第5話 集まる参加者たち

残り時間11分。参加者残り4人。

普段ならスマホを見ていると一瞬で過ぎる時間だが、今はそんな一瞬の時間に命を握られている。そんな時間不足の今、参加者が自分を参加者だと自覚している事実を知ったことは大きい。


そうでない人もいるのかもしれないが、残り11分で参加者を集め、デスゲームを開催するには、それを信じて動くしかもう道はないように思えた。だとしても校内を走り回ってる間に11分なんてあっという間に過ぎてしまうし、話をする時間もないだろう。


「参加者は自分をデスゲームの参加者だと自覚して校内にいるはず」


口に出して頭を整理する。デスゲームの参加者が校内にいて、自分をデスゲーム参加者だと自覚しているならあの手が使える。集まるかどうかは参加者次第になるが仕方ない。僕はやるべきことを確認し、放送室へと足を進めた。


◆◆◆


「えー...校内に残るゲーム参加者の皆様。今回のゲームの主催者です。

 参加者の皆様は、視聴覚室にお集まりください。5分以内に」


慣れていない放送を終え、一息つく。デスゲーム参加者を短時間で集める方法。それは放送での呼び出しだ。参加者が参加者と自覚しているなら呼べば来る可能性が高い。もちろん無関係の人も来る可能性はあるが、それを気にしている場合ではない。


放送に応じない参加者もいるかもしれないが、この情報が足りない状況では呼び出しに応じるメリットも小さくないのではないだろうか。しかし、もしかしたら共闘相手を見つけて主催者に攻撃を加えてくる可能性もある。悪くない作戦だとは思うが、危険も伴うこともまた事実、僕は移動中を狙われるリスクを懸念してすぐに隣にある視聴覚室へ移動した。


◆◆◆


視聴覚室は生徒が座り映像を見るメインルームと、教師が映像を操作する管理ルームの2つが存在する。管理ルームから生徒に指示を行ったり、説明をする必要がある関係上、マイクとスピーカーは相互に通信が可能な状態にある。デスゲーム向きだ。


僕は周りに襲ってくるような参加者がいないことを確認して、管理ルームに入る。ここで襲われて死んでしまっては元も子もない。僕はデスゲームを確実に実施し、生還しなくてはならないのだ。


そこまでして、どうしても生きたいほど楽しい人生だったかと言われれば、その価値はないようにも思えたし、そこまでデスゲームに熱意があったわけでもなかったような気がするが、不謹慎にもこのデスゲームがゲーム攻略のようで楽しくなったのかもしれない。


そんな自分の適応力というか、いい加減さに呆れとも感謝とも言えない感情を抱きながら、デスゲーム実施の一歩だと心が踊るのを堪えながら扉を開け、手探りで電気のスイッチを探す。大抵ドアのすぐ横にスイッチはあるものだ。


「これが管理ルームを開けられる全ての鍵です」


部屋が明るくなった瞬間、目の前に現れた真面目そうで小柄な男子生徒が僕に鍵を3つ渡してくる。心臓が激しく鼓動した。驚きのあまり大きな声を上げそうになるが寸前のところでこらえることが出来た。それにしても心臓に悪い。


しかし、即座になにかを仕掛けてくる様子もないので、こちらも友好的な雰囲気を意識しながら向き合う。デスゲームが現実になった今、あらゆる危険の可能性が考えられるのだ。なぜか既にクリアした気で緩んでた気持ちが引き締められる。


どちらかといえば男子生徒自身も少し怯えているようで、メガネと洒落っ気のない黒髪から真面目と判断したが、案外真面目なのでなく純粋に気弱なタイプなのかも知れない。彼は必要以上の言葉を発することなく、僕に鍵を渡すとすぐに部屋を出ていってしまった。


「彼も制約に縛られた人間なのだろうか」


繰り返し使われる伝言システムに慣れてきてはいるが、どれだけの人が制約に縛られているのか想像するととても嫌な気分になる。これで全員敗北で死亡なんてことになったら大事件になるのではないだろうか。逆にその方が警察も大々的に動き、犯人が捕まるのかもしれない。


「まぁ悪魔を捕まえられる国家権力なんて聞いたことないけど」


放送から3分後。18:22。

くだらないことに頭を使っていると何人もの参加者候補の気配を感じるようになった。最初は管理ルームとメインルームをつなぐ小さな小窓のカーテンの隙間から隠れるようにメインルームを覗き込んでいたが、小窓はメインルームから管理ルームの見えないマジックミラーになっているし、生徒がしっかり映像を見ているか監視する為の監視カメラ映像も複数あるので、隠れ見る必要など一切なかったことに気付く。


