額の十字架と、奥村 恋

私は、其れが、下手糞だった。

 作る方が、得意だ。

 シャイな私には、中々、厳しいものが、ある。

 其れでも、私は、ネットでの、活動も続けている。

 其れは、魅力が、あるからだ。

 ネットで、有名になれれば、資金になる。

 そう考えると、資本主義の時代に生まれた自分としては、目が眩むのだ。

 

 ライブと言うのを、した事もある。

 あれで、フォロワーが、増えないか、と考えたのだ。 

 フォロワーが増えれば、見てくれる人が増えると、考えたからだ。

 しかし、最近は、何だか、怖くなってやめた。

 時間が、奪われていると、思ったのだ。

 ライブに意味は、無かった。

 一つのちゃんとした、動画を創るほうが、意味はあるだろう。

 と、そう思うようになった。

 

 私は、考えた。

 やはり。と思い至った。

 小説は、wardで、書くべきなのだと、思い知った。

 その方が、作品に集中できる。

 其れが、真相だった。

 どうも、web上で、作った物は、安っぽくなる。

 媚びを売ってしまうのだ。

 ネット上の、誰かに向かって、其れが、かえって、自我を消失させているのだ。

 額に、十字架の男も、そう言っていた。

 額に十字架の男は、名前を、恋 と言ったが、確か、十数年前、この世を去った。

 私の従兄の、子供だ。

 私の子供は、死んだ。

 交通事故で、無くなったのだ。

 嫁は、泣いていたが、やがて、ふさぎ込むようになった。

 最近ようやく、御飯を食べられるように、なったのだ。

 

 嫁の兄の、子供は、額に十字架を持っていた。

 この世界では、其れは、悲惨な死と引き換えに世界を変える運命を意味するのだという、伝承が、広まっていたため、両親は、其れを隠す、為に、子供の前髪を伸ばした。

 両親は、言い聞かせた。

 何があっても、人前で、その、額を見せるんじゃないよ。

 

 額を見せると、迫害にあう。

 世界を変えられる事を畏れた、貴族や、国の偉い人間が、作った、偽りの言葉で、彼等は、こう呼ばれた、悪魔の子と。 

 額の十字架は、悪魔を意味する。

 そのような、根も葉もない、噂が、1885年頃より、広まった。

 其れ迄、額に十字架のある者達は、迫害の対象には、ならなかった。かつて、3000年前に、起こった大虐殺。その反省が、あったからだ。

 十字架は、神聖な意味を持っていた。

 其れは、2021年の現代では、悪魔のシンボルと、されて居る。その事を知っているのは、私達の一族と、世界中の、一部の権力者だけだ。

 

 今日も、額に十字架のある、誰かが、石を投げつけられていた。

 「この、悪魔がああ。出てけえ。」

 未だ、子供の女の子だった。

 僕はそういった光景をみて、育ってきた。

 だから、決して、この額は、周囲には見せられない。

 額には、ペンキを塗ってある。メイクをしてある。其れで、肌色になじませてある。

 もし、バレれば、僕もあっち側の人間になってしまう。

 両親は、このマークが付いていなかった。

 おそらく隔世遺伝と、いうやつなのだろう。

 

 いつもは、そういった光景は、日常で、見て見ぬふりをして、通り過ぎる、ハズだった。

 其れなのに、如何した訳か、その日は、かってに、身体が、動いていた。

 「そのへんに、しといて、やれよ。」

 相手は、大人だ。

 21歳くらいだろうか。

 14歳の自分には、其れは、大きく思えた。

 20代の男が、10人程度。

 束になって、石を投げつけている。

 その様子をみて、周りの老若男女は、注意する事も、なく、むしろ、応援さえしている。石があたる度に歓声が、上がるのだ。

 そんな、、光景を見ているのが、日課だった。 

 我慢してきた。

 

 奥村 恋は、殴り掛かった。

 僕は、其の光景を、あの時、あの現場で、見ていた。

 ナサニエル通りの、住宅街でのことだった。

 その光景を見て、驚いた。死んだ僕の子供の、友達だった 奥村 恋が、この様に、勇気ある行動をとるだんて、驚いた。

 

 「やはり、祖父の血を深く受け継いでいるようだな。」 僕は、そう言って、恋を見た。

 父は、額に十字架の男だった。

 戦争で、死んだ。バカ親父だった。

 子供で、ある、私を捨てて、戦地に、飛んでいったのだという。勇敢な戦士だったらしいが、戦死した。

 その、父親も、額に十字架の男だった、いう。

 恋の曽祖父という事になる、その男は、1885年の事を知っていた、らしい、あの時何があったのか。

 この苗字は、政府から、逃れるために、作った偽造だ。

 本当の、苗字は、○○だ。

 誰もが知っている、教科書にも、載っている名前だ、この国では、悪人扱いされている、あの一族、滅びた事になっている、あの一族なのだ。


 姫彦 社は、泣いていた。

 「どうして、助けてくれたの。」

 社は、恋を見て、訊いた。

 「なんとなくさ。友達が、交通事故で、死んでむしゃくしゃ、してたんだ。若気の至りってやつだよ。」

 「へえ。ありがとう。」

 奥村 恋は、喧嘩が、異常に強かったのだ。

 「君は、僕を、庇ったせいで、仲間と思われて迫害にあうかもしれないよ。」

 姫彦は、自分の身の安全よりも、先に、奥村 恋の心配をしていた。

 「いいんだ。」

 恋は、額の髪を上げ、ペンキを落とす、液体を、塗った。

 「え、君も・・・。」

 「ああ、そうさ。此れで納得だろ、仲間なのさ。」

 社は、気の毒そうに、此方を見た。

 「君も悪魔の子だったんだね。」

 悪魔の子。確かに、忘れられた歴史を知らない、者は、私達の事をそのように、呼ぶのだ。

 「いいや。悪魔の子では、ないさ。かつては、迫害を受けてなどいなかった。教科書のような、悪事も行ってはいなかった。全ては、政府の連中の、出まかせ、さ。」

 社は、気の毒そうに、していた。

 「もう、迫害に耐え切れなくて、意味の分からない妄想をするように、なっちゃんだね。そんな、額にペンキ迄塗って。」

 とほほ。と社は、笑っていた。

 「君、信じてないね。」

 「信じられるはずが、ないよ、そんな夢物語。」

 「たくっ・・・。」

 

 家に帰ると、母親の華憐と、父親のベルクが、出迎えた。

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