一滴 奏とは誰なのか、私は一体、誰に負けたのか。

私は、天空城へ、向かっていた。

別次元を移動する。

名前は分からない。かつて、天空で戦士長をしていた、という記録だけを知っているのだ。

ワープ空間は、虹色の波が辺りを、揺らしているのである。

ワープから抜けると、枯れ果てた樹々が生い茂る、遺跡の中にいた。

蔦が、遺跡の壁を覆っている。

壁を辿って、遺跡の外に出ると、巨大な全長10メートルはある、大蛇が一匹、野原を這っていた。

空には、凶暴な、鳥が飛んでいる。鋭い爪と嘴を持つ、巨大な鳥だ。

遺跡を見返すと、どうやら、遺跡は四角錐の建造物らしく、高さは、30メートル、縦30メートル、横30メートル程であった。

出入口の前には、巨大な戦士と思われる像が突っ立っている。

右側には、剣を持った男。

左側には、槍を持った男が、突っ立っている。

「なんて、大きな蛇なんだ。」

 私は、感心して、肝を冷やした。

 しかし、どうしたものか、襲われでもすれば、大変である。

 遺跡にとどまっていたとして、特に何も得られるものはないだろう。

 頭を捻らせ悩んでいたが、どうしようも、ないだろうと、やがて、足音を消して、忍び足で、ササッと移動した。

 移動中に、蛇は私に気が付いて、にょろにょろと、身体を捻じらせ、襲って来る。

 駄目だ。と思ったその時、蛇の頭の上から、羽の生えた人間が、飛び降りて来た。 

 「何だ貴様。人間か。いいや、まさか、御前は。」

 羽の生えた男は目を丸くした。

 驚愕の色が浮かんでいる。

 「生きていたのか。奏だろ。一滴 奏。御前がいない間に、天界は随分と変わっちまった。」

 羽の男には、随分と、嘆きかわしい表情を露わにし、苦労の色が見えた。

 一滴 奏とは、誰なのか。

 私の記憶を失う前の名前なのかも知れなかった。

 「天界の戦士団があの戦いで、負けてから、全てが変わって終った。鳥族に最早、権利など存在しない。領土をぎりぎりのラインまで引き下げられた鳥族は、天界の辺境である、エレミアの森林に逃げ延びた。」

 エレミア森林。分からん。何処だ。此処は。

 「ごめんなさい。実は、私は、天界から落ちた衝撃で記憶を失ってしまっているらしいのだ。」

 羽の男は、残念そうに、落胆した様子であった。

 歯痒い気持ちを抑えきれない様子であった。

 「っく。貴方様が、生きており、帰還されたとなれば、鳥族にも、幾何かの希望が見えるかとも思いましたが。御記憶を失われておられるとは、何といったらよいのか。しかし、記憶を失われていたとしても、貴方が、戦士長である事には、変わりはありません。是非、、付いてきてください。」

 羽を男は、大蛇と意思疎通をしているようであった。

 一気に、十メートル近くジャンプすると、大蛇の頭の上に飛び乗った。

 「さあ、乗ってください。」

 私は、十メートルも、ジャンプをする術は持ち合わせてはいなかった。

 呆然と立ち尽くしていると、羽の男は言った。

 「記憶を失っていても、あなたほどの、ものならば、軽く、飛び乗れますよ。」

 脚に力を入れる。

 先っき、羽の男が、飛んだ時の、映像と、音、匂いを思い出す。

 「えい。」

 ビュウうううううんんんんんN。

 「うわあああああああああああ。」

 飛べたはいいが、大蛇を悠々と飛び越え、更に、百メートル近く、飛び、雲を突き抜けて終った。

 「ああああああああああああああああ。」

 落ちると、羽の男に、御姫様抱っこで、キャッチされた。

 「其れでこそ、奏様です。」

 羽の男は、二っと笑った。

 肌の白い、白髪の男であった。

 背丈は、170前後である。

 赤いジャケットを着ている。

 ブカブカのフードを外すと、羽の男は言った。

 「私は、東方 向日葵、でこっちの蛇は、ランダ。何か思い出さないか。」

 何も、思い出せなかった。

 「あの、遺跡の地下に、拠点の一つがあります、第一拠点です。更に、南東の七宮自治区と、南西の、空焚き地区に、鳥族の隠れ家がある。兎に角、遺跡の地下に行きましょう。遺跡の地下には、精鋭の仲間たちが、待機しています。」

 遺跡に戻った。

 全く通路が分からなかったが、向日葵は、遺跡の通路を熟知しているらしかった。

 壁には、特殊な文字や、絵が描かれている。

 「随分、古い遺跡だが、かつて、どんな文明があったんだ。」

 私は、少し気になって、質問をした。

 「わからん。鳥族がこの地に住み着く以前から、あった遺跡だ。考古学者も頭を悩ませている。文字は、恐らく火拠瑠玖文字だとされているが、一体、誰が何のために作ったのか。」

 グネグネに続く迷路のような道を、歩く、途中で天井から、針が堕ちてくるトラップや、地面が抜け落ちるトラップがある道を教えて貰った。

 「階段を降りた先に、地下アジトがある。」

 長く続く、階段を下って、30分程すると、広い空間に出た。

 空間は、うす暗い電球で照らされていた。

 「よお。帰ったか、向日葵。」

 ガタイのいい、男が、向日葵を見て、挨拶をした。

 「ああ、今帰った。」 

 ガタイのいい男は、私を見ると、目を疑って、目をパチクリとさせ、二度見した。

 「あんた、まさか。」

 男は、私を見ると、いきなり殴りかかった。

 「てめえ。どの面下げて、帰って来たんだあああああ。」

 周りは、男が暴れるの諫めて、止めに掛かった。

 「やめな、茂樹。」

 向日葵は、茂樹を制した。

 「うるせええ。此奴が、勝つと信じて、俺たちは、俺たちはよおおおおお。」

 茂樹は、泣き叫んだ。

 「どうしたんだ。」

 周りのもの達が、私に気が付いた。誰もが、目を丸くしておどろいていた。

 「戦士長様が、帰って来た。」

 誰かが、そういうと、辺りは、歓声に変わった。

 どうしよう、私は、記憶を失っているなどと、言えるだろうか。こんなに、期待され、喜ばれているのに。

 「残念だが、戦士長どのは、天界からの落下により、記憶を失われている。」

 あたりは、騒然とした。

 あるものは、やはり無理だったのかと、落胆した。

 また、あるものは、もう、鳥人も終わりだ、と項垂れた。

 「しかし、戦士長どのは、地上からこの地に戻って来た。記憶を失っていれど、きっと、やってくれる。」

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