第7話 無双
「エンチャントブレード」
静かに、柊さんはそう言った。
すると、俺が変形させた骨の剣に鋭さが増し、魔力としか呼べないエネルギーが纏われる。
「グルルルゥゥゥゥ!!」
ミノタウロスは、何度も足裏で地面を擦り、こちらへ突っ込んでくる気満々の顔をしている。
赤い布でもあれば、ヒラリと身をかわしてやる所だが、そんな物は無さそうだ。
「ねぇ、勝てると思う?」
枯れた声で、柊さんは俺にそう言った。
俺は迷わず【装備者伝心】で言い返す。
『勝てるさ』
最初、この世界に来て初めてゴブリンを倒した時、俺は震えていた。
けど、今はそんな震えは全くない。
理由は簡単で分かり切っている。
だって、君が居るから。
それさえ分かっていれば不安は掻き消えた。
ボーンバレット。
骨の弾丸をミノタウロスの目に向けて飛ばす。
「ウォオオオ!!」
怒りを露わにしたミノタウロスは一気に走った。
その速度は、俺には新幹線を真正面から見ている様に見えたけど、でも柊さんには【武器技能】【防具技能】【器用】のスキルがある。
武器の使い方。防具の使い方。それはつまり、俺の使い方だ。
そして、器用はその精度を更に向上させる。
「行くよ」
『あぁ』
ミノタウロスと、俺たちはすれ違う。
同時に、二つのスキルが発動した。
「スラッシュ」
『ボーンスラッシュ』
一刀の運動を強化するスキル。
変形させた骨の刃の運動を強化するスキル。
同時に発動した二つのスキルは相乗効果を発揮する。
本来、スキルは同時に一つしか発動できない。
しかし、それは俺と柊さんという一つの身体に宿る二つの意思が解決した。
結果的に振るわれた斬撃は、俺の反射速度などぶち抜いて。
いつの間にか、俺と柊さんはミノタウロスよりも奥へ居た。
『レベルが25に上昇しました』
『スキルポイントを3獲得しました』
そんな声が、俺の頭に響いた。
瞬間、咆哮が上がる。
「ウォォォオオオ!!」
それは、今殺した奴じゃない。
他のミノタウロス。
もう現れたのか。
けど、不安も不運も不足も無かった。
『行ける?』
「うん」
発動するのは、スラッシュではない二つ目の攻撃スキル。
硬質化し尖らせ、更に柊さんの【エンチャントブレード】によって強化された俺の身体。
その切っ先を相手に向けて、スキルを叫ぶ。
「ブラスト!」
『ボーンバレット!』
ボーンバレットは俺の身体の一部分を相手目掛けて射出するスキルだ。
その一突きは加速し、ミノタウロスに反応する事すら許さず、頭を貫いた。
『レベルが27に上昇しました』
『スキルポイントを2獲得しました』
どうやら、俺たちは想像以上に強くなってしまったらしい。
【自動骨再生】によって回復した残弾によって、更に柊さんのための武器を作り出す。
二刀流だ。加えて俺が身体の動きを補助し、補正すれば柊さんのなんちゃって剣術は本職よりも正確な動きを可能とする。
「息会うね。今凄く気持ちいいよ」
『なんかエロいね!』
「死ね!」
そう言って、柊さんはミノタウロスを切裂いた。
え、ミノに言ったんだよね? 俺に言ったんじゃ無いよね?
「ツッキー、さいってぇ……」
『ごめんなさい』
ゴブリンがミノタウロス相手に無双する姿を一体誰が想像できただろうか。
ミノタウロスが出て来た時は、あちゃー死んだかなとかちょっと思ったのに。
まさか、ここまで一方的に殺戮してしまうとは……
スキルの重ね掛けが利いてるのだろうか。
更に追加で三体のミノタウロスを倒して、俺は種族の限界レベルに到達した。
「まってツッキー、後一匹で私も追いつくから」
『おっけー』
RPGで勇者だけレベルが上がって行く現象あるよね。
態々勇者を棺桶にしてレベリングしたりはしないけど、合わせた方が満足感がある。
それにミノタウロスに余裕で勝てるなら、無理に進化を急いで種族の特殊効果が変化すると合わせるのが面倒だから。
柊さんの無双シーンを眺めながら、俺は彼女がレベルアップを果たすのを待った。
「よし、上がった。これで同じだね」
同じってのは、レベルという数値が同じって意味で特別何かある訳じゃない。
でも、聞き心地は凄く良い気がする。
見える範囲で粗方ミノタウロスの姿は消えた。
俺たちは、余裕を持ってステータス画面を弄り始める。
『種族進化を実行します』
『
『称号
『ユニークスキル:【能力融合】を獲得します』
『進化の褒賞としてスキルポイントを10獲得します』
『種族ランクが上昇した事で、身体能力が向上します』
種族が『デスナイトアームズ』になった事によって、俺の身体は白い骨から黒い骨になった。
アームズなので、柊さんの身体に纏わりつく戦闘スタイルは継続だ。
どうやら、この段階の進化は選べないらしく柊さんも選択肢は一つしか無かったらしい。
柊さんの方は、やはり声が少しだけ本来の柊さんの物に近づき、なんと筋肉が減った。
恐らく、素早い動きを可能とする為の進化方向だろうがどんどん人間に近づいて行っている感じがする。そして貧乳だ。
「何?」
『ん? いや全然なんでもないけど……』
心が読まれているだと……!?
