第2話 夢か現実か
「デスゲームを開催する」
気付いたら教室に一人立っていた。無意識に口から溢れた言葉を聞いても現実味がない。やったこともなければ、そもそも参加したことすらない事である。
しかも、デスゲームなんて「権力も資産も余らせた富豪」や、「悪趣味な悪魔」が開催するのではないのか。いや、そんな常識もあるのかは知らないが、それでも僕のような被害者が主催するデスゲームなんて聞いた事がない。デスゲーム自体実在することだって知らないのだ。
どんなゲームも現状を知らずに飛び出すやつはすぐに死ぬ。この場に僕しかいないのだから、僕が死んでは何も始まらない。とはいえ、この状況で賢く生き残る立ち回る方法も上手く頭に浮かばない。
僕は地道に状況を確認するしかなさそうな状況に落胆して、冷静に状況の把握に務めることにした。
まずは教室に一人しかいないこの状況。
悪魔なんてモノまで出てきたので人払いの魔術なども想像したが、窓の外では野球部がいつも通り練習をしているし、放課後で人が少ないとはいえ廊下も人通りが確認できる。
教室に残された僕がなぜ一人なのかといえば、おそらく授業中からずっと寝ている僕をおいて、みんなは帰ってしまったというだけのことだろう。友達が少なく、教室に一人でいても違和感のない僕だから悪魔に選ばれたのかもしれない。世の中はいつだって少数派には厳しいものだ。
先程まで寝ていたことを考えると、悪魔との契約は本当に現実だったのかも疑わしく思えてくる。誰も見ておらず、聞いていない。僕だけが認識している悪魔。僕でさえ姿は確認しておらず、声しか聞いていないのだ。ただの夢という可能性も高い。
しかし、確認する術がない。
悪魔との契約で不思議な力を手に入れたわけでも、契約の焼印を入れられるなんてこともなかった。ただ、口頭での契約が行われたのみ。
「俺は本当に悪魔に会ったのだろうか」
一人で考え事をしているとつい口に出してしまいがちな特性はもしかしたら学校での孤立を生む原因になっているのかもしれないが、今回ばかりは良い方に転がった。口に出してみたおかげで「なんとアホらしいことを考えていたのか」と気付くことができたのだ。
「さっきまで寝ていて、気付いたら悪魔と契約を結んでいた。気付いたら教室に一人だし、その契約の出来事も誰も見ていない」
事実を口に出し始めると思考はどんどん整理されていき、暗く沈みきった気持ちも晴れてくる。人間は言語化・図解化など個々の特性によって得意なものは違うとはいえ、得意な形に変えてから考えると理解が早くなるという。僕は言語化が向いているのだろう。
「つまり、全ては夢だった」
簡単な話だ。寝て起きたら教室に一人。悪魔との契約をした記憶はあるが、寝ているときの話だ。今考えると悪魔の存在する可能性なんてゼロだ。確かに最近ネットでデスゲームを話題にした小説を読み、中二心がそそられ、心躍り、徹夜で読み切ってしまったが、あれも過激なフィクションだから面白いのだ。
夢は過去の記憶を元に構成されるというし、すべてが腑に落ちる。
悩むこともないし、真剣になる必要だってなかったのだ。夢なのだから。
「最近読んだ小説に影響されて、授業中の居眠りで気味の悪い夢を見た」
先程まで死を覚悟していたとは思えないほど安堵した心持ちで、自分の席に腰を下ろす。少し足に疲れを感じるが、寝起きにいきなり立ち上がったのが良くなかったのだろう。全てを良くないことに結びつける思考は、緊急時には役に立つが、平和な僕の学校生活においては中二病ど真ん中の妄想くらいにしか役立たない。
椅子に座ると安堵感からか、眠くなってきた。
散々授業中に寝たにも関わらず眠くなるのは、成長期だからなのか、持ち前のぐうたら気質なのかわからないが、睡眠は嫌なことを考えなくて良いので素晴らしい。
時計を見ると時刻は17:35、さっき時計を見たときより5分進んでいるようだ。
「あれ、いつ時計見たっけ」
ふと頭をよぎる疑問以上に気だるい眠気が襲いかかり、再び安らかな睡眠へと吸い込まれていくのであった。
17:35。
残り時間55分。
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