その女アリス・デ・レベッカ
数十年前の話だ。
まだ、量子力学が知られていなかった頃の話だ。
我は、天空の城で、何かをしていたのやも知れぬ。天空の城・・・。分からぬ。一体全体、何の事を言っているのやら、分からぬのじゃ。
この、高く聳え立つ樹々の生い茂る、草原に堕ちてきたのだ。
其処には、人間がいた。
誰かは知らぬ、冒険者らしい。片手に地図と、スケッチブックを持っていた。
その女は、心配そうに、不思議そうに私を見つめていた、遠い北の国から、やって来たらしい。
「私は、アリス・デ・レベッカ この世界中を旅するのが、夢なの。貴方は、何て言うの。」
我は、舌が回らなくなっていたために、話す事が出来なかった。だが、どうした訳か、言語を理解する事は出来るらしい。
レベッカは、その様子を見て、クスクスと笑った。
「空から、落ちてきたショックで、何処か神経をやられてしまったようね。この場所は危ないわ。隣町迄、逝く予定なんだけれど、付いてこない。」
レベッカは、そう言って我に提案をした。
物好きな、女だと思った。
おかしな話だとも思った。
我は、特に行くあてもなかったので、彼女の提案に乗った。
レベッカは、元は、貴族の出身らしかった。この世界に魔法が存在する事も解った。
戦争がある事も、未だ発見されていない、土地や、動植物が多くいる事も解った。
レベッカは、我の事を不思議な少年だといった。
我の着ている服は、特殊な素材で出来ているらしい。何でも、グレアモンドの布とかいう、古代アルパカ文明の、失われた技術による、マカララ糸加工が使われており、強靭な防御力と、機動力を兼ね備えた、ものなのだという。
我のしていた首飾りは、ガレアドラゴンの滴を特異錬成術によって創られた、降魔術の為のトーテムなのだといった。トーテムとは、降魔術の時に、必要な魔力を込める道具の事である。
やはり、あの世界の名残があるらしい。
魔法が証明されたのは、或る、古代遺跡から、出てきた眼鏡の銀髪の青年が、杖から焔を出した時であった。
おおよそ、五百年程前の話である。
当時の世界、いわば天元暦 2021年九月十七日に於いては、あり得ない事象であった。
超高層ビルの立ち並ぶ都市、飛行機が飛び、インターネットが発展しており、医療が発展し、再生医療の研究も進んでおり、核が原子力として利用され、核融合の研究が行われていた、其の時代の話である。
「あんた、未だ舌が回らないのかい。」
困ったもんだね。とレベッカは、額に手を当てた。
「今日は、天元暦 2521年三月九日 午前三時ニ十分だ。御前が、落ちてきたのは今からちょうど二日前だね。」
丸二日、舌が回らないので或る。
「あたしゃ、再生魔法は苦手なんだよ。此れでも、使いな。」
レベッカは、画用紙を手渡した。
「其れで、意志疎通しよう。」
我は、自分が何者か、分からない事、名前も解らない事を伝えようとしたが。
「なんだい、その文字は。見た事のない文字だねえ。」
何だか、気味が悪いや。と、レベッカは、首を傾げた。
「やっぱり、あんたおかしいよ。危険だ。この世界じゃあ、異端な者は処罰される、街に入る時は、その首飾りは、鞄にしまって、この服に、着替える事だね。悪い事は、言わない。知り合いのデザイナー コマタレブに、デザインさせた、特注品だよ。だが、サイズがちょっと、合わないかね。ま、ブカブカの服着るのも、其れは其れでお洒落じゃあねえか。」
レベッカは、そう言って、その服の袖と、裾の長さだけ合わせて、裁断すると、服を手渡した。
「何だい。着替えるのが、恥ずかしいのかい。困ったもんだねー。向こうを向いてるから、さっさと、着替えちまいな。お姉さんを困らせるんじゃないよ。大の男がねえ。」
我は着替えると、此れは女物ではないかと、思ったが、まあ、仕方がないか、と思った。
頭を下げると。
「ああ、いいんだよ。そんな服あたしには似合わないさ。あんたみたいな、目の綺麗な真っ直ぐな、あんたに良く似合う。」
袖が、手首に掛けて、太く裁断されている、白と、黒を基調とした、服だ。襟が太く厚い。胸にポケットが付いている。服の丈は膝くらいまである、ズボンは、膝丈、十五センチの処が、足首に裁断されている。暗い緑色のズボンだ。
なんだか、力が湧いてくるような感じがした。
「コマタレブの念が込められているからねえ。大事にするんだよ。」
町に辿り着く為の、道中、多くの野生動物、や、植物に襲われた。
その度に、レベッカは、魔法で其れ等をやっつけた。どうやら、レベッカは、相当強いらしい。
道で、困っている人を、野生の動物から、助けていた。
どうやら、レベッカはお人好しならしい。
そんなこんなで、旅をしていた。
レベッカは、新しい動物や、植物、石、を見つけると、其れをスケッチして、記録していた。未だ、図鑑に載っていない、物には、自分で名前を付けて、記録していた。此れ迄に、3021種類の新種を見つけているらしい。その内の、十種類は、相当強力な力を持ったもので、世界に秘密にしておかなくてはならないレベルのものらしかった。
