第5話 龍刀使いのマハト⑤


ザイドはアルセル王国の辺境部、サクソンという地域で生まれた。


サクソンは非常に荒廃した地域だった。元よりあまり農業に適した場所ではなく、地形も山地の多い場所であるため、あまり豊かな土地ではない。おまけに、アルセル王国に並ぶ大国であるヴァークラス王国との国境に近いため、歴史上何度も大国同士の戦争の戦地となっていたのだ。


そのため、サクソンには地上に軍人が多く住んでおり、近くに巨大な要塞があったため、そこを守護するための軍需産業が発達していた。


ザイドはそんな街の、小さなピストル工場を営む家庭で生まれた。父親がピストルをいじっていたため、ザイドは幼い頃から武器に触れていた。ごく自然に銃の撃ち方や照準の合わせ方を学習し、青年になる頃には街で一番のガンナーとなっていた。


また、非常に頭も切れた。難しい科学の本を読破し、学校では先生ですら理解に苦しむ哲学の書物を要約して同じ学生たちに教えていた。


武器の扱いに優れ、なおかつ非常に優秀であったザイドはサクソン地方軍に従事してすぐに役職を与えられ、異例の速さで自分の部隊を持つまでになった。この時にもらった勲章用の小型霊装は、今でも大切に持っている。





ある日、ザイドがさらに出世し、要塞にて砦の防衛部隊の隊長を任されていた時。ヴァークラス王国による大規模な進行が行われた。


サクソンの要塞は非常に防御が固く、ヴァークラス軍の大軍をもってしても攻め落とせずにいた。特にザイドが守護していた砦は難攻不落であり、数多くの敵兵を沈めることに成功した。



「いやー、今日もザイド隊長のおかげで生き延びれました!完璧な作戦、お見事です!」


「よしてくれ。作戦だけじゃ勝てやしない。大事なのは、それを正しく遂行してくれる君たちのような兵士だ。そして、兵士を失えばどんなに優れた作戦も無意味になる。作戦を守るために、兵士を失うようなことがあってはいけないからね」


「おお、隊長……!俺たちのことを……!」


「嬉しいです!一生ついていきます!」


戦場は命の懸かった危険な場所だ。だが、そこには確かに兵士たちの絆が存在していた。敵国の兵士とはいえ人を殺めることにはそれなりの罪悪感を抱くが、罪悪感を抱けるのは生きているからだ。死んだ仲間のためにも、まずは生き延びなければならない。ザイドの部隊は防衛に優れていたが、何より戦死者を最小限で止めることに定評があり、部下からの信頼も厚かったのである。


そんなザイドだからこそ___要塞の中に裏切り者が発生し、要塞が陥落寸前になっても、決して諦めなかった。


「隊長!南南東より裏切った第4部隊が迫って来てます!もう守りきれません!」


「このままじゃ弾薬も武器も尽きる!精鋭を霊装で武装させ、一気に道を切り開かなければ、全滅します!」


「落ち着け!まずは手榴弾と砲撃で進撃を止めろ!敵が止まったら、順番に地下壕から離脱していけ!」


「___!了解しました!」


「いいか、なんとしても生き延びるんだ!みんなの家族はもう避難できてる!ここを生き延びて、必ず家族と再開するんだ!そして、必ずまた酒をパーっとやるぞ!」


「「「はっ!」」」


そうして一致団結して作戦を遂行し、無事にザイドらの部隊は戦場から離脱することに成功した。何人かの仲間を失ったが、ここは戦場だ。隊長の自分が悲しんでいる場合ではない。今は涙を堪え、必ず生き延びるのだ___。





だが、その覚悟はすぐに無駄なものへと変わってしまった。





「おい、なんだあれ?」


地下壕から抜け出し、なんとか戦場から離れた森林に出たザイドの部隊は、空から降ってきた巨大な光を目撃した。


光は一本にまとまっており、まるで一本の槍のように下へと降りてきていた。遥か上空にあったために気づかなかったが____それは、サクソンの街と要塞を丸ごと飲み込むほどの、あまりにも巨大な光であった。


