第3話 デスゲームの始め方
「下校時刻です。起きてください」
なにか気味の悪い夢を見ていた気がするが、初老の男性の声で意識が少しずつ覚醒していく。せっかくなら目覚めは美男美女の声で起きたいものだけど、世の中は大体思い通りにはなってくれない。
「起きて帰宅の準備をするようにしてください。戸締まりができませんので」
話の内容的に警備員だろうか。初老の気の良さそうな男性は僕に手を触れないようにそう声をかける。今どきは警備員でさえも生徒に触れてはいけないらしい。起こすときくらい例外であってほしいのだが、この警備員も生徒を起こそうとした為に仕事を失い、犯罪者扱いされるリスクは背負ってはくれないだろう。
「デスゲーム開催の方法は下駄箱に入っています」
僕は即座に飛び起きた。肩をゆすられて起こされるよりも効果的な起こし方だ。僕のつぶやきを聞いていたのだろうか。いや、現在時刻18:00。いま来たであろうこの人が聞いていたとは考えにくい。
「お前は悪魔なのか!?」
思考がまとまらないまま、この場を去ろうとしていた警備員の腕を掴み問いただす。「悪魔の腕も掴めるのか」と素朴な感想を抱きつつも、男性の一挙一動に神経を尖らせる。
「いえ、これが私の制約なのです」
予想外の回答に混乱している間に警備員はすでに教室を離れていた。もう一度見回りに来ると言っていたような気がするが、今はそれどころではない。悪魔は、デスゲームは、実在したのだ。
「下駄箱...!!」
警備員の言葉を信じるのであれば、下駄箱には「デスゲームの開催方法」について必要な何かがある。時刻はすでに18:00。あれが夢でなかったのであれば、時間の浪費は大きい。
突然現実味を増した死のゲームに吐き気に似た気持ち悪さを感じながらも、走り慣れてない不格好な走りで下駄箱へと急ぐ。廊下も階段も、人目があろうとも気にせず走り抜ける。ここまで急がなくても良いのかもしれないが、その判断をする時間さえもったいない。
下駄箱にたどり着くと、全力ダッシュの影響か酸素不足の苦しさが襲ってくる。一歩一歩、足も重く感じる。運動不足が祟り、酸素不足で視界が歪む中、毎朝利用している僕の下駄箱にたどり着く。
「あった...」
暗証番号式の鍵をあけ、自分の下駄箱を開けるとそこには入れた覚えのない手紙が入っていた。悪魔からの手紙なら仰々しい便箋かと思っていたのだが、中にあったのは女子同士のやり取りでよく使われているだろう可愛らしい便箋だった。
「デスゲームの始め方、そのままだな」
便箋には可愛らしい丸文字で「デスゲームの始め方」そう書いてあった。中の手紙も同じ丸文字だ。女の子と手紙のやり取りをしたことのなかった僕には馴染みがないが、これが女の子の丸文字であることは理解ができる。便箋が可愛くなかったとしてもだ。不本意にも女の子と文通しているような感覚に陥り照れくさい気持ちも湧き上がるが、内容が頭に入るたびにそんな浮ついた気持ちは消えていく。
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「デスゲームの始め方」
デスゲーム参加者に向けて、デスゲームの開始を宣言してください。
それを合図にデスゲームは開始されます。
参加者は5人。
候補者は学校敷地内にいる人間を任意に選んでください。
その他ルールは下記を参照してください。
デスゲームの基本ルール
・デスゲーム中も制約を破った場合は「敗北」と見做す。
・デスゲームのルールにより死亡した場合、終了後に蘇生の処置が行われる。
・それ以外のルールは主催者に委ねられる。
また、デスゲームとして認められるには下記条件を満たす必要があります。
・死のリスクを抱え、死を避けるべく、必死に行動していること
・人間の本性を暴くような内容であること
・最後の一人になるまで終わらないこと
※デスゲーム主催者はゲームに参加することは出来ません。
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自分自身のゴクリと唾を飲む音で、ふと我に返る。より鮮明になるデスゲームの実態と、自分が犠牲者を選ばなければいけないという事実が重くのしかかる。
読み間違いがないか何度も指でなぞりながら確認する。しかし、どこも絶望的にデスゲームだということを突きつけてくる。唯一の救いはデスゲームでの死亡は、デスゲーム終了後に蘇生されるということだ。誰も殺さないデスゲームが実現できる。それだけが救いだった。
18:07。
残り時間23分。
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