「あたしは、十二歳の時に、王宮を抜け出して、其処から、ずっと、世界中を旅しているのさ。」
レベッカは、何歳なのだろうか。見た目は相当若く見えた。
「旅の途中で、出会った仲間や、友人は、多いが、基本、私は独りだった。王宮で、習った魔法と剣術が役に立ったし、其処でした数学や科学、文字の勉強も役に立った。」
魔法は、焔、水、雷、土、風の五種類の、魔導が主流であるらしい。世界中で、使われ、研究がされ、体系化された魔法は主に、この五種類であるらしい。
「魔法には、四つの階級がある。其れは、術の規模によって、変わってくるものだ。例えば、焔魔法は、第四級魔法から順に、火起こし、炎飛、炎獄、焔獄地獄のよっつの階級に分かれる。第二級魔法以上になれば、天変地異を起こせる、が、世界に其れを使えるものは、指で数える位しかいない。」
焔魔法の四階級
1火起こし
2炎飛
3炎獄
4焔獄地獄
水魔法の四階級
1水遊び
2水流
3水池
4水楽園
雷魔法の四階級
1電気はじめ
2小発電
3稲妻
4雷電磁界
土魔法の四階級
1土起こし
2土泥
3土畑
4泥土地獄
風魔法の四階級
1穏やかな風
2強風
3台風
4異次元風穴
そうこうしている内に、世界は、回っていく。
とある、存在比率の世界では、何処かの国の王子と、世界から、認知されなくなった、少年が、巨大樹の下で出会っていた。
「この世界の事は、余にはわからぬが、汝は、如何やら、何かの呪を受けているようだな。」
「呪い。」
私は、訊き返した。私は、時風 来である。如何した訳か、世界から、認識されなくなってしまった。そして、私を唯一認識できる、人間に出会ったが、そいつは、別の存在比率の世界から、来たとかいう、亡国の王子ならしい・
「そう、呪。この額の十字架と何か因果があるのやもしれぬ。呪と言うより、祈り、願いか、生命進化の結果だよ。」
「生命進化の。か。私は望んだつもりはない。ないのだ。」
「いいや。無意識下で、望んでいたのさ。何かやったんだろ。そうじゃ無きゃ。世界に拒絶なんてされやしねえよ。」
人を殺めた事か。あの事で、気に病んでいたのか。ずっと、ずっと。病んでいたのか。
そして、世界から忘れ去られようと願ったのかも知れない。罪悪感に耐えかねて。
「あたしは、人を殺めた。憎い奴だった。それだけだ。」
「ああ、そうかい。そりゃ、よくある事さ。」
殺人を肯定された事で、何故だか、心が少し軽くなった気がした。
「人殺しに、罪悪感を覚えるな。御前が殺したんだ。もっと、堂堂としていればよい。」
その、亡国の王子はそう言って、空を見上げた。
「王として、敵対するものを殺さなくてはならない事が存在する。自分にとって、の正義が否定された時は、人は人を殺めるものだ。其れに、罪悪感を覚えれば、死者の顔も浮かばれない。堂堂と生きよ。それだけだ。」
私は、殺した。けれど、其れは、自分の原稿が破られたからだ、只それだけの理由で殺したのだ。からかわれたから、殺したのだ。短気すぎた、幼かった。けれど、後悔はしていない。殺さなくてはならなかった、次は、殺さない程度に、言葉で、しっかりと、相手を牽制しようと思ったし、上手な大人の付き合い方が出来るようになればよいというだけの話だ。彼奴は、私の成長の為に死んだのだ、寧ろ光栄だと思えと思った。
「しかし、其れが原因ではないようだ。この世界は、原因不明の人口減少現象が起こっているらしいな。そりゃ、存在飛ばしが起こっているんだな。」
「存在飛ばし。」
「存在飛ばしってのは、よく分かってねえ処が或る。余がこの世界に来たことが原因かも知れぬ。我は、世界から、拒絶されているであろうからな。我のエネルギーを相殺する為に、他の人間の存在が消え去っているのやもしれぬ。もしやすると、お主らは、聖人という種族なのやも知れぬ。聖人は、余の種族の親だ。聖人が暴走して、我ら○○○族が生まれたのだ。」
そんな、現象があるのかと、初めて知った。
湊川 翔は、確かに、私が殺したが、もう少し、私が大人であれば、友達に成れていたのかも知れない。しかし、もう、済んだ事だ。湊川 翔は、私が初めて殺した人間だ。これから、何人の人間を殺す事になるのかも知れずに、この時はそのような事を考えて居たのであった。
三層世界。この世界の人間が消える事は、二千億年前の歴史から、変わらない、遠くなるほど先の未来からその因果は決まっていた事である。
存在濃度。
その正体は、エルナ族。
あの種族が作り出した、過去現在未来を超越した、存在生成装置。存在を作り出し、入れ替える魔導。
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