地底にて、アルマゲスの夜が来た。
サナトルは、神殿にやって来ると、中央の祠の前で敬礼をした。
「参りました。サナトルです。石人様、例の子を連れております。」
すると、祠の上にあった石が動き出しました。
地面に勢いよく落ちると、やがて人の形になって、話始めました。
「よく来てくれたね、サナトル。」
いえいえ。と、サナトルは頭を下げた。
石人様は、私達を見ると、思案したのち
「私は、石守 真 石人さ。彼是 一億年程前、にこの世界に飛ばされて来た。」
と話始めた。
一億年前から、生きているというのであろうか。
全く、出鱈目だ。
一億年生きる、生命など、聞いたこともない。しかし、石人間ともなれば、在り得るかも知れぬと、思う自分も居た。
「一億年前の大戦争 あの頃、儂は、六億四千歳であった。石人が何時頃から存在しているのか、十二種族が何時頃から存在していたのかは知らんが、儂が生まれた時には、既に十二種族は存在しておった。十二種族は、殺し合って負った。生れた時から十二種族は殺し合い、戦争をして居ったが、丁度一億年前、戦争を止めようとしたもの、がおった。聖人のものじゃ。そのものは、名をエリナと言った、エリナは、存在濃度の開発により、各種族は別々の存在濃度の世界へ飛ばした。」
私には、十二種族の歴史も、存在濃度と言う制度さえ分からなかった。
終の奴は、エリナの名前を聞いて、身体を強張らせている。
「お前等、十二種族の事を知っているか。かつて、一つの世界 ワンダーランドに、全ての種族が共存していた時、十二種族は、お互いの領土を争い、お互いを喰らい合っていた。」
石守 真のいう事には、かつてこの世界には、十二の種族があったらしい。
身体が白く眩く光る 聖人
光を喰らう 死人
冥界の使者 犬人
繁栄を齎す 猫人
大海原を駆け巡る 魚人
海の精霊 海人
空の守護 鳥人
大草原の覇者 獅子人
最強の威厳 象人
悪政を正す者 寅人
空気の母 樹人
石の軌跡 石人
戦争の原因は人間とされて居るが、儂は、思うのじゃ、本当に人間が悪かったのかと。
今となっては、どうして、十二種族が、種族同士の肉を喰らわなくては死んで終うのかは、分からん。
只一つ言えるのは、エリナは、世界を救った、其れだけじゃ。
しかし、エリナは、世界中から忌み嫌われる存在となった。
人間は、エリナを畏れ、額の一族を迫害の対象にしたのであった。
人間から、生まれたとされる×××は、生々流転する命のみならず、生命の遺伝子、DNAに至るまで、続く、欲望の呪によって、契約を結び、世界中の生物を一つに収束させようとする化け物となった。
世界に可能性を持たせた、一つに収束しない可能性。世界は並行する。無数の世界が存在するようになった。
どの世界にも共通するのは、一億年前の戦争と、○○○族への迫害だ。
そして、アルマゲスの夜中がやって来る。
あらゆる世界線でアルマゲスの夜中はやって来るのだ。
幾度も失敗してきた、滅びの夜中だ。
ワンダーランドの復活が目的ならしい。
○○○族の末裔である、お前たちは、いずれワンダーランドへ飛ばされる事であろう。其処で、又、別の世界の私に会う事であろう。
ワンダーランドでは、天、魔、聖の三つの世界が、一つの世界に収束される。
かつて、十二種族の中から、或る組織が発足した。
ワンダーランドの終焉の日。
「魔法なんてのが、存在する世界があるのか。」
終は、目を見開いて、尋ねた。
「ああ、最後の日、確かに、私は其の場所にいた。アルマゲスの夜中に、世界は再び、一つに収束しようとするだろう、だから、その組織 エーテル は、魔法システムを構築し、ワンダーランドを再構築し、魔法による、世界を実現した。其の後、この世界に飛ばされたという訳じゃ。」
アルマゲスの夜中とは、バラバラの存在濃度に散らばった十二種族が、魔法システムにより制御された世界に、集まる日の事。
「○○○族は、世界から、忌み嫌われる事となって終った。悪い事をした。当時ではどうしようも無かった事だ。だが、×××を食い止める事の出来るのは、額の能力を盛った、○○○族だけだ。アルマゲスの夜中により、種族間の争いは無くなり、魔法による、社会が実現する事を祈るとこしか出来ない。」
石守 真の心情。
何度もアルマゲスの夜中は、失敗を重ねて来た。
ある世界では、夜中が訪れる前に、隕石の衝突で、滅びてしまった。
幾度もの、失敗と滅びを繰り返して来た。
アルマゲスの夜中。
存在が消える事件は、アルマゲスの夜中の前兆であろう。
一億年前から、仕組まれていた事だ。
仕組んできた事だ。
ワンダーランドの、超生命人工知能 N58301号は、未だ、世界の機構を処理し、約束の時を待っている事であろう。
我のすべきことは、只一つである。
このもの達をワンダーランドへ送り届ける事だ。
分かっておる。
突然、激しい揺れが辺りを襲った。
「何だ。地震か。」
突然の揺れに、終は即座に気付き、言葉を口にした。