「デスゲーム向きだな」


しっかりと自分がデスゲームの主催者思考になっていることに複雑な思いを抱きながらも、制限時間ギリギリのラインでデスゲーム開催が実現できそうなことに安堵感も抱いていた。


今回のデスゲームでは、僕のように制約を決める必要がある。人集めは楽をすることが出来たが、これが出来なければゲームを開始することは出来ない。無駄にごねられると困るので集まっている人から制約を決定させていくことにする。


「んん、あーあー。ごほん。

僕はデスゲームの主催者です。今回は集まっていただきありがとうございます」


試しにメインルームに向けてマイクで話しかけてみる。マイクの音が入った瞬間、メインルームの空気は一気に重くなる。ものすごい緊迫感だ。考えてみればデスゲームに巻き込んできた張本人が話しかけてきたのだ。相当な精神状態に違いない。


急に一言一言に重みを感じ始め、口が止まる。「あ、間違えました。さっきのナシで」なんて通用しない空気感だ。主催者として間違いなく堂々と振る舞う為にもう一度ルールを丁寧に思い返す。

---

【ルール】

1. 全員勝利か全員敗北しか終了条件は存在しない

2. 指定の時間まで制約を守れた場合勝利とする

3. 自身で口にした約束を制約と見做す

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悪魔から伝えられた以外にも「デスゲームの始め方」なんてふざけた手紙もあったはずだ。かわいい丸文字の説明書だ。ポケットの中でぐしゃりと丸まっていた手紙を手探りで見つけ出し、ぐしゃぐしゃの手紙を手で伸ばす。


「この手紙が敵対勢力の罠とかだったら笑えるな」


考えた瞬間ゾッとする想像だったが、デスゲームならあってもおかしくない。嘘の情報を流して相手を翻弄するなんて、とてもデスゲーム的じゃないか。不穏なことを考えながら、かわいらしい丸文字の手紙を確認する。

---

「デスゲームの始め方」


デスゲーム参加者に向けて、デスゲームの開始を宣言してください。

それを合図にデスゲームは開始されます。


参加者は5人。

候補者は学校敷地内にいる人間を任意に選んでください。


その他ルールは下記を参照してください。


デスゲームの基本ルール

・デスゲーム中も制約を破った場合は「敗北」と見做す。

・デスゲームのルールにより死亡した場合、終了後に蘇生の処置が行われる。

・それ以外のルールは主催者に委ねられる。


また、デスゲームとして認められるには下記条件を満たす必要があります。

・死のリスクを抱え、死を避けるべく、必死に行動していること

・人間の本性を暴くような内容であること

・最後の一人になるまで終わらないこと


※デスゲーム主催者はゲームに参加することは出来ません。

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特にルール説明が必要かどうかは書いていないが、やはり制約を決める必要はありそうだ。悪魔から伝えられたルールは僕がアレンジしてわかりやすく伝えればいいだろう。時間もないので余計な突っ込みを受けている暇はないのだ。


「まず自己紹介をお願いします。まずはその、一番右前の席の人」


デスゲームの主催者っぽい話し方を意識しようと思うのだが、人前で話すことが得意ではない僕は一言目からそんな雰囲気は微塵も出せなかった。最初にデスゲームに巻き込んできた悪魔はどんな話し方だったか思い出そうとするが、交わした会話があまりに短すぎて思い出せなかった。


「私は2年A組の本城美里。生徒会会計です」

「趣味は?」

「え、読書ですけど...」


自己紹介と言われるとつい趣味を聞きたくなってしまうのだが、絶対に今聞くべきことではなかった。空気が怖い。デスゲーム主催者はコミュ障なのか?と疑われているのではないだろうかというなんとも今必要のない不安を感じながら話を続ける。


「では、本城みさと。あなたは発言するとき、必ず本を持ってください。

これを守れなければデスゲームのルールとは関係なく敗北となります」


デスゲームの主催者なら呼び捨てだろうと嬉々として呼び捨てる。守れる範囲の制約を指定し敗北のリスクを下げる、これは今できる悪魔への最大限の復讐ではないだろうか。デスゲームが成立しないと思われないギリギリを攻めるためには過激な要素も必要になるが、制約で攻める必要は決してない。


―・デスゲームのルールにより死亡した場合、終了後に蘇生の処置が行われる。

この一文があるおかげで、制約は優しく、デスゲームのルールで派手に。という方針が自分の中で固まってきているのだ。イケる。デスゲームのルールなら、最悪死んでもいいのだ。最終的に生き返るなら感じる罪悪感の量も全く違う。


「次の人」


冷たく言い放ち、モニターを確認する。自己紹介の対応に集中するうちに、メインルームには7人の参加者が集まっていた。これなら実施できる。人集めも終わり、後は制約を決めてゲームを開始するだけ。僕の制約が満たされるまであと少しだ。


18:25。

残り時間5分。

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