを、私は雪にハンドルを取られながらも前の車が作る轍(わだち)の上を外れないように車を進めていく。
時々、タイヤが空回りをして車が進んでいないのに速度メーターは六十キロを示し、そしてタイヤが凍りつきかけた路面を捉えると、車体はあらぬ郷校へ進もうとする。それを必死にハンドルを握り、冷や冷やしながら車体を制御する。
赤信号で停まると、歩道を歩く人々は降り積もった雪に足を取られて歩きにくそう。
降り積もる雪は時々ワイパーの動きを止め、その度に傘を使い原因の雪を取り除く。
「はぁ、寒い。チェーン乗っけておけば良かったな」
まったく、こんなに雪が積もるとは思ってもみなかったのに……。
昨日の天気予報では雪は降ったとしても昼には雨に変わるという事だったのだけど、でも現在は見たわす限りの雪景色が広がっている。しかも、雪の降る勢いは増しているように感じるのは気のせいだろうか?
点けているカーラジオからは鉄道のダイヤが混乱している事、高速道路の通告止めにと、雪に慣れていない地域が雪に踊らされている様子が流れている。
そして、この私も雪に踊らされている一人だったりするのだけど。
「これだけ積もっちゃうと明日の朝までには融けないだろうなぁ。という事は、明日の朝はいつも以上に早く家を出ないといけないのか……」
明日の道路状況にもよるけれど、雪が残っているとなるとチェーンもタイヤに付けないとだし、明日はいつもより一時間は早く起きないと遅刻するかもしれない。
そう考えてしまうと、少しだけ憂鬱な気分になってしまう。
「早く止んでくれー、雪―」
車中でそう言ったところで雪が止むわけもなく、憎たらしい空から降る白い厄介なものは降り続いた。
ようやく自宅の近くまで来た時には辺りは薄暗くなっていた。
できるだけ交通量の多い道を選んで帰ってきたらから自分の車が立ち往生する事はなかったけれど、途中立ち往生している車があったから押してあげた。
こういう時にこそ助け合いが大事だと思うから。
しかし、車庫の前まで来て、もう大丈夫と安堵した瞬間にタイヤが空回りしてしまう。
『ここでかぁ』という思いのあとで、『家の車庫の前で良かった』という思いを懐いた。
とりあえずエンジンを止めて外に出ると、車庫から雪の付いたスコップを取りに行き、それからタイヤの周辺を雪かきする。家の前の道は交通量が少なく、降り積もった雪がそのままで深さが十センチ以上になっていた。
「お父さん、お帰りなさい」
完全防寒装備姿の妻が赤い雪かきを持って現れた。
「門の辺りは雪かきしたんだけど、こっちはまだしてなかったの」
「そうなんだ。それにしても君の格好、温かそうだね」
そう言うと、妻はニコっと笑って雪かきを手伝ってくれた。
車を車庫にしまうと、私は防寒装備に着替える。そして明日の朝のために、家の前の道の雪かきを始める。やり始めの時は冷えていた体も、しばらく続けると体はポカポカしてきます。
「疲れたぁ」
道の半分の雪を端にどけた頃、うちの子供たちと近所の子供たちが近所の畑で雪合戦を始めた。そして、その光景に私はこう思ってしまった。
『こっちは雪と格闘して疲れているのに、子供は気楽に遊んでいいな』と。
でも、雪かきをしながら子供たちが楽しそうに雪遊びをしている様子を見ていて思い出した。
私も子供の頃は友達とこうやって雪が積もったら遊んでいた事を。しかも、年に数回しか降らない雪なものだから、『たくさん雪が積もればいいなぁ』と願っていた事もある。
いつからだろうか、雪が楽しいだけのじゃあなくなったのは。
雪かきをしながら考えてみるけれど、その答えは出なかった。
あんなに楽しかったはずの雪の日が、いつから困るようになったのだろう。
子供たちは目いっぱい楽しそうに雪と戯(たわ)れている。
でもまあ、ああやって子供たちが楽しそうに遊んでいる姿を見ているのも悪くない気もする。だって、まだあれより小さいかった頃は雪の上に立っているだけで心配だったのに、雪の上であんなに元気に走り回れるだけ成長したんだ。
こういう新しい発見できるのなら、雪の日も悪くない。
~終わり~
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