手段その2 添い寝
「おはようございますお兄様」
「おはよう……って何してんの!?」
目を開けると渚の顔が目の前に。
飛び起きてベッドから出ると、渚はゆっくりパジャマ姿で起き上がる。
「お兄様の寝顔、とても可愛い」
「そ、それはどうも……じゃなくてなんで俺のベッドで寝てるの?」
「? それは私が夜にお邪魔したからですけど」
「理由を聞いてるの!」
「お兄様と一緒に寝たかったからですが、ご迷惑でしたか?」
「め、迷惑というか……」
何が一体どうなってるんだ?
どうしてこの子は俺と寝たいだなんて……
「私、お兄様のことが好きなので。好きな人と寝たいと思うのは普通ではないですか?」
「そ、それはどうも……って今なんて?」
「え、お兄様を愛してますと」
「いやいや表現がストレートになってるよ!?え、それは家族としてってこと?」
「いえ、異性としてですが」
「……はい?」
俺は人生で初めて異性に好きといわれた。
それは昨日できたばかりの妹。義妹にだ。
もちろんこんな可愛い子に好きと言われて嫌な気はしない。
しかし、あまりに唐突でしかも義理とはいえ兄妹という関係の相手からの言葉に俺はなんと答えたらよいか全くわからない。
「おーい、何か物音がしたけど大丈夫か?」
まずい。親父だ。
俺の部屋に渚を連れ込んでるなんて思われたら何を言われるか。
しかし足音がこっちに向かってくる。
俺は彼女を隠せそうな場所を探したがどこにもない。
うろたえていると、渚がそっと扉の方に。
「お兄様、大丈夫ですよ」
可愛らしい顔でニコッと微笑んで渚は部屋を出る。
「お義父さま、おはようございます。お兄様を起こしに来たら驚かれただけです」
「そ、そうか。ハルト、お前もお兄ちゃんなんだからしっかりしろよ」
「わ、わかってるよ」
「じゃあ俺と優ちゃんはちょっと出かけるから。朝飯置いてるから食べてから学校行くんだぞ」
渚の機転によりなんとか事なきを得た。
しかし、親父が去るとまたこっちを見て俺の方に彼女が近づいてくる。
「な、なんだよ」
「お兄様、これからずっと一緒ですね。私、お兄様に愛していただけるように努力しますから」
「努力って……いや、なんで俺のことが好きなんだよ。昨日会ったばっかりだろ」
「私、お店で働くお兄様にずっと恋焦がれていました。ずっとずっと見ていました。だからこうして家族になれて私、幸せです」
どういうことかというのはこの後に渚が丁寧に説明してくれた。
つまりは彼女、うちの常連だったそう。
放課後や土日にアルバイトをする俺に惚れて、ずっと店に通っていたのだとか。
俺はホールに出ることは少なく時間帯的に学生客は多い為、この子のことに気づいていなかったのだけど、それであればどうして声をかけてこなかったのか。
それについては単純に恥ずかしかったと言っていたが、そんな子が急に大胆になるものかと疑問は残る。
「あの、もしかして優子さんもお店の常連?」
「いえ、私が紹介しました。そして、お義父様と結婚してほしいとお願いしたのも私です」
「なんだって?」
それは衝撃的な内容だった。
片親で幼少期から不遇だった彼女は優子さんにかねてより、私に出来ることがあったら言いなさいと言われていたとか。
そして彼女は母親に願った。
俺と家族になりたいから親父と結婚してほしい、と。
いや、そんな話があるか?
「ゆ、優子さんはそんな理由で親父と?」
「いえ、いい男性がいますよと紹介したまでです。でも、私はお義父様との結婚を強く勧めたらその通りになってくれたので私は大変満足しています」
「で、でもなんでわざわざそんな手の込んだことを」
「だって、私もお兄様も高校生ですから結婚はまだできませんし、一日も早く家族になるにはこれが一番最良かと」
さも当たり前なことを話すように淡々と、なんの躊躇いもなしに語る彼女を見て俺は震えた。
この子、とんでもないメンヘラ。
いや、もうヤンデレとかメンヘラとかそんな括りではない。
病気だ。
そうでなければこんな病的な発想が浮かんでくるわけがない。
……でも、なんで俺なんだ?
「なあ、俺に一目惚れでもしたというのか?」
「はい、お兄様を一目みてこの人の子供がほしいとそう思いました」
「こ、子供って……」
「お兄様、私に魅力を感じませんか?」
「そ、それは……」
顔だけ見れば超がつくくらい可愛い。
そして丁寧な喋り方に澄んだ声。
こんな美少女なら当然、俺のような童貞がその求愛を断る理由などないのだが……
「い、いやダメだ。親父を裏切れない。俺たちがそんな関係になったらあのカタブツの親父のことだから責任を感じて離婚するとか言いかねないし」
「そう、ですか。それでは私のことは嫌ではないと?」
「ま、まあ別に嫌とかそういうわけでは」
「ふふっ、嬉しい」
眩しいばかりの笑顔に俺は少しキュンとしてしまう。
ただ、忘れてはならない。渚は部屋に忍び込んでくるような女だ。
そんなやつに気を許したら何をされるかわかったものじゃない。
「と、とにかく早く学校いかないと遅刻だぞ」
「そうですね。では朝食としましょう」
俺の反応に満足したのか機嫌よく部屋を出て行った。
それをみて大きくため息を吐き、一度ベッドに腰掛ける。
……とんでもないことになった。
やばい女の子に目をつけられてしまった。
しかもそれが毎日同じ家で暮らす義妹だとなれば一層まずい。
一体これからどうなってしまうのか。
「お兄様、まだお着替え中ですか?」
「い、今いくから」
外から彼女に呼ばれて慌てて制服に袖を通して部屋を出る。
キッチンではすでにパンとスープが並べられており、向かい合わせて食事を……
「あ、あの、向かいが空いてるよ?」
「いえ、お兄様のお隣がいいです」
なぜか並んで朝食となる。
そして親父たちがいないのをいいことに、彼女は距離を詰めてくる。
「た、食べにくいんだけど」
「でも私はとても充足感でいっぱいです」
「え、ええともう少し離れてもらえるとありがたいんですが」
「嫌です、お兄様は私だけのものです」
「……」
急に脱ぎだしたりしないだろうかと、そんな心配をしながらパンを急いで口に運ぶ。
ただ、そんなエロい展開にまではならず食器を片付けてから一緒に家を出る。
「お兄様、今日からお兄様と同じ学校ですからよろしくお願いします」
「ああ。でも学年も違うんだし特にこれといって」
「休み時間はいつもお伺いします。あと、お昼はご一緒しましょうね。明日からはお弁当も作りますので」
「い、いやなにもそこまでは」
「もしかして、お兄様は学校でお付き合いなさっている方でも?」
「え?」
彼女の明るい表情が一変した。
睨みつけるように目を細め、俺の袖をまるで引き破るかのように強く握る。
「な、渚?」
「お兄様、答えてください」
「い、いないよ……」
「そうですか。では何も問題はありませんね」
パッと手を離し、表情もみるみると明るくなる。
「では参りましょう」
「う、うん……」
突然できた超可愛い義妹との初めての登校は早速波乱含み。
もちろん学校で何もないわけもなく、俺は彼女の執着の強さを思い知らされることとなる。
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