第8話 異界の異界
「草原だね」
柊さんは青空と緑豊かな地面を眺めながらそう言った。
絶対におかしい。
俺たちは下りの階段を下ってここに居る。
見える天井は、俺たちが立っていた場所の地面に当たる部分になる筈だ。
けれど、そんな様子は全くない。
空はどこまでも続いている。
意味不明、理解不能。
でもそんなのは、ここに来てこんな姿になってる時点でそうだ。
『柊さん、分かった事もあるよ』
「うん?」
『ここ、モンスターが居ないんだ』
ゴブリンもスケルトンもミノタウロスも、ましてや竜人とか吸血鬼とかも居ない。
誰も居ないどころか、動物が全く居ない完全な草原。
しかも、川が流れている。
セーフゾーン。そんな言葉が俺のオタクな脳裏に浮かんだ。
ただ、同時にトラップの可能性を完全に否定しきるのは難しい。
「モンスター居ないんだったらやっと寝れる?」
そうだな。柊さんは重症から回復してから動きっぱなしだ。
進化によってある程度は身体が回復する様だが、それでも睡眠が不要になるという訳ではない。
スケルトンの俺は、睡眠も食事も必要ないがゴブリンの柊さんは生物的な欲求は普通に存在してるみたいだし。
『分かった。俺が護衛してるから寝てもいいよ。水もあるし、初級収納の中にはミノタウロスの肉もあるから食事にしても大丈夫だよ』
「やったー! ご飯は死ぬ程美味しくないけど、空腹だと何でも食べれるだけで嬉しいよ」
塩も醤油も無いから仕方ないとはいえ、やっぱり飯は不味いらしい。
まぁ、それでも食事をして貰わないと明日以降の狩りに支障がでる。
我慢してもらう他あるまい。
さて、それじゃあ俺も新しいスキルを使ってみるとするか。
ボーンサーヴァント、と念じると身体から何かが抜けていく感覚と共にリスの様な骨型の魔物が出現した。
ボーンサーヴァントで出せる召喚獣は大きさを大きくする程、出せる数が減る。
と言っても、最小も決まっているからリス位のサイズの召喚獣を五匹出すのが数の上では限界だ。
最大に関しては、大型犬位のサイズまで出せる。
と言っても、大型は一体までしか同時に出せないし、同時に小型を召喚するのも不可能だ。
『よし、お前達は柊さんの警護をしてくれ。もし何かあったら、直ぐに俺の所まで走って知らせに来てくれ』
一匹だけ、翼のある蝙蝠みたいな奴を召喚した。
こいつは飛行能力があるので、こいつを伝令役に任命した。
で、俺自身は何をするかというと探索だ。
この草原が何のために存在するのかは分からないけど、最低限次の階層への階段くらいは見つけとかないとダメだろう。
「それじゃあお休み」
『うん、お休み』
食事やらなんやらを終えて、柊さんが眠りに付くと俺は動き始める。
柊さんが寝ている場所を中心に東西南北に進んでみるつもりだ。
この草原が異空間的な物なら、無限に広がっているとは考えずらい。
だが、もしも転移系の装置によって俺たちがこの空間にやって来たのなら、ここは俺たちが彷徨っていた場所とは全く違う場所という事も考えられる。
ファンタジーが起こり過ぎていて選択肢が多すぎる。
自分の脚で趣、自分の眼で見ない限りは断定するのは危険だ。
取り合えず、最初に俺たちが下りて来た階段に戻ってみる。
階段の様子がどういう風になっているかで、何かヒントが得られるかもしれない。
階段は思いのほか速く見つかった。
昇り階段。けれど、どこにもその先は繋がっていないように見える。
意を決して、俺はその階段を上ってみる。
その瞬間、景色が変わった。
(なるほど、ここが転移か結界の出入り口になってる訳だ)
階段を二段上がると、景色が洞窟に戻る。
逆にそれより下に行くと草原の景色が見えた。
けど、それだけじゃまだ何とも言えないな。
階段の奥、柊さんの位置から離れる様に探索範囲を広げていく。
(いて)
すると、頭が何かにぶつかった。
透明なバリア、結界だ。
手で触れてみると、結界が少しカーブしてるような形状になっているのが分かる。
左右に触りながら移動すると、やはり掌の骨が曲がる。
つまり、結界は円形って事だ。
この草原は円柱状かドーム状の結界によって完全に封鎖されている。
それ以上外には行けない。一応殴ったり斬撃やバレットも撃ってみたが壊せそうな雰囲気はない。
一先ず、結界を一周してみる事にした。
すると、建造物が幾つも見えた。
九つの神殿。
そして、如何にも何か封印されていると言いたげな鎖で縛られた巨大な門。
鎖はどうやっても壊せず、しかも鎖の数は九本と来た。
つまり、九つの神殿で何かをやって九本の鎖を全部解けって事か。
面倒な話になって来たな。
転移して来たのが俺と柊さんだけなら何の問題も無い。
だが、ここで立ち往生していると後ろからクラスメイトがやって来る可能性が高い。
そして、最悪の場合そいつらと戦闘になる可能性がある。
もう、俺はクラスメイトを誰一人として、いや柊さん以外の全員を信用していない。
全員が警戒対象で、できる限り出会いたくないと思っている。
しかし、ここを進むには九つの神殿全てをクリアする必要がある。
他の奴らがミノタウロスを倒せるようになるまでどれだけ掛かる?
霧宗や城崎は、聖剣やら魔法やらのスキルを持っていた。それを使って、いや進化させてたら今すぐやって来てもおかしくない。
頼むから上を目指していて欲しい物だ。
取り合えず、目標はできるだけ強くなる。
仮想敵は霧宗や城崎たちの四人パーティー。
それに勝てる戦力が欲しい。
必要なのはレベル上げだ。
ミノタウロスももう役不足だろう。
ってことはどう足掻いても、この神殿に入ってみるしかない。
明日は忙しくなりそうだ。
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