あ、最初からだった。焦った。
人間に近づく柊さんに対して、俺は全く人間らしくない。
いや、中身って意味だとめっちゃ人間っぽいんだけど。骸骨だし。
多分、人間の時の俺に、俺自身が思い入れがあんまりないからとかなんだろうか。
逆に柊さんは、人間だった時の容姿が凄く良かったから速く戻りたいと思っていて、それが進化に影響を及ぼしているのかもしれない。
――――
種族レベル『1/50』
【デスナイト20/50】
【デスナイトアームズ0/50】
【異世界人5/50】
【知的武装30/50】
【早熟0/50】
保持スキルポイント『0』
スキル【骨格変化】【初級言語翻訳】【初級収納】【初級鑑定】【装備者伝心】【装備者補助・回復】【自動骨再生】【装備者補助・結界】【能力融合】【ボーンスラッシュ】【ボーンバレット】【ボーンサーヴァント】【ファントムスラッシュ】
―――――
―――――
種族レベル『0/50』
【ゴブリンジェネラル35/50】
【異世界人0/50】
【知的武装使い20/50】
【早熟0/50】
保持スキルポイント『0』
スキル【恐怖耐性】【武器技能】【防具技能】【器用】【聖なる乙女の刃】【能力融合】【エンチャントブレード】【スラッシュ】【ブラスト】【ダブルスラッシュ】【クイックブラスト】【エンチャントブースト】
―――――
これが最終的な俺たちのステータスだ。
俺に追加されたスキルは四つ。
【ボーンサーヴァント】【ファントムスラッシュ】【装備者補助・結界】【能力融合】。
サーヴァントは小型動物の身体を模した骨の召喚獣を呼び出して使役する事ができる。
ファントムスラッシュは刃を透明化する斬撃を放てるらしい。
装備者補助・結界は、俺の身体から半径30cm程度の何処にでも正六角形のバリアを張れる。バリアの大きさは自由だが、大きくすればするほど強度が低くなる。
柊さんの追加スキルは、【ダブルスラッシュ】【クイックブラスト】【エンチャントブースト】【能力融合】の四つと【聖なる乙女の刃】という謎スキル。
ダブルスラッシュとクイックブラストは、『スラッシュ』『ブラスト』の上位スキルだ。
エンチャントブーストは、一時的な身体強化を可能とするスキル。
問題の聖なる乙女の刃という奴は、柊さんが『無理! 言えない!』と言ったので俺は知らない。
気にしなくていい、と言われたので気にしない事にする。
さて、新たに出現した
早熟はレベルアップを加速させる系統のスキルが多い。
だが、今は戦力を充実させるという当初の目的を優先し、このスキルツリーは放置している。
ユニークスキルの【能力融合】に関してだが、持っているだけで自動的に効果を発揮するらしい。
複数のスキルを同じ場所に同時に発動する場合に限り、その威力を向上させ追加効果を発生させるらしい。
柊さんと俺の並列スキルが進化するって訳だな。
「あのさ、うちゲームとか全然詳しくないけどさ……」
『うん……』
「これってもしかして、相当強かったりする?」
『あぁっと……多分、この階層では無敵なんじゃないかな』
まさか、スケルトンとゴブリンが協力するとここまでの火力になるとは。
いや、スケルトンアームズという固有種族がやばいのか?
そんな事を考えながら、俺たちは出て来るミノタウロスを倒し続けて次の階層を目指した。
「何これ!?」
『これは……』
そこには、今までの薄暗い洞窟とは全く違う『草原』が広がっていた。
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