さようなら、ありがとう、湊川 翔

 「本当に別の世界に飛んで終ったのか。まさかな。」

 死んだはずの父と母が生きている世界。

 私は、その不思議に、気味の悪ささえ感じていた。

 額の十字架は消えていた。

 あの地底での事と、石人間の言っていた事が気になった。あの者達は、この世界では、どうなったのだろうか。

 其れが、気になったので、学校をサボって、あの岩の処に行った。

 「流石に、誰もいねえか。」

 あの世界で、凍死寸前になった、岩の穴の中に入る。

 その穴の中を歩いていると、其処に見た事のある人影が見えた。まさか。

 「ああ、やっと来ましたか。待っていましたよ。」

 其処に居たのは、仮面の男 サマエルだった。

 「サマエルさん。どうして、此処に。」

 「あの世界の出来事は、水晶から、覗いていたから、知っている。」

 水晶。何の事を言っているのであろうか。

 「石守さんは、この時を待っているようであった。」

 石守 真 彼も、この岩の洞窟に来ていた。

 「我は、観ておったよ。万象の水晶からね。」

 万象の水晶、其れは一体、何だ。

 「送られてきたのじゃ、世界の我からのう。」

 石像の石守は、そう言って、水晶を見せた。

 「向こうの世界を救いたいじゃろう。」

 相変わらず、向こうの世界は、極寒の地であった。

 「此奴が誰だか、分かるか。」

 そいつは、時風 来であった。

 「誰だ、そいつ。そいつが如何かしたのか。」

 何処かで、観た事の或るような。不思議な感覚がした。

 「そいつあ、時風 来 額に十字架の一族の末裔だが、死ぬ運命にある。遺伝子に残っている、額に十字架の一族の思想が、奴を動かす。其の為に、奴は、何かを書き記そうとする、其れが、人目に触れると、ヤバイ事になる。あらゆる世界で、額に十字架の一族は人類の敵だ。上層部の人間の目に触れれば、即、死刑だ。」

 額に十字架の一族の思想とは、何なのだろうか。

 「額に十字架の一族の、思想、其れは、マジカルランドの復活だ。かつて、一つだった世界、あらゆる種族が共存していた、あの世界を取り戻す事、其れが、御前達、一族の願いだ。しかし、人類は、あらゆる世界に於いて、其れを拒む。人類の繁栄を脅かすものの存在を排除しようとするのである。」

 其れが、何だというのであろうか。私に何が出来るというのであろうか。

 「そいつは、御前の通っている、東雲学園 中学校に通っている生徒だ。君と接点も時期に出来る事であろう。」

 其れからだ。ずっと奴を観察してきた。

 時風の奴の事だ。

 奴は、石守さんの言っていた通り、正真正銘の、○○○族らしかった。

 暇があれば、何時も、何かを書いていた。そして描いていた。その内容は、危険思想そのものだった。人類にとって、危険な思想だ。

 その度に、私は、奴を虐め、奴を苦しめた。

 時風の奴に、その自覚があるのか、無いのか分からなかった。奴は、気が付くと、別の人格が現れて、その思想を記録しようとするらしい。言葉は通じないので或る。

 時風の奴は、本来はいい奴だ。

 其れに、悪いのは、人類と別種族との、歴史だ。

 しかし、私は時風を止めるしか出来ない。そうしなければ、時風は、人類に狙われ、殺されるからである

 こんな、面倒な事をする気はなかった、只、何となく、危かしくて、放っておけなかったのである。

 そうこうしている間に二年の年月が流れ、高校生になった、ある日、私は、時風 来に殺された。

 結局の処、私は時風 来に嫉妬していたのだ。

 事実、時風の奴を説得して、世界の真実を話す事も出来た、が、何故か、意固地になって其れが出来なかった。

 あの、真っ直ぐな目が嫌いだった、観れなかった。

 だから、私は、奴に本当の事を教えなかった。

 けれど、死ぬ間際に、云わなくては、という気になった。其れは不思議な雪解けの感覚だった。

 なんで素直になれなかんだろう。

 あいつの、作品を破り捨てちまったんだろう。自分にないものを持つ、彼奴が恐ろしかった。怖かった。負けたくなかった。額に十字架の一族、選ばれたものな、感じがして高揚した、自分以外にも、其れがいると知って、嫌悪した。

 奴を潰さなくては、と思った。

 私は、いい子では無かった。

 悪い子だった。

 彼奴が、天使ならば、私は、悪魔だったのであろう。

 しかし、その天使だと、思っていた彼奴は、私を殺した。

 殺した後の、彼奴の目は、脅えていた。

 そうだ。彼奴も、所詮は、高校生の餓鬼だ。

 震えていた。はじめて人を殺したのであろう。

 「人を殺したのは、初めてか。」

 私は、訊いてみた。

 「うん。」

 「そうか。」

 時風は、死んだ私を見ると、言った。

 「どうして、僕を虐めたの。」

 「気に喰わなかったんだ。御前のその目が。」

 そう、その、諦めの悪い目が気に喰わなかったんだ。

 「其れだけの理由で。」

 「そうだ。何か文句あっか。」

 「ない。君とは、仲良く出来そうにないや。」

 「御前、友達居ないだろ。俺が友達になってやるよ。」

 けれど、私はもう、逝かなくてはならない。死ぬのだ。

 時風は、何かを感じたのか、泣いていた。

 「ごめんよお。」

 「殺した奴が謝るなよ。」

 私は、全てを話した。

 時風は、私の言っている事の意味を理解した様子だった。

 「そういう事か。」

 時風は、そう呟き。

 「君の事も、きっと助けるよ。」

 私の手を握った。

 次の瞬間、時風の姿が消えた。

 しかし、妙だ。港川 翔が、どうして、私の幼稚園の時の事を知っているのか。

 謎であった。

 謎は、解けないままであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る