グレアの街で、医者に舌を診てもらう。

「もうすぐ、街さ。街に知り合いの医者がいる。有名な医者さ。再生魔法の達人だ。」

 レベッカは、私を慰めた。

 道中で幾つかのモンスターや魔物と戦い、実践経験を積んだ。魔法とやらも覚えた、初級魔導は、大抵使えるようになった。

 「あんた筋がいいねえ。さすがだよ。」

 焔魔導の初級 火起こしで、火の玉を作り、敵に向かって放出する。命中して、猿之円と呼ばれる猿のモンスターを撃退した。

 モンスターを倒したからと言ってゲームの様に経験値がある訳では無い、只の徒労だ。

 魔道は、才能と努力だ。

 魔導書を読み込み、実践で感覚を掴んでいくしかない。

 剣術、体術の特訓も受けたのだが、剣術の太刀筋が異常に良く、恐らく剣士だったのではないかと、レベッカは言っていた。

 

 グレアの街に着いた。

 街の凱旋門を通って、中に入る。

 閑静な下街通りを抜けて、都心に来ると、大型ディスプレイに映像が流れる高層ビルディングが立ちならんでいる。

 「鹿谷町の、四番通りにある、鹿谷大学に、知り合いに医者がいるんだ、奴に見て貰えば、何とかなるだろうさ。」

 都心の街の外れに、樹木が立ち並んでいる。公園がある。

 樹木に囲まれて、中に、鹿谷大学があった。

 「医学生命棟はこっちだ。」

 大学の医学生命棟の入り口には、ファージや、ウイルス、DNA螺旋構造の巨大な模型が配置されている。

 中に入ると、レベッカは私を受け付けへ連れて行った。

 「診て貰いたい子がいてな、ポポ荒野で倒れている所を見つけたんだ舌が回らない呪か何かを受けているらしくて喋れないらしい。」

 受付の、女は、話をきくと、言った。

 「畏まりました。橘 糸 先生でよろしいですね。」

 「はい。」

受付で番号を渡され、待合室で待っていた。09793だった。

 一時間程後、番号が呼ばれ、診察部屋に入った。

 「久しぶりだね、アリス・デ・レベッカ。何かまた面倒事でも持って来たんだろう。」

 子供だった。

 見た目は完全に子供だった。

 身長は、100センチメートルにも満たないくらいである。

 子供じゃないか。

 「君、今、子供じゃないかっておもったね。悪いがこう見えても、御前よりは長く生きとるわい。ま、もう30を超えておるわい、余り歳を取ると、自分の歳を言うのも嫌になるものじゃ。」

 レベッカは苦笑いをしていた。

 「ところで、お主、妙な呪の刻印を押されておるようじゃな。」

 橘 博士は、私の目を見て、言った。

 「見た事のある刻印じゃが・・・。確か、古代アルパカ文明の、口封じの印じゃなあ。」

 古代アルパカ文明。

 「古代アルパカ文明は、近年存在が、公に、なった、魔法都市クルッススの存在。遺跡がノイドの地下深くに埋まっていたらしいが、まさか、アルパカ文明の刻印を扱えるものがおるとは驚きじゃ。」

 「博士、治せますかね。」

 「ああ、何とか成りそうだ。アルパカ文明については以前から興味があって、調べておったのじゃ。」

 魔法都市クルッスス。

 考古学者が見つけた古代都市だ。残っていた幾つかの石板に刻まれた、魔導の印は解明困難な代物で、約する事が出来ていない。

 「博士、アルパカ文字の解読に成功したのですか。」

 「あんなものは、馬鹿でも読めるわい。儂なんぞ、初めてアルパカ文字を見て、寝て、次の日には読めるようになっとったわい。」

 天才 橘博士にしか分からん事だ。

 「そりゃあ、エミール賞ですよ。博士。論文は発表しないのですか。」

 「要らんわい。賞なんぞ要らんわい。好きでやっとる事じゃい。」

 はあ。なんという化け物博士なのでしょうか。

 「ま、ありゃ、火拠瑠玖文字の派生じゃな。恐らくこの世界に於ける、魔導は火拠瑠玖文字によって操作されている、定義づけられているのは、間違いないじゃろうな。」

 火拠瑠玖文字。

 太古の昔から語り継がれる、魔導によってしか読めない文字だ。

 「どうして、魔法のシステムが存在するのか、分からぬことだ。だが、火拠瑠玖文字を開発した何者かがこの世界にかつていた事は間違いないじゃろうな。」

 博士は、机から、ノートを取り出し目を通した。

 博士のノートには、アルパカ文字で書かれた単語や文章、訳で埋まっていた、何やら魔法陣を書きますと、人差し指と中指を立てて、私の口の前に近づけました。

 博士の指先が、光っております。

 「マデロン・ド・マデロン・ガ・ダーバ・フォン。」

 謎の呪文を唱えると、私の舌がぐるぐると口の中で周り始めました。

 「おえええええええええええええええええええ。」 

 盛大に、ゲボを吐きました。

 嘔吐しました。

 血反吐を吐きました。

 舌が斬れそうです。切れそうです。

 「うわあああああああああああ。」

 心配したレベッカは言いました。

 「おい。博士、こりゃあ、あんまりだ。大丈夫なのかい。こりゃああ・・・。」

 博士は至って真面目な、ご様子で、呪文のように言いました。

 「副作用さ、何てったって強い呪だからねええ。」

 強い呪だとしても、あんまりである。

 空は、吐いている。痙攣を興している。

 「大丈夫なんですか。」

 「大丈夫だ。術に集中しているんだ、意識を乱さないでくれ。」

 博士は、術に集中していた。

 眉間に皺が寄っている。

 術式を唱え終わると、博士は、疲れた様子であった。

 「どうだ、喋れるか。」

 「ああ、私は・・・。喋れる、喋れるぞ。ありがとう御座います。」

 どうやら、博士の力量は本物だ。

 舌が動く。

 博士は、良かったといった表情だ。

 レベッカも、まるで、自分の事の様に、喜んでくれた、優しい目だ。

 「しかし、此れだけの強力な呪の印を組める人間が、いるとはね、君は一体何を口封じされていたんだい。」

 博士は、興味深そうに僕を見て言う。

 「記憶がないんです。」

 「ああ、この子、空から落ちて来たんだった、頭を強く打って記憶をなくしたのやも知れない。」

 博士は、顎に手を当てて、思案していた。

 「何考えてんの。」

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