第7話 デスゲーム開始

「これからデスゲームを開始する」


その一言が発されてから30秒が経過しようとしていた。死の宣告を待つデスゲーム参加者にとっては長すぎる間。決して怖がらせようという意図があるわけではなく、次の言葉に詰まっているだけなのだが、この場の誰も僕を信じてはくれないだろう。


「柴崎蓮司、最初の犠牲者を決定するゲームには何が相応しい?」


仰々しい雰囲気を意識しながら制約「デスゲームの内容を考える」を課した柴崎蓮司に問う。


柴崎蓮司は小柄な男だ。猫背で姿勢が悪いので実際より小柄に見える。後ろ姿しか見えていなかったので気付かなかったがメガネをかけており、目つきも悪い。しかし凶暴な印象は受けず、どちらかといえば偏屈な印象を受ける。


全員の視線は自然に彼に集まることになり、気付けば彼の発言を待つ雰囲気が整い始める。柴崎蓮司からは「なんでいきなり丸投げなんだ」と言わんばかりの視線を感じるが、僕がそれに反応することはなかった。


−すまない、僕の代わりに苦しんでくれ。


デスゲームを開始しなければ僕が制約違反で死ぬのだ。今すぐにデスゲームを開始する必要があった。しかし、デスゲームの内容なんて考える暇はない。デスゲームの内容が決まっていないのにデスゲームが開始される事実に違和感を与えないためには、参加者の制約として「デスゲームの内容を考えること」を組み込む必要があった。


この屁理屈を認めて貰えるかどうかは賭けだったが、18:00を回った現段階で僕が何事もなく生きている事が、この手法が認められたという証明になるだろう。ひとまず自身の制約を守る事が出来たことに安堵しながら、皺寄せに苦しむ柴崎蓮司を複雑な表情で眺める。


「じゃ、じゃあ」


柴崎蓮司は全員から向けられる重圧から逃れたいと言わんばかりに、やっとの事で声をあげる。しかし、自分に発言を許されているのか不安になったのか、それ以降の言葉が続かなかった。言葉遣いは雑ではあったが、小柄な彼は本来気弱な性格なのかもしれない。


「続けてください」


仰々しさとはどんなものか、この緊迫感の中で何度頭の中でシミュレーションしているが、正解が見つからない。考えるたびに間違っているような気がしてくる。しかし、それでもここで助け舟を出さないとゲーム自体が成立しない。これがデスゲームとして成立しなければ、僕の制約自体が成立しない為、どうにか言葉を捻り出した。


「しりとりはどう?」


柴崎蓮司から提案が出る。決してデスゲームに屈していないと言わんばかりの生意気な口調でそう発言する。しりとり。トーナメント制にする必要もなく、誰もが知っているゲーム。人によって出せる単語のジャンルを絞ったり、前の単語との関係性を絞ったり、実際に物を持ってこないと回答と認めないなど派生の方法はいくらでもありそうに思える。


「却下、次」


しかし、僕は即座に却下を言い渡す。もしかしたらゲーム性は面白くできるかもしれないが、過去に出た言葉の利用を禁止した場合、僕は過去に出た単語を全て記憶し、指摘しなければいけない。正直めんどくさいし、それを精密判断できる自信はなかった。審判が公平・正確な判断を下せないのであればゲームは成立しない。


−デスゲームにも審判役とかつけてくれないのかな。


よく聞くデスゲームではそんな仕組みが存在しているものもありそうだが、今回その有無を確認する手段はない。制約を見張っている様子はあるが、このデスゲームの主催者は僕だ。このゲーム内の全てを任されていると考えた方が良い気がする。


「ひどいじゃないか!僕は言われた通り考えた!」

「ではもう一つお願いします。次のアイデアを」


反論はあるが受け入れない。こちらにも事情がある。公正な判断が下されないデスゲームは成立しない。僕の怠惰も否めないが、確実性がなければ実施はできない。しかし、それを説明することでボロが出るリスクも避けたい為、詳しい却下の説明はせず繰り返し却下を伝える。