光を目撃してから間もなく、光の槍はサクソンの戦場のちょうど中央部分に落下した。光は戦勝気分にわいていたヴァークラス王国の軍勢を丸ごと飲み込んだ後、周囲に想像を絶する大破壊をもたらすことになる。


ザイドの舞台がいた森林は、全てを破壊し尽くす熱風によって一瞬にして消し飛んだ。ザイドは部下によって投げ飛ばされ、ギリギリのところで地下壕のに放り込まれたことで直接熱風を受けることはなかったが、部下たちは跡形もなく、炭にすらならずに消え去った。


大破壊が起こった後、あたり一面を覆ったのは、あまりにも大きすぎる熱量によって起こされた破壊の跡。マグマに覆われた巨大なクレーター、そして焼き尽くされたサクソンの街であった。





しばらくして、ザイドはなんとか自力で地上に出た。


地上は、まさしく地獄と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。あたり一面が黒く焼け焦げ、炭の匂いが充満していた。走ってサクソンの街へと向かったが、街の建物は全て破壊されており、人一人どころか、野良猫すらいない廃墟の街となった。


部下によって命懸けで助けられたザイドは、あの光がなんだったのか知りたいと考え、なんとかして王国の軍勢と合流しようとする。そこに、あるものが現れたのだ。



「可哀想に。部下を失い、故郷すら失っても、まだこの国に忠義を尽くすとは。護国の兵とは、まさに君のようなものを言うのだろうね」


まるで少年のような見た目のその者は、見た目はとても幼く見えたが、その瞳にはかつて目にしたどの王国の将軍たちよりも、遥かに老獪さを感じさせるものがあった。


「君、あの光の何なのか知りたいんでしょ?情報を得ようと、わざわざ王国軍に合流しようとしているようだけど」


ザイドはその少年の前に倒れ伏してしまった。既に何日も水も食べ物もなく彷徨っていたのだ。体力も既に限界であった。

だが、なぜかそれでも少年の言っていることは妙に鮮明に聞き取れた。掠れた目と耳で、少年の姿と声に感覚を傾ける。


「まず、言っとくけど王国軍はどこにもいないよ」


「…………っ!」


「別に王国軍は君らを助けようとなんてしていない。裏切りが発覚して要塞の陥落が確定した時から、既に王国軍は君らを見捨てる気だったんだ」


「…………」


嘘だ。そんなことはありえない。

サクソンの要塞は国防の要だ。陥落されてしまっていいわけがない。それでは、ヴァークラスの軍はどうやって止めるというのか。


すると、少年はまるで自分の心を読んだかのように、疑問に答えてくれた。


「あぁ、ヴァークラスの軍隊は、例の光で全滅したよ。あんな大軍を失って、ヴァークラス王国にとっては大打撃だろうね」


「……なっ……!」


あの光は、ヴァークラス王国の兵器ではないのか?それでは、あの光の破壊は一体何だと言うのだ?


「あの光は、アルセル王国の秘密兵器によるものだ。"神の槍"とか、"裁きの光"とか呼ばれている、超強い霊装の攻撃だよ。要塞が陥落したことを知った王国の軍部が使用したっぽいね。まとめてヴァークラスの軍隊を掃除するためにね」


______。


理解が追いつかなかった。

一国の軍隊を、一瞬にて壊滅させるだけの威力を持った霊装。そんなものがあるのに、なぜ兵士たちが戦う必要がある?

それほどに強いものがあるなら、なぜサクソンの戦場に来る前に敵に撃たなかった?


それに、もしあの光が王国のものであるとするなら______



「待て……」


「おやおや、無理して喋んなくてもいいよ」


「俺たち……は……見捨て…られた……とでも……言いたい…のか……?」


すると、少年の顔は一瞬で真剣なものになった。



「俺たちが……必死に……生き…残って……生き延びたと…しても……まとめて……殺される運命……だったの…か?」



途端に、何か大事なものがバリンと割れる音がした。



自分は、国のために命を懸けた。そして親愛なる部下たちも、平等に命を懸けて戦った。誰もが、戦うことによって誰かの明日が守られると信じていたから。そして、生き延びた先に待つものが、尊いものであると知っていたから。


だというのに。そんな我々の覚悟も、忠誠心も、絆も、日常を生きる喜びも、敵兵を殺す罪悪感も、そして戦場に散っていった仲間たちの死も、全て全て_______



ただ、まとめて消してしまう程度のものだと言うのか?


