一応もういちどシャワーを浴びて、椅子に座る。さっきの、置いてあった無地の服を着た。

 まだ、腰のあたりが暖かい。


「ね、どう?」


 急に彼女が、後ろから自分の耳をかじってきた。


「ん。普通」


「普通かあ」


 自分で買った、無地の服。彼女のものと、同じやつ。


「まだ腰が変な感じ」


「上に乗る側の宿命ですね。もぐもぐ」


「耳をあむあむするか喋るか、どちらかにしなさい」


「もぐもぐ」


「あ、食べるの優先なのね」


「その服」


「ん?」


「いい色してるよ」


「いい色?」


 あなた色が分からないでしょ。


「ううん。分かるの。わたし。あなたよりも、見える色の数が多いのよ」


 へえ。そうなんだ。知らなかった。


「あなたには無地に見えているその服も、わたしにとっては、綺麗な柄の、綺麗な服なの」


「耳を食べながら言われてもなあ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る