「なら格ゲーは?」「却下」

「殺し合い」「却下」

「脱出ゲーム」「却下」

「多数決」


提案と却下を繰り返しながらも、なげやり気味に出てきたアイデアに目が止まる。「多数決」。5人という奇数の参加者であることを活かし、多数決を用いたゲームはどうだろうか。少し弄れば面白い気がする。


「デスゲームで多数決をどのように使いますか?」

「順番にお題を出して、多数決で勝ったやつが生き残ればいいんじゃない?」

「却下」

「じゃ多数決で1人だった人が死ぬ」


ありかもしれない。仲間外れ探しゲーム的な感じだろうか。これなら緊迫感を出しながらも筋力による不利などもなく平等に戦えるのではないだろうか。ルール的に問題がないかデスゲーム成立の条件を再度確認する。


・死のリスクを抱え、死を避けるべく、必死に行動していること

・人間の本性を暴くような内容であること

・最後の一人になるまで終わらないこと


一つ目は仲間ハズレ探しで1人になったら死ぬと言われれば頑張るだろう。

二つ目は質問の出し方でどうにでもなるのではないだろうか。

三つ目は段階を追って減らしていけば良いので十分だ。


−いける。


デスゲームの割にはインパクトが弱い気がしたが、最初のゲームなのだ。これで良い。何より早くデスゲームが始まらず、僕の制約が守られていないと判断される方が問題だ。早急に始めたい気持ちを抑え、冷静に、堂々と、息を整えてから主催者らしく話を進める。


「ではデスゲーム一回戦。種目を仲間ハズレ探しとする」


ゲーム種目が決定したにも関わらず、メインルームは静寂に包まれていた。モニターを見ても特にアクションを起こす人はおらず、特に反論もなさそうなのでそのままルール説明に入ることにする。


「このゲームは、誰か1人だけが当てはまらないであろうお題を時計回りで順番に出し、敗者が決定するまで繰り返し実施するものとなります。

 

 1人だけ当てはまらないお題を出すことが出来れば、その当てはまらない1人が敗北、他全員の勝利となり、デスゲーム一回戦が終了します」


簡単にルールを伝える。面白くなかったら理不尽にでも口出しして面白く出来そうなルールを追加すれば良い。デスゲームに巻き込んでいる以上、これ以上に理不尽なこともないだろう。


「質問の内容は特定の人の特徴を指定するのはNGですよね。押忍ッ!」


一瞬語尾についた「押忍ッ」と言う言葉を聞いて、何言っているんだと思ったが、野球部に所属している山崎健二に対し、語尾に「押忍ッ」を付ける制約を与えたのは僕だった。鍛えている筋肉質な身体は実際に殺し合いをしたらこの場で一番強いだろうことを強く主張しているが、口調や振る舞いからも悪いやつではない事がわかる。今も坊主頭に野球ユニフォームをきっちりと着ているスタイルで、見た目からも真面目さを感じさせる。


「坊主でない人、山崎という苗字でない人などの外見や個人情報の利用を含む、個人攻撃は禁止とします」


聞いてくれてよかったと安堵する。これが可能であれば一瞬で終わってしまうつまらないゲームになってしまうところだった。本来はもう少ししっかりルールを決めるべきなのだろうし、勝利条件も禁止事項も不確定では本気で闘いにくいだろうが、今回はどうにかこれで上手くいってくれと願うばかりだ。


「他に質問がなければゲームを開始します。よろしいですね」


誰も心から納得をしている顔はしていないが、文句を言う人もいないようだ。これから誰かが死ぬなんて未だに実感はないが、これから僕はこの5人のうち4人の命を奪うことになるのだろう。蘇生処置があるとのことだったので、一時的だとは思うがそれでも気持ちが重たいことには変わりない。


「それではデスゲーム一回戦『仲間ハズレ探し』開始です」


18:45。

もう時間を気にする必要はなくなっていた。

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