王国にとっては、我々は生きても死んでも、戦っても逃げても、ただ光の前で逃げ惑う、哀れなネズミとでも言うのか。



「ああ、ああああ」


ザイドは、絶望した。





「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」





枯れた喉から、血が吐き出される。既に喉が潰れ、張り上げた声は音のないものへと変わってしまった。


その様子を見て、少年はザイドに水の入ったコップを差し出した。ザイドはあまりの乾きに、コップをとって一気に飲み干した。乾いた体に、再び生気が宿っていく。



「哀れな兵士ザイド。_______僕の仲間になってくれ」



その時差し伸べられた手を振り払うことなど、ザイドにはできなかった。





こうして、アルセル王国の反政府組織「アルテノ」に、新たな戦力が加わった。その者は後に「白狼」という異名をつけられ、遭遇したものを一人残らず殺し尽くすことで有名となったのだ。





___________





ザイドの剣「ガノン」とマハトの持つ刀「龍刀」が衝突した勢いで、広間の地面が崩れた。


広間の下にはただ地面があるだけではなく、巨大な洞窟があった。洞窟には浅い水が張られており、神殿を作っていた光る石によって神秘的な光景を生み出している。


ザイドとマハトの二人はそのまま洞窟に落下し、神秘的な景色の中で再び相対した。


「……なるほど、それが『龍刀』の力なのですね」


マハトが手にしている刀は先ほどまでとは異なり、既に光を発していない。代わりに、強きものだけが感じ取ることのできる、不気味な圧力を発していた。


「あんたの剣、よく分かってなかったけど、相当いいものなんだな」


ザイドが手にする霊装の強さに気づくマハト。「龍刀」を手にしたことによって、これまでなんとなく触れていた霊装の「強弱」に気づくことができた。

右手に握る「龍刀」の発するエネルギーは、先ほどまで無理矢理使っていた霊装とは比較にならない。まるで刀自体が生きているかのように、際限のない力がマハトに流れ込んでくる。



(うむ。実際に生きておるのでな)


「うわっ?!」


突然頭に響いてきた声に驚くマハト。その声は、暗闇の中で相対した黒い龍のものであった。


(分かっていないようだから言っておくが、その刀は儂の力の結晶、いわば儂そのものだ。龍の力をそのまま刀に込めておる故、並の人間では扱えんぞ)


「ははっ、なんだ。そこにいたのか」


(……お主、敬語はどうした?刀になったとはいえ、儂は龍神ぞ?)


「あんた、尊敬されるの好きだったんだな」


(当たり前だ!尊敬されるのを嫌う奴がどこにいる!)


龍とは、案外人間臭い生き物なのかもしれない。

龍に対して抱いていた硬いイメージが段々と崩れていくマハトであった。



「それはそうと、なんて呼べばいいんだ?」


(儂に人間のような名などない。儂を儂以外と区別する必要がないのでな。龍神様とでも呼ぶが良い!)


「……いや、ただの刀に"様"つけるの嫌だな。普通に"龍刀”でいいや」


(なんじゃとーーー!)


「おい龍刀、もっと力くれないか?こいつ、めちゃくちゃ強い」


心の中にいる龍と会話しながらも、マハトとザイドの斬り合いは続いていた。マハトは龍刀の力によって自身の力が増したことを実感している。だからこそ、先ほどまでなんとか戦えていたザイドは今の力なら簡単に倒せると思っていたのだが、ザイドはどうやら力を隠していたようだ。


先ほどまで冷静で防御重視の戦い方ではなく、積極的に自ら攻めに転じている。それならマハトは防御に徹し、カウンターを狙うのが王道なのだが、ザイドの隙のない動きがそれを許さない。攻撃の手は激しさを増す一方なのに、カウンターの隙をしっかりと的確に潰しながら戦っているため、こちらからの攻撃も最小の動きで無効化されてしまう。マハトも負けじと攻めに転じているのだが、ザイドの絡みとるような戦い方の前に徐々に追い詰められつつあるのが現状であった。


決め手になるものがなければこいつには勝てない。マハトの直感が、そう告げていた。


(はっ、尊敬もしていないやつに力を貸す気はないわい!儂は欲張りかつ多メシ喰らいでな、このくらいでは全然ダメだ)


「クソ、ケチな龍め」


そう愚痴りつつ、ザイドの鋭い突きをギリギリで回避する。ザイドは間髪入れずに流れるような4連撃を見舞うが、体をひねり、適度な角度で攻撃を防御することでなんとか攻撃をいなした。


攻めきれずにいるザイドも、マハトと同じようなことを考えていた。


(この少年。どんな手法を取ったか知らないが、傷を完全に回復させている)


ボロボロの状態から復活したマハトは、戦闘が始まって間もない時のマハトを思わせる若々しい動きを連想させる。しかも、何かの力によってその動きはさらに洗練され、圧倒的に早いものとなっている。


戦闘の技術において、経験豊富なザイドはマハトよりも格上だが、こと身体能力においては既にマハトが上回っていた。ザイドには先程の戦いも疲れもあるが、マハトにはそれがない。年齢的にも、スタミナの有利はマハトにある。


おまけに、マハトには天才的なセンスが味方している。ザイドでは考えもつかない動きを何度も行い、自分を通してマハトは動きを学習しているのだ。

学習の速度は尋常ではなく、既にザイドはマハトの動きを予想できなくなっていたのである。なんとかそれまでに培った戦闘センスで補ってはいるものの、このまま戦いが長引けばいつかマハトがザイドの技術を攻略する可能性が高い。


戦闘技術が生きるのは、それがまだ対策されていないほんのわずかな時間だけ。それを活かして殺すことができなければ、ゲームオーバーである。


なんとかしなければ____徐々にザイドを焦燥感が蝕んでいった。



マハトはザイドの予想通り、何度も動きを作ってはザイドに試し、新しい戦闘スタイルを作りながら試行錯誤を繰り返していた。

先ほどまではザイドの猛攻が続いていたが、段々と攻撃に転じることに成功し、今では半分の割合で攻撃・防御が成立している。このまま攻撃を増やせば、勝てる自信があった。だが、自分の技術はヤツに到底及ばない。故に、マハトは学習を試みるのである。

そうして何度も攻撃を繰り返した。フェイントを3回入れた死角からの突き技、背後を取るフリをして正面から斬りつける技、左右への激しいジグザグの移動からの切り上げ技、突き技の威力を利用してそのまま敵の頭上をジャンプし上から斬りつける技、斬り下ろし・斬り上げ・斬り下ろしの3連撃を溜めなしで放つ技、周囲をくるくると回しながら不規則に敵を斬りつける技、体を回しながら流れるように突きと薙ぎを繰り返す技、敵の攻撃動作の直前で手先を狙った突き技をフェイントに使った斬りつけ技________などなど。


通常ではありえない動きが、マハトの天性のセンスによって可能となっている。一流の剣士であるザイドすら予想だにしない攻撃を何度もけしかけ、少しづつマハトは成長していた。


そんな時である。



(小僧、少し握る力を強めろ)


「___?!」


戦闘中、頭に響いた声。咄嗟に反応し、刀を両手で強く握りしめる。


すると、刀から先程の眩い光とは異なる、迸る稲妻のような光が発せられた。



「うわ、すげぇ!」


(そのままヤツを斬りつけろ)


言われるがままに刀を振りかぶり、在撃を放つマハト。


ザイドはそれを、いとも簡単にかわした。マハトが刀と会話している隙に、あらかじめ動きを作っていたためである。

だが、次の瞬間に起こった、のを見て、ザイドは考えを改めた。



(この少年は___今のこの場で必ず仕留める。ヤツの牙は、アルテノにとって脅威だ)


ザイドはマハトを"排除すべき駆逐対象"としてではなく、"打ち倒すべき敵”として認識を改める。



マハトは自身が放った斬撃の威力に驚いていた。


「……すっげ。なんだこれ」


(儂の力だ。儂は「龍」であるが故に、人の身では扱いきれぬほどの莫大な力を蓄え込んである。その結晶がその刀よ。今の儂の胃袋には、過去の持ち主からいただいた生命力がたんまりと蓄えられておる)


「え、生命力」


(そうだ。言ったであろう?儂は多メシ喰らいだとな。儂を振るうのであれば、相応のものはもらわなくてはな。お主からもいただいておるぞ)


「そうかよ。俺は美味しいか?」


(まぁ、間食にはもってこいじゃな。お主と小娘を治すために少し力を使ってやった故、今はまだ空腹だ)


「あ、そう。じゃあ、俺のこともっと食う?」


(ふむ、それは運動を終えてからでよい。前を見るが良い。あの白い男、中々やるぞ。儂と打ち合うには心許ないが___。これは楽しめそうだ)


「___ああ、そうだな」


マハトはザイドが先ほどまでとは異なる圧力を発しているのを感じていた。幻獣のそれよりも濃密な圧力、殺気としか表現できない禍々しく攻撃的なプレッシャーがザイドから放たれていた。


思わずブルリと体を震わせるマハト。戦いは、ここからが正念場であると理解した。

そして、ザイドもマハトも、相手の名前を聞いていなかったことを思い出した。


「……少年。君を殺す前に君の名前を聞いておきたい。名はなんという」


「マハト。おっさんも、死ぬ前に名前教えてくれよ。墓に書いておいてやるから」


「ザイドだ。今から私の全てをもって、君を殺すよ______マハト」



ザイドは既にボロボロになっていた白い霊装を



「……それ、防御用の霊装なんじゃないのかよ」


「ああそうだとも。この白いスーツは、私が冷静で誰からも憧れられる上官であるために着ているものだ」


「…………?」


ザイドは、かつて死んでいった部下たちのことを思いながら、白い鎧を脱ぎ捨てた。


「これを脱いだ以上、私は理想的な上官ではない。のために、敵を滅し殺戮する______『白狼』としての私として、君を殺すよ」


ザイドから禍々しいエネルギーが溢れ出す。まるで「龍刀」の発した光のように、ザイドの体から黒に光る力が溢れ、ザイドの体を覆った。


「おいおいまじかよ。まだ強くなるのかアンタ」


「この姿は体への負担が大きい上に、感情的に昂った状態じゃないと使えないんだ。冷静でいたい私は使いたくなかったが___」


やがて、黒い光がザイドの体を覆い尽くし、光がザイドの中に吸い込まれたと思った時には、禍々しい全身鎧で全身を包んだザイドが現れた。凄まじい覇気がザイドから放たれ、洞窟が揺れた。張っていた水はザイドの覇気によって激しく波打ち、洞窟内を水飛沫が荒れ狂う。

よく見ると、赤黄色に輝いていた剣も、錆が落ちるかのように色が変化し、いつの間にか紫色に輝く魔剣となっていた。



「______。選ばれし我らアルテノの最上位執行者に与えられる、最強の武装だ。君ならもう、なんとなく事情は察してくれるんじゃないかな」


「…………まぁ、めちゃくちゃだなってことは分かったよ」



ザイドの強さは、先程までの比にならない。今の自分では、追いつくことのできない強さになっているだろう。

勝つためには、この龍刀を使いこなすしかない。



「戦いの熟練者としての優しい戦い方はやめるよ。ここからは、単純なだ。力をありのままに振りかざす、理不尽な力を、思い知らせてやろう」



ザイドが動く。マハトにとっては、ここが全ての瀬戸際だ。



「いいぜ。そのカッコ悪い見た目のまんま、棺桶にぶち込んでやるよ」

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