王子の名は、死末 終

そうだった、あの王子は誰だ。その額。湊川の言っていた、一族の私と同じ、○○○族の王子とは、一体。兎に角、あの岩の処へ行って、地底人に会おう。

 そう考えて、私は、言った。

 「あんた、名前は、何て言うんだ。」

 「死末 終だ。」

 死末 終 なんだか、物騒な名前だ。

 物騒な名前。

 この男も、別の存在比率の世界から、飛ばされてきたのであろうか。

 私は、湊川から、或る程度の話は、知っていたが、私の存在が周囲から、見えなくなる、この現象については、全くどうしてそうなって終ったのか、皆目見当がつかなかった。

 故に、焦り、もしや、湊川 を私が殺した事で、何か、罰でも当たって終ったのか、恐怖していた程なのである。

 「私を認識できるのは、今のところ君だけらしい。地底に、ある別世界から来たものが居るので、其処に行こうと思っているのだが、どうだろう、君も一緒に来ないかい。」

 「いいや。遠慮しておくよ。」

 「どうして。」

 死末 終は、舌を出していった。

 「我は、額の力を開放する為に、エネルギーを集める必要がある、早急にせねば。」

 エネルギーを集める事。

 「存在操作には、エネルギーが必要なのか。」

 「ああ、其れも膨大なな。その地底とやらにエネルギーがあればよいのであるが、どうだろうか。」

 分からぬ。地底に行った事がないのである。

 「うう。分からない。どうなのであろうか。行ってみてもいいのではないのかとは思うが。」

 「其れならば、君、名前は何といったかな、君。」

 「時風 来といいます。」

 そう言えば、未だ名乗っていなかったな。

 「それでは、そうだなあ、時風君。」

 なんだろう。

 「地底のマグマのエネルギーを、額にチャージするというのは、どうだろうか。」

 地底のマグマのエネルギーを額にチャージする。何を言っているであろうか。そんな、額が痛そうな、熱そうな、事、灼け焦げて脳がとろけて、死んで終うのではないのであろうか。

 「そんな事が出来るのか。死んで終わないのか。」

 私は、自分の額を触りつつ訊いた。

 「マグマを其の儘、額に流すわけじゃあないさ。ミルノ粒子エネルギーに変換しないと駄目だ。」

 ミルノ粒子。なんだ其れは。

 「ミルノ粒子ってのは、存在粒子とも呼ばれている、ヒッグス粒子の逆回転をする粒子の事さ。それが、存在を操る粒子と呼ばれている。ミルノ粒子は、物質の持つ、エネルギーをゼロにする。」

 私達は、マグマ地帯を目指す事にした。

 額にマグマのエネルギーを蓄えるという目的の元、移動した。

 携帯電話を片手に、マップを開いて、近くの活火山 マラウイ山へ向かって歩く。

 距離は、200㎞程ある。

 物質の持つエネルギーをゼロにする。どういう事だろうか。

 「エネルギーの無い物質は、即ち、重ね合わせられる。幽霊のようなものさ。ミルノ粒子は、物質の重さをかき消す、そうして、物質から、質量を奪うように振舞う。存在の濃度の有無によって、世界は、重複し、存在する事が出来る。其れは、物理学的に見ても、科学的に見てもあり得ない事だ。同時に複数の世界が存在しているという事は。其れが、このミルノ粒子の存在を薄める力と、ヒッグス粒子の存在を強める力によって、同時多発的に、泡風船が出来、その泡風船こそが、異なる存在濃度の世界なのだ。そうして、其処に、存在が飛ばされるという訳だ。」

 松下紅花駅に着くと、電車に乗った。御金を払う必要はない。私達の姿はこの世界のものには認識されていないのである。

 誰にも認識されない中、無賃電車をする感覚は何処か爽快感を感じさせ、覚えさせた。

 人々と何気無い会話や、日常が何処か遠く感じられた。

 眺めていた。

 聴いていた。

 人々の、日常を、電車の中で、仕事に向かう大人、学校へ向かう学生。何処かへ遊びに行く若者、デートへ向かう彼氏、彼女。

 何だか、途方の無い、理論だ。天才物理学者の学説のようであった。

 「そっちの世界では、常識なのか。」

 存在濃度といい、ミルノ粒子といい、死末 終の故郷の世界は、随分とこの世界よりも、進んだ科学を持っているらしい。

 「そうさね。天才物理学者 カーネル・ブラウドの大発見が、100年程前にあったとされている。彼の論文も残っている。二十年程前に死んで終ったがね。」

 死末 終は、考え事をしていた。彼は考える時、決まって、額の人差し指と薬指を立てて、関節を動かす。

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