存在濃度の旅に出た、姫彦 社

 カルドレアと、姫彦 社は、核融合炉の装置を完成させるための材料を集めていた。

 「額の一族の棟梁は間違いなく、御前だ、社。只、政府に眼を付けられれば即お陀仏だ。分かってんのか。おめえ、額の一族が暴走しねえように、制御できてんだろうな。」

 カルドレアは、社の目を見た。

 鈍い緑色に輝くドラマカライト鉱石や、深い青色のマレアエリーゼア鉱石、真っ赤な真血のアクタベ鉱石が、地面や天井から伸びている洞窟に来ていた。 

 「出来てるさ。」

 と口では言ったものの、実際は分からなかった。自分は、奥村 恋の意志を継いだものだ。責任感がそうさせていたのかも知れない。

 額の一族をまとめ上げるのは、容易かった。

 民衆に額の一族のイメージを良くするためにした事は、人助けだけだ。

 毎日のように、演説をし、敵意の無い事を示して来た。

 決して、民間人に手は出さない。

 迫害されてきた。

 しかし、我慢してきた。世界各地に散らばった同胞は、世界金融に影響を及ぼす会社の代表取締兼、創業者となった。また或る者は、天才科学者となった。世界中に散らばる、額の一族は、もはや無視できない勢力となっている。

 凡そ、数百年前から、額を隠し、結束の日を胸に、努力を惜しまなかった。一族としての誇りを忘れず、世界各地に散らばり成果を残して来たので或る。

 奥村 恋の処刑により、歯車は周り始めていたのだ。恋の残した言葉。

 私は、世界中の額の一族と手を組み、遂に、額の一族の共同体を創り上げようとしている。良かったのだろうか。正解だったのだろうか。

 政府が攻撃をしてきた時、戦うのだろうか、もし仮に戦争にでもなれば、恐ろしい事だ。

 「戦争にだけはならないように、法整備は行ってきた、軍の暴走、独裁者の出現、防ぐ為の設備は整っている。」

 「組織の運営ってのは、難しいもんだ。額の一族の悲願は国造りじゃねえ。違う目的がある。が言えない。真実は、自分の目で見てくるんだ。」

 鉱石をピッケルで砕いていた。

 マレオン洞窟という洞窟らしい。

 核融合炉の或る、地下深くに繋がる通路を通ると、洞窟に繋がる。かつて、何者かが、作った地下の採掘所だ。

 「にしても、すげえ洞窟、採掘所だ。」

 「古代文明だ。かつてある文明があった。が詳しい事は言えない。禁忌事項という奴だ。」

 必要な採掘を終えると、地下通路を通って、螺旋階段を上り、ビルの一階まで階段で戻っていった。

 袋の中一杯に鉱石が入っている、クレーンと滑車で持ち上げる。

 「どうだ。楽しかっただろ。」

 「冒険ですね。また来たいです。」

 地下には未だ隠された事実がありそうだった。

 核融合炉を完成させるために、作業があった。鉱石を加工して、磁気による、プラズマ閉じ込め装置を完成させ、外部に防壁を作った。

 川からの水を汲むパイプを強化し、水路を確立した。

 私は、カルドレアの作業をずっと見ていた。

 天才だった。

 私は見ている事しか出来なかった。

 作業を終えるとカルドレアは、言った。

 「ま、出来たよ。只、安全面は保障出来ない。100%安全とは言い切れないね。」

 融合炉の前で、腕組みをして、突っ立っていた。

 「如何すんだ。行く気か。」

 「無論だ。」

 社は、直ぐにでも、別の存在濃度の世界に行く気だった。

 「別の存在濃度の世界に行って戻って来られる保証はないんだぞ。急ぐ事はねえんじゃねえのか。」

 私は、カルドレアの言葉をきいて確かに、この世界でやり残したことがあったのではないんか。と考えた。組織の事。

 組織の事が気になったが、三日前、連絡しておいた。信用のおける額の一族のメンバーの、鐘崎 亘や、鮎川 業の奴にしっかりと伝えた。

 後の事は任せて或る。

 「いいや、僕は行く。」

 「何も言うまい。覚悟が或るんだな。もってけ、通信機だ、何かあったら連絡できるようになっている。存在濃度を越えた電波が飛ばせる、古代文明から作った通信機器だ。」

 携帯電話、ガラケーの形をした古代文明の産物だという、通信機器が投げられた。受け取るった。

 「ありがとう。」

 「礼には、及ばないさ。」 

 核融合炉を動かす、膨大なエネルギーが生み出されている。

 「額に念と祈りを注げ。」

 カルドレアは、額をつついていった・

 念と祈り。

 私は祈った。

 真実を知る事を、別の存在濃度の世界に行く事を、するとどうだろうか、額にエネルギーが集まって来た。

 「しかし、駄目か。やはり、直ぐには、あの力は使えぬようだ。」

 カルドレアは、思案している。

 「額にエネルギーを集めるには、鍛錬が必要なようだ。できるようになるまで、ずっと意識を集中させておくことだ。」

 一週間後。遂に、額にエネルギーが貯まり切った。

 「額が青色に輝いている。」

 私は、自分の額を触った。

 「うん。十分だな。エネルギー量を調べる。60%の世界に行くのに必要なエネルギーはある。メータだもってけ、メータは存在濃度を示す時計だ。今61.009131を示しているだろう。60%の時に、降りるんだ。感覚的には降りる感覚だと言っていた。存在濃度の旅だ。大変だろうが、何とか辿りつくんだぞ。」

 次の瞬間、私は、何処か、訳の分からない、四次元を越えた、奇妙な異空間に入った。真っ直ぐ歩いているはずなのに、上に行ったり、斜めに行ったり、急に何処かへワープしたり、ぐにゃぐにゃに空間がねじ曲がったりする奇妙な世界、時間が急に加速したり、急激に遅く成ったりする、奇妙な奇天烈な世界だ。頭が割れそうな世界だ。

 「行ったか。」

 カルドレアは、消えた社を見送って、床に崩れ落ちた。

 エテナ様、此れでよかったのでしょうか。私にはどうすれば良いのか分かりませんでした、只、導く事しか出来ませんでしたが、此れでよかったのでしょうか。見送りましたよ。奥村 恋は、如何しているでしょうか。処刑で死んだのでしょうか、それとも。彼は王の子息、死んでならない存在。その意志を継ぐという、姫彦 社、彼を送る事で、罪を償えたでしょうか。奥村 恋は無事でしょうか。

 エテナ様。

 エテナ様。

 孰れ、近い内に一つになる世界へ。またいつか会えるでしょうか。

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