第3話 勇者の聖剣


 粗末な着物の四人の亜人。

 対して、服なんて持ってないスケルトンと腰巻のゴブリンが一匹づつ。

 俺と柊さんという知り合い二人だけが転移したとも思ってなかったけど、多分クラスメイトが転移してきたと思われる。


 けど知らない仲の人じゃ無くて良かった。

 まぁ、俺は数回しか話した事無い人だけど。でも柊さんは良くこの四人と一緒にいるし事情を説明すれば大丈夫だろう。


 そう思っていた。


「聖剣召喚」


 霧宗君がそう呟くと、何も無かったハズの掌に一本の直剣が握られていた。

 向こう側が透けて見えそうなほどの透明度を持つ剣。

 そして、その名は『聖剣』……如何にも最強の剣って感じだ。


「はっ!」


 いやいやいや、お前らちょっとは確認せぇや!


 そう思った瞬間、俺の圧倒的に遅い反応速度と低下した筋力とは真逆に超強化されているとしか思えない身体能力で霧宗君が俺の目の前まで瞬間移動の如き速度で迫った。


「カカッ!」


 無理、絶対避けられない。


「待って!」


 一体のゴブリンが俺の腕を引いて、剣の前に身を晒した。


「うぅ!」


 けれど、聖剣の軌道はすぐさま標的を俺からゴブリンへ移し、その腕を切り落とした。


「いっつ……」


 柊さんが涙を浮かべる。

 そりゃそうだ、半ばから腕が無くなっているんだから。


「泣き顔も不細工ね」


 真樹沙織ヴァンパイアがそう吐き捨てる。


「まって、言葉を話すゴブリンなんてレア種だよ」


 城崎秀太はそう言った。


 あぁ、ダメだこいつら。

 完全にイカれてる。

 何があったか知らないが、生物の命を躊躇なく奪えるレベルの精神性をしている。

 それにあいつらからしたら俺たちはモンスター以外の何物でもないのだろう。


「私だよ皆……」


「悪いけど、ゴブリンの知り合いなんていないから」


 霧宗優也が長剣をゴブリンの上から落とす。

 避ける余力は無いと、かなり遅い速度で振るわれるその剣は、しかし腕を落とされ重傷の彼女がそれを回避する事はできないだろう。


 ――今度は俺が守る番だ。


 柊さんはゴブリンと霧宗君から俺を庇ってくれた。


 俺はオタクだけど、こんな理不尽な展開は好みじゃねぇよ。


「カカカ!」


 腕を剣の様に尖らせ、それで聖剣を受け止める。

 聖剣が俺の身体を切裂き、鎖骨と肋骨を砕いた。


「こいつら庇いあってるのか?」


 今更気が付いたってもう遅いんだよ。

 何があっても、お前らと協力するなんて真っ平だよ。


(逃げよう……)


 俺は視線で柊さんに合図を送る。


 それと同時に踵を返し俺たちが入って来た出口に走った。

 勿論、柊さんの残った手を引いてだ。


「説得、無理だよね?」


 俺は首を横に振る。

 モンスター相手に話し合いをするっていう考え自体が存在してない。

 まぁ、ここに来る前に俺たちと同じようにモンