王子との出会い。

私を苛めた、彼奴の事さえ、懐かしいこの、の、

 もう二度と、会う事の出来ない、男だ。

 港川 翔。

 あいつを殺した、辺りから、何かが狂い始めたような、気もする。

 森を歩いていると、大きな、谷底が、あった。

 深い谷だな。

 いっそ、此の谷に落ちて、死んでしまおうか、とも思った。

 しかし、思いとどまった。其れは、一重に、一つの小さな夢の為であった。

 そう、大作を書き上げると、いう、夢のため。

 この事件の真相を知って、其れを、書くまでは、死ねない。

 意地だった。

 その意地で、手掛かりを探していた。

 其れが、償いだと、思った。

 今できる事をするのだ。自由になれたのだから。

 

 その時、奇妙な、少年を見かけた。

 巨大な、樹木の前で、立っている。木々の隙間から、出る木洩れ日に、当てられた、少年は、何処か神聖で、美しい。

 「あの。」

 目があった。

 ドキッとした。

 何なんだこの少年は。

 「貴様。私を殺す気か。」

 男は、射殺すような、目で、私を睨んだ。凄い剣幕だ。

 「いいえ、殺しなど、しませんよ。」

 「この、額の十字架を見てもか!!!。」

 男は、額の前髪を上げ、十字架を見せた。

 はじめ、其れが、何かの画か、入れ墨か、タトゥーだと、思った。それに、自分を認知できる、人間が、いた事に驚き、何かの手がかりになるのでは、無いのかとも、期待した。

 「しないさ。何のタトゥーなんだそりゃ。お洒落だな。」

 「ばっばかにしているのか、誇り高き民族の象徴だろうが、生まれつき、この誇り高き民族には、額に、十字架の紋章が、刻まれているのだ。」

 男は、大真面目にそのような、事を、言っていた、嘘は、無いように、思われた。小さな頃に親にでも彫られたのだろうか、そうして、洗脳教育でも、受けて育ってきたのだろうか、と、何処か気の毒になった。

 「悪かったよ。ま、個人の自由だしね。其れで、こんな処で、何をしているんだ。」

 「ああ、仲間を探しに来たのだ。意思を継ぐものを、集めにな。もうじき、戦争が、始まる。」

 確定だ。

 頭のいかれた、中二病患者らしい。こういった時期が誰にでも、或るものだよ。私も、中学校の頃は、その様な、事を信じて居たさ。

 「もう、君も、速く大人になるんだね。こんな森の中は、危ないよ。」

 「貴様。私を愚弄する気か。許さんぞ。誇り高き民族の王を愚弄する気か。覚悟は、出来ているんだろうなあ。」

 男は、そう言うと、その巨大な樹木を片腕で、殴った倒した。

 ゴゴゴゴゴと、倒れていく。

 化け物だ。

 こいつの言っている事は、はったり、では、無かったのだ。

 此れは、不味い。

 素性が、知れないが、誤っておくのが、定石だ。

 「悪かった。ごめんなさい。謝るよ。」

 「わかれば、いいのだ。王の寛大さに、感謝する事だな。」

 偉そうだが、あれを見せられては、仕方あるまい。確かに、人間以上の、何かを見たのだから。

 「其れで、王の、仲間とは、一体どのような者なのでしょう。」

 「我々の一族は、かつて、迫害されていた。生きる場所が、無かった、だから、異世界に逃げ込んだのだ。」

 ああ、読めてきた。ありきたりな、異世界小説によくある、展開だ。此奴は、如何やら異世界人で、この世界に、逃げこんできた、亡国の王子ならしい。

 こんな、事が、現実に、あるというのが、実に、奇天烈であった。

 「なるほどねえ。どうやって、此方の、世界へ、やって来たのだ。」

 「其れは、存在の濃度を消す事だ。」

 存在の濃度とは、何なのか。

 其れは、消せるものなのか。丁度今、自分が、陥っている状況と、関係が、あるのかもしれない。

 「存在の濃度とは、何なのか。」

 「この世界の存在の濃度は、60%だ。我々の来た世界では、61・009131%だった、そういった僅かな濃度の違いで、この世界には、複数の世界が、存在するのだ、物質には、予めその濃度が、割り振られている。」

 そんな、事、この世界では、未だに発見されていない、発見であった。

 「ほう、そりゃ、エミール賞ものだな。」

 「なんだ其れは。」

 この世界で、最も権威のある、科学の賞の事である。

 「ほう。そんな、事も、この世界では、常識となっていないのだな。」

 「悪かったな。」

 「しかし、存在の濃度は、現実問題、変更できない事が、分かっている。つまり、完全なのだ。」

 「完全・・・。」

 「しかし、私は、この世界に居る。其れは、この民族に、現れた生物学的、特性とでもいえばいいのか・・・。」

 少年は、頭を抱えて、その後、爪を噛んだ。

 「我々の民族は、この頭の十字架により、濃度を少しだけ、変更する事に成功した、生物なのだ。長きに渡る生命進化の中で、我々の体内のミトコンドリアは、消えた。何処にいったのか、違う濃度の世界だった。」

 「ほう。」

 「その後、其の能力が、細胞単位に迄、広がった。犠牲者は、いた。ミトコンドリアが、なくなる事で、呼吸が出来なくなり、死んだ者が、後を絶たなかった。原因不明の病と呼ばれ我々の民族の、99.9999%は、その災害により、絶滅の危機に瀕したが、私の直属の、七世代前の、御爺さんが、生き残った。」

 「その、御爺さんの祖先が、御前らって訳か。」

 「ああ、御爺さんの額には、十字架が、あった。戒めの十字架だと、いっていたらしい。文書による、記録でしか、分からない事だがな。その原理は、未だに科学者でも、解明できていない。」

 

ある愚かものの、懺悔。

 何を、言った処で、信じてもらえないだろう。

 此れ迄、私は、嘘を、作り続けた。

 其れは、現実への、アンチテーゼであった。

 どうにも、ならない現実への、ノイローゼでもあった。

 物語をつくるとき、私はライトノベルを忌避していた。

 ライトノベルは、文学では、ないと、忌避していたし、そもそも、文学が、嫌いだった

 自然科学が、世界の全てである、と思っていた。

 夢を、失ったものが、行きつく成れの果てが、芸術であり、文学は、その中でも、最も、くだらないもの、実用性のない、無駄なものだと、嫌っていた。

 特に、ライトノベルは、見下していたのだ。

 

 私は、物語を書くようになった。

 其れは、単純に、自分が、人生において、敗北したからだ。

 詳しい事情は、言えないが、私は、負けた。

 失敗した。

 痛手を被った。

 其れは、私の人生を狂わせた。自業自得だ。

 勿論、周りのせいに、しても、よい事もある。

 が、どうにか、出来た事だ。

 私が、一歩勇気を出して、踏み込めば、この様な、惨状には、なっていなかっただろう。

 

 生まれが、悪かった。

 そういってしまえば、全てが、台無しになって終うような、気もした。

 命を絶つ事も、考えた。

 結局、死ねなかった。

 死ねなかった私の、取った行動は、現実逃避。

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