《結成》――パワー・ウィズ・レジスタンス

「なかなかやりますね」


 焼失する忠臣蔵ちゅうしんぐらを眺めるアキハルの背後に、一人の少女が立っていた。


 無論、彼はその気配アトモスフィアを察知している。


連中ヤクザはすべて炎上バーベキューに巻き込んだと思ったが……幸運に愛された奴グットラッカーがいたか?)


 アキハルはゆっくりと振り向き――

 そして少女の顔を見た瞬間、呼吸が止まった。


 謎めいた雰囲気ミステリアス・アトモスフィアに、淡い黄昏色のパステル・カーネリアン髪。慎ましい白磁マーブル・ストーンを思わせる肌色スキン

 そして、右の目尻に咲いた太陽黒点ブロッサム・ホクロ


 激しい頭痛と共に、遠い日の記憶メモリアルがフラッシュバックする。

 アキハルは無意識に、首から提げたペンダントブロウクン・アミュレットに触れた。


(似ている。あの頃の彼女に、よく――)


 彼はそう思った。だが――


「……私の顔に、何か?」


 少女はいぶかしげに彼をにらみつけた。

 その雰囲気や表情の細かな変化からは、「彼女」の面影を感じない――


他人の空似ライク・ア・スカイ見間違いルック・アット・ミス――よくある話さ」


「なんの話ですか?」


「こっちの話サ、お嬢さん。しかし、真夜中に一人で出歩くミッドナイト・ウォーカーとは感心しねェな。さっさと帰ェりな」


「子供扱いしないでください。私はこう見えても十二歳です」


真剣ガチ餓鬼ジャリ・ボーイじゃねェか」


「そんなことよりも、本題に入りましょう」


 少女はランスターの死体を指さしながら言った。


「見事な手際でした」


「fake野郎一人って褒められても嬉しくねェよ」


「ところが彼、結構な大物ですよ。「風拳のランスター」と言えば、麻薬組織シンジケート界隈は十本の指に入る実力者。それにタイマンで勝つなんて、あなた一体何者です?」


「はいどーも、アキハルです。俺は夜魔潟やまがた県から来た不器用な男チェリーベイブその魂は孤高アイ・アム・ロンリーウルフゆえに歌うことしか出来ないのさアンド・ヘブンリーロンリネス……」


「? すみません、なんて?」


「早い話が、音楽家ミュージシャンってワケ」


「あ、はい……」


 しばらく無言の時間が両者の間をドリフった。


「……まぁ、なぜ音楽家ミュージシャン麻薬組織シンジケート抗争ドンパチしてるのか知りませんが、このままじゃヤバイですよ。あの五芒星唱会ポエム・ペンタゴンに喧嘩を売ってしまったのですから」


五芒星唱会ポエム・ペンタゴン?」


異能開花エヴォルヴァー――史上最悪の麻薬ヤクを仕切る麻薬組織シンジケートの名前です」


「なるほど? あの筋肉バカは五芒星唱会ポエム・ペンタゴンワンだったワケか」


 アキハルは脳裏のメモ帳にしっかりと刻みこんだ――五芒星唱会ポエム・ペンタゴン

 次に滅ぼディザストすべき組織の名前を。


構わねェよオール・オッケー。ドコのドイツが相手だろうと関係ねェ。報復リベンジだろうと私怨リンチだろうと全部買ってやるバイ・ザ・オールよ」


「ずいぶんな自信ですね。でも、きっと上手くいきません」


「なんで???」


「どの幹部も異能開花エヴォルヴァーで恐ろしい異能チカラを獲得しています。中には、初見殺しチートのような異能チカラを使う者もいる」


「ほう、詳しいじゃねェの」


「まぁ、色々とありまして。そこで提案ですが」


 少女はアキハルに向かって手を差し伸べた。


「取引しませんか? 私は五芒星唱会ポエム・ペンタゴンについて知っていることを、全てあなたに教えましょう。代わりに……」


「勘違いすンなよ餓鬼ジャリボーイ


 超ド級最終弦楽鈍器ドヴォルザーク

 アキハルは少女の眼前に、なんの躊躇もなく超質量ギガクラスを振り下ろす。


「俺ァこれまでに星の数ほど麻薬組織シンジケートをブッ潰してきた。テメェの提案なんぞ蹴っちまったトコロで痛くも痒くもねェノーペイン・ノーイッチー――目的はなんだ?」


 アキハルはドスの利いた声と鋭い眼光で少女を射抜いたシューティングスター

 並みのヤクザなら即、失禁するほどの威圧感プレッシャーである。


 しかしアキハルが警戒するのも無理はない。彼女は、この世界アンダーグラウンドを知りすぎている。間違いなくカタギの人間ではない。

 ならばこそ、彼女が敵のスパイである可能性を十分に疑わなければいけない局面シーンである。

 言動次第では残酷な決断を下す――アキハルの眼に迷いは無かった。


 しかし。


「無かったことにするんですよ。全部」


 少女の瞳には、強い覚悟が宿っていた。


「私が望むのは、五芒星唱会ポエム・ペンタゴン異能開花エヴォルヴァーがこの世から跡形もなく消えること。それが叶うなら、なんだっていいんですよ」


 この街の住人からは決して感じられない、煌々と燃え盛る意志を――アキハルは、確かに感じ取った。


「――音楽性ミュージック・センス


「……なんですか?」


受容おもしれぇってンだよ。いいリリックサウンドだ。お前、名前は?」


「……人に呼ばれるような名前など私は……」


「なるほど、迷える子羊ロスト・ユー。上等な名前じゃねぇか」


「話が通じない……」


 呆れる少女の眼前に超ド級最終弦楽鈍器ドヴォルザークを振り下ろし、アキハルは笑った。


「今日から俺たちァ楽団衆バンド・メンバーだ。最高の魂スペシャル・ソング謳歌しようやシングアソング


 ――こうして今宵、二人だけの反抗勢力レジスタンス生まれたのだったバースデイ




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