激しい揺れだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ドー。
「凄い揺れだな。大丈夫なのか。」
私は若干不安になった、地底の天井が崩れて生き埋めにならないだろうか。
サマエルと、サナトルは不安な様子だ。
石守 真は、呟いた。
「遂にこの時が来たか。」
ドドドドドドド、グラグラグラグラグラグラグラグラグラグララアアラアアッラああららららららあああああああ。
急速に、揺れは近づいていく。
地底の街に、雷が落ちた。
ピカピカと辺りが、煌めいている。
マグマの焔を怒り狂っている。
この世の終わりだ。
「アルマゲスの夜中だ。」
石守 真は、世界の崩れ行く様を見て、言った。
「何だって。」
サマエルと、サナトルは、驚いた様子で、腰を抜かした。
世界が収束する夜だ。
「付いて来い。来、終。」
真は、私達の名前を呼ぶと、歩き始めた。
祠の奥の、石の壁にやって来る。
壁の前に立つと、やがて、壁に手をかざし、術を唱え始めた。
「ランデブラン ド オーパン。」
すると、壁に、扉の絵が浮かび上がった。
扉の絵の、ドアを握ると、扉が壁から飛び出て来た。
「こ、これは。」
サマエルとサナトルは、驚いた様子で、口に手を当てている。
「マグラの現象再現折り畳み術式さ。ワンダーランドの魔導の一つさ。」
どうして、ワンダーランドの魔導がこの世界でも使えるのであろうか。
「一億年、この世界に飛ばされた其時から、この場所は特別な場所だった。中に入れば分かる。」
扉を開けて、中に入る。
中は、縦30メートル、横30メートル程の広さで、高さは、10メートル程の、場所であった。
部屋の中央に、機械がある。
円筒状の、水色に輝く、コンピュータが中央で、起動し、随時動いている。
壁一面はディスプレイに成っており、随時、何かをプログラミング、演算している様子が、更新されている。
中に入った、一同は、驚き、口を噤んでいた。
「驚いているようだな。この世界の人類最速のコンピュータの一億千万速いであろう、量子コンピュータ白光 進(びゃっこう すすむ)だ。」
「どうして、量子コンピュータがこの様な地底にあるのだ。」
終は、やがて、状況を整理し、質問した。
「この部屋は、魔法システムが反映された空間。魔空間。魔法システムの構築には膨大な量の情報処理演算システムが必要になる。」
魔法システムには、コンピュータが必要なのか。
「一億年前、アルマゲスの夜中が来る日、○○○族のものを、ワンダーランドへ、連れていく為に、創られた、時空間だ。知るものは、我らを含めて本の数十人。真実を追い求める覚悟があるのならば、円盤の上に乗るがいい。」
コンピュータの前に、円盤があった。
「天宮の円盤じゃ。額の一族を、ワンダーランドへ集める為の円盤。ワンダーランドへの道を開く、プログラムがされている。」
我は、誰だ。
この時をずっと待ちわびていたような気がする。
夢の中で思い描いていた景色。
禁忌。
無意識下で、求めていた景色。
「ああ、覚悟は出来ている。」
私は、直ぐに返事をした。
死末 終は、少し考えて居た。
「どうにも、謎の多い話だ。ワンダーランドってのが、一族の復興につながるのか、○○○族迫害の歴史に終止符を打ってくれるのか、分からん。この、憎しみと恨みは何処へ行くのだ。魔法・・・。そんなもので、○○○族の無念。この数億年に渡る、一族迫害の歴史は、無くなるのか。」
死末 終は、髪を掻き毟った。
やがて、終は何かを悟ったように、言った。
「どの道もう、後には、引き戻せねえんだ。ワンダーランドってのに、行ってやるよ。後の事は、そん時決めりゃいい。」
あの数秒の間に何を考えて居たのであろう。
死末 終には、王族としての誇りと、迫害されてきた記憶がある。
何か、思う所があったのかも知れなかった。
「覚悟は、決まったようだね。術式を構築するから、円盤の上で、待っていてくれ。」
石守 真は、コンピュータに術を記述している。
キーボードで、術式をプログラムしている。
「後は、詠唱するだけだ。覚悟はいいね。」
私達は、頷いた。
「ゲレウス デ ノヨラ イス シャルボン。」
円盤が虹色に輝きだす。
やがて、存在が薄くなっていく。
消えていく。
「さあ、行ってらっしゃい。絶対、帰って来てね。」
「行ったか。」
石守 真は、手を振り、見送っていて。
「バイバイ。」
サルヨルとサマエルは、揺れで、地底が崩れていないのか心配そうに、私の助言を待っていた。
「ああ、分かっている。」
未だ、私には、やるべきことが残っているのだ。
「もうじき、この世界は崩壊する。」
死ぬだけだ。
アルマゲスの夜中が来る。
「地底の天井を強固に固めよ、ドグラマイト鉱石で、作った、天九の壁で補強するのだ。」
出来る事をする。そうしてきた。もしかすると、助かるかも知れない。
捻じ曲げられる時空間の中、私の意識はやがて途絶えた。
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