記憶喪失の男 

「記憶消失か、、精神的なものかは分からんが、記憶喪失を治す治療は今の所開発されていないのだ。」

 記憶喪失。

 自然に記憶が戻ってくるだろうか。

 「大丈夫さ。その内思い出すだろう。」

 レベッカは、僕を励ましてくれた。

 「僕は、自分が誰で、何なのか忘れて終った。」 

 どうすればいいのだろうか。何をするべきだったのだろうか。

 「天空に城があるという伝説は世界各地で語り継がれる伝説だが、私は信じている、もしかすると、御前は天空の出身なのやもしれぬな。」

 博士は、そう言って、地図を開いた。

 「何か、記憶の手がかりになる物は無いのか。」

 空から落ちて来た時に来ていた服とペンダントを見せた。

 「ほう、なるほど。此れは。」

 「ああ、私も、見た時は驚いたよ。間違いなく、アルパカ文明のものだ。間違いない。確信したんだ、天空に誰かが住んでいるってね。」

 レベッカは、興奮気味に言った。

 「だろうね。私も、ノルドアの絵本の内容は信じている。」

 橘博士は、レベッカの発言に共感しているようだ。どうやら、二人は、

 「空っぽだ。私は、無いも覚えていない。したい事も無い。」

 記憶を失う前の私は何をしていたのだろう。

 「気になるんだろ、御前自身の事が。私も御前に興味がある。天空に行く事が出来れば何か、手掛かりが分かるかも知れない。あるかもわからない天空に。」

 確かに、気になる。寧ろ、知りたい。己の記憶を。記憶が無くなる前に、何をしていたのかを。

 博士は、地図を指さして言った。

 「バーミヤン遺跡 考古学者エレミアの発見した古代都市クルッススが見つかった場所じゃ。行けば何かが分かるやも知れぬ。」

 古代都市クルッススがあった場所。バーミヤン遺跡。

 考古学者 エレミア の発見した巨大遺跡。

 「かつて、未だ魔法の存在が明るみに成っていなかった頃、古代遺跡 ダレハカから、銀色の髪の男が、魔法を証明した。」

 あれ以来は、魔法はこの世界にとっての常識となった。

 「500年も前の話だ。ダレハカの遺跡には、巨大な塔が存在するが、強力な魔物がおる、数多くの魔導書が発見され、今の魔法社会の基本的な術はダレハカ文明のものじゃ。」

 つまり、ダレハカの遺跡と、バーミヤン遺跡は全く別のものだという事であった。

 「ダレハカの遺跡にも、未だ謎は残っているが、大方は解明されてはいる。分からんのは、歴史くらいじゃ。術式の書は解読済みらしいしの。」

 博士は、ダレハカの遺跡の写真を見せた。

 「歴史石に刻まれた、火拠瑠玖文字の解読は、殆ど進んでいないようだ。」

 写真には、文字の刻まれた石が映っていた。

 「バーミヤン遺跡に行かないか。空。」

 レベッカは、私の目を見据えて言った。

 私の覚悟は決まっていた。

 「お世話に成ります。御願いします。」

 すると、レベッカは、飛び跳ねて

 「決まりだな。」

 二っと笑った。

 「すまんが、儂はこれでも、医療研究者兼、医者じゃ。研究もせななりゃんし、患者を診る必要もある、故に、お主らに、同行できんわい。」

 橘博士は、ポケットから、通信機器を取り出して、投げた。

 「受け取れ、何かあれば、電話を掛けてくるとよい。」

 私は、携帯電話は受け取ると、お礼を言った。

 「ありがとうございます。」

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