姫彦 社は、存在濃度61%の世界にて、邂逅し、ワンダーランドへ行く

カルドレアの助けもあり、私は、存在濃度の旅に出た。

 グネグネと時空のねじ曲がった世界で、どれだけの時を過ごしただろうか。

 何億の年月を過ごしたのか、知れない。

 体感で、どれほどの時が経過していたのであろうか。知れない。

 思い通りの場所へ、歩けない、進めない。

 何処を移動しているのかさえ、分からなかった。

 只、微かな、存在を察知し、時計の示す通りに、移動する事だけだ。

 61%を差す場所へ、移動するだけだ。

 随分と、長い、存在濃度の旅の末に、姫彦  社は、漸く、目的の存在濃度の世界へ、辿り着こうとしていた。

 

 やっとの事で、外へ出て来れたはいいが、森の中であった。

 「何処だ。此処は。」

 樹木が生い茂る森ではあるが、森林が、丸焦げに成っていた。何か、あったのであろうか。

 よく見ると、辺りに、灰が降っていた。

 「どうなっているんだ、こりゃ。」

 おかしな世界に来てしまったものだ、と落胆しつつ、森の出口を探して、彷徨っていた。

 彷徨う事には、もう慣れたといってもよいだろう。

 彷徨い続けていると、何処からか、車の走る音が聞こえて来た。

 「こんな、森の中に車か・・・。奇妙だな。」

 しばらくすると、奥から、軍用車が、走って来た。

 「おい。其処の君。ここは、危ないよ。何をしているんだい。」

 車から、身体を乗り出した女の軍人が話しかけてきた。

 どうしたというのだろうか、軍隊の人間が、どうしてこのような森の中を車で走っているのであろうか。

 「君、聞こえているかね、大丈夫かね。」 

 女は心配そうに、尋ねた。

 「帰り道が分からないんです。」

 私は、到底、別の存在濃度の世界から、来ただなんて言えないので、適当な事を言っておいた。

 「帰り道がねえ。じゃあ、うちらが、街まで送って行ってやろうか。」

 軍人の女は、提案してきた。

 「いいんですか。ありがたいです。」

 軍用車は、ポラリスという、種類の車で、六人乗りであった助手席に、若い20代くらいの、男軍人が座っている。。

 「で、どうして、こんな森の中に居たんだい。」

 女軍人が尋ねてくる。

 「さあ、何となく、森に行こうと思いました。」

 二人の軍人は呆れた様子であった。

 「あんた、出身と名前は。」

 「出身は、分かりません。名前は、姫彦 社です。」

 女軍人は、腕組みをして、考えて居た。

 「ふうん。怪しいねえ。住んでいる所もわからないのかい。其れに、こんなご時世だ。取り合えず、近くの街迄、連れて行ってやるが、後は、かってにしてくれ。」

 女軍人は、そういうと、運転を始めた。

 「歳は、幾つだい。」

 男の軍人が聞いて来た。

 「18です。」

 「18か。大人じゃあないか。にしたって、森の中に一人で入るのは危険だよ。特に、この時期だ。自然災害で、人工の八割は死んだ。街は復興で今忙しい。其れに次いで、謎の、人口減少が随時起こっている。まるで、この世の終わりのようだ。」

 男の表情には、悲嘆が見えた。

 「原因不明の、大地震、雷、火山の噴火。もう散々さ。更に人類の数は減少するだろうね。何もしないでも、人工が何故か減る現象も起きている。戸籍には登録されているのに、何故か存在が確認できない人間も、増加の一途を辿っている。」

 女軍人に、苦労の色が浮かんでいた。

 「よし、着いた。画都那街だ。」

 街と呼べるものでは無かった。

 街は荒廃していた。

 少ない人々が、建物を作っている。

 復興している。

 が、とても、街と呼べるレベルでは無かった。

 「どうした。」

 ショックが隠し切れていなかったかも知れない。

 この世界では、恐らく常識なのだ。

 「何度、見てもショックが大きいものさ。なんといっても、これじゃあなあ。」

 男軍人は、気の毒そうにしていた。

 

 街を歩いていた。

 街の人達の表情はどれも沈んでいる。

 「どうなっているんだ。」

 全く、先祖んそ何処にもいないではないか。

 一族など、何処にもいないのである。

 

 しばらく街を歩いていると、揺れ始めた。

 ゴゴごごっごごっゴゴゴゴゴごごっゴゴゴゴゴ。

 「地震か。」

 あたりが、暗くなり、雷が落ち始めた。

 空から、灰が降って来る。

 「街の人達は、絶望の表情をしていた。」

 私は、何が何だか、分からず、立ち尽くしていた。

 「なあ、あんた、見かけねえ奴だな。何処のもんだ。」

 仮面の男が話しかけてきた。

 「わからない。」

 仮面の男は、笑うと、言った。

 「知ってるよ。別の世界から、来たんだろう。石人様が、額の一族のもんが、来たらしい、迎えに行ってやってくれないか。と言って来たもんだから、迎えに来てやったんだ。感謝しろよ。」

 石人様。

 誰だろうか。会った事も無い人だ。

 「ついて来いよ。案内してやる。」

 その男の名は、サマエルというそうだ。

 ついていくと、岩山にたどり着いた、岩山の洞窟から、地底に繋がる道を通って、地下文明のある街にやってきた、道中驚く事は、多々あった。

 街で、市長のサナトルに出会い、少し話した後、祠にいる石人様という人の処にいった。名は、石守 真というらしい。

 祠の壁の奥にある、部屋に入った。

 量子コンピュータにより、魔法が使えるシステムが構築された部屋らしい。

 「御前さん、の事は、万物の水晶から、観測していた。突然、画都那森林に人が来るのは、今に始まった事じゃない。アルマゲスの夜中が来てから一か月、世界の人口は元の二割になった。そして、日に日に減っている。地底の文明を存続させるために、ドグラマイト鉱石を含む、天鉱石で、地底を補強し、災害に耐えてはいるが、地底も危ういだろう。」

 きくところによると、アルマゲスの夜中とは、世界が一つに収束する事らしい。

 額の一族の歴史や、一億年前の戦争、エリスの事、信じられる話では無かったが、石守 真は、衝撃の話をしていた。

 私が、此処に来る前に、二人の額の一族の末裔が、ワンダーランドと、いう世界に旅立ったらしい、一か月前の出来事である。

 「で、どうする、あんたも、ワンダーランドにいくか。」

 石守 真は、私を見ると、尋ねた。

 「はい。」

 円盤の上に乗ると、やがて、私はその世界から、消えていった。

 

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