アリス家の呪

確かにおかしい。地下水は基本的に、淡水であるし、地下に通路を埋める程の水があるものであろうか。空洞は何処にもない、辺り一面水で覆われている、通路の中には空気があるのである。

 「何だ、草か。」

 「ああ、なるほど、酸素草だね。通常の植物より、酸素を作り出す事に長けている、草だよ。」

 けれど、日光は何処にあるというのであろうか。

 日光が当たらない地下だのに、辺りの水は、光り輝いている。

 長く続く、円柱を真っ二つに切った空間の連続を歩いて、10分程すると、行き止まりがあり、扉があった。

 「うーん。此処で終わりかあ。扉の先に、天空への転移装置があるのだろう。」

 レベッカは、扉に手をかざした。

 扉を押すが、固く閉ざされている。

 「固くて、開きそうにないぞ。」

 レベッカは、首をひねらせた。

 「空、試しに、開けてみてくれ。」

 私が扉に手をかざすと、扉が虹色に輝き出した。

 「こ、これは。」

 共鳴している。

 私に、共鳴しているのである。

 鳥族の戦士である、私を認識しているのだ。壁にはシステムが構築されているのである、首飾が青色に光っている。

 すると、扉が、かってに開いていく。

 ヒュウうう

 「ここは・・・。」

 広い空間にやって来た。

 円状にガラス張りにされた空間に出て来た。

 ガラスの外は、工場であった。

 ロボットが何かを製造している。

 「工場だ。」

 空間転移装置の製造工場らしい。

 八芒星の魔法陣が地面に描かれており、頂点に柱が立って居る。柱には紋章が刻まれている。紋章には半導体による、情報集積回路が組まれており、コンピュータにより、システムがデザインされている。

 レベッカは辺りを見渡すと、少し考えて後に、言った。

 「恐らく、硝子の外で、半導体と柱、硝子、日光を産みだす、核融合装置を製造しているようだ。」

 一体誰が、何の目的で遺跡の地下に製造工場なんぞを作ったのであろう。

 髭の男のコンピュータが、遺跡のコンピュータシステムの主要脳であり、制御装置なのだと考えた。

 約束とは、何なのか。

 分からなかった。

 失った記憶を取り戻すために、私は、天空へ行くのだ。

 魔法陣の中に入る。

 「待ってくれ。私も行くぞ。」

 レベッカは、私の後を付いて来た。

 魔法陣が輝きだす。

 陣から、円盤が現れた。

 しかし、円盤に乗れたのは、私だけだったのだ。

 「んっっっつ。なんでだ。」

 円盤は、私を白い光で包み込んだ。

 「そらあああああああ。」

 つぎの瞬間、私は、遺跡から消えた。

 

 「行きましたか。」

 空が、空間転移によって、天空へ行ったとき、背後から声がきこえた。

 「誰だ。」

 声から、誰か、検討はついたが、訊ねる。

 「私ですよ。」

 そう言えば、未だ、名前は聞いていなかった。

 髭の男だ、コンピュータだ。

 「名前ですか。機密事項です。髭の男とでも呼んでください。」

 秘密の多い、男だと思った。

 「私が、天空へ行けない事を知っていたのか。」

 どうして、私が、天空へ行けなかったのか。

 「行けないというよりも、私が行かせないのですよ。天空へ人間を送り込むのは、法律違反ですからね。約束で決められています。天空は、鳥族のものであると。」

 どうやら、髭の男は、約束というルールに縛られているらしい。

 「ルールに縛られる人生なんて、くだらない、約束は破る為にある。」

 レベッカは、腐れセリフでも吐いてやろうかと、言ってやった。

 「ははは、未だ言えませんが、時期に分かるでしょう。」

 髭の男は、不気味に笑うと、言った。

 「付いてきてください。貴方に見せるべきものがあります。」

 

 髭の男の後を付いていくと、例のコンピュータの主要箇所、四つの扉のある部屋に戻って来た。

 「見せるものってのは何処にあるんだ。」

 レベッカは苛立ちを露わにしつつ、訊く。

 「右の扉の先にある。」

 髭の男は、黙々と、扉を開けると、先に進んでいった。

 灼熱の赤に染まった、道であった。

 「かつて、アリス・デ・キャンバスは、×××へ魂を売った。」

 アリス・デ・キャンバス。アリス家を作った初代アルス家の祖とされて居る人物だ。

 「×××は、世界の最終形態、終焉の姿の一歩手前、あらゆる種族、物質、物体、を生贄にして、生きる化け物だ。」

 ×××。聞いたこともない名だ。禍々しい名だ。

 「×××とは、あらゆるものを吸収し、一つにしようとする力の事だ。生き物を生贄に、構造を作り出す。生き物を喰らって巨大化していく、強力な生命を越えた全く別の存在。真っ黒な姿形をしている、真っ黒の中に、五感がある。第六感を持っている。無の果てからやって来る。無限にも近い時間を彷徨う、化け物。」

 ×××に魂を売るとは、どういう事なのか。魂を売るとどうなるのか。

 「本来、×××は、世界のシステムに反した動きをする存在を抹殺する為に、現れた、いわば、辻褄合わせの存在であった。」

 辻褄合わせ、世界システム、一体、何の事をいっているのだろうか。

 「×××は、生命と引き換えに、力を与える。御前の一族、アリス家は、代々、生まれてくる子供の何人かを、生贄にしている。」

 アリス家には、こんな噂があった。

 子供が、間引かれていると噂があった。何に利用されているのかは、知れなかった。

 奴隷市場で、買って来た人間が一体何に利用されていたのか。

 「アリス家は、血縁の人間を毎年一人生贄に捧げる事で、異常な魔力と能力を手に入れた。アリス家の、宮殿の地下には、×××が幽閉されている。」

 アリス家の宮殿。地下があるとは、噂では知っていたが、本当に存在するのだとは、知らなかった。

 毎年一人、生贄に捧げられる。

 アリス家では、一年に一度、何人かの人間が選ばれて、王宮で働かされる。

 選考基準は分かっていないが、名誉な事とされて居る。

 凄いじゃないか。選ばれるじゃないか。

 誰もが、羨む事でもあった。

 王宮に使える、アリス家のものは、将来が安泰なのだ。

 更に、王宮から、称号を与えられ、極秘事項とされて居る、場所を任されるらしいが。

 「生贄は、どうなるのだ。」

 レベッカは、険しい様子で、尋ねた。

 「喰われる。×××の餌となり、血肉となる、アリス家の絶大な魔力と、能力と引き換えにな。」

 レベッカは、己が、生贄になる、可能性があった事、旅に出る為に、家出した事が、幸か不幸か、よかったのかもしれないと、思うのであった。

 しかし、兄弟姉妹、母親、父親は、生贄にされ、もう、この世には、いないのやも知れなかった。  

「御前は、冒険家だと言ったな、よく、アリス家から、逃れられたのもだ。奴らは、御前の事を追っているであろう。」

 私には、五歳離れた弟と、七歳離れた妹がいる。母と、父も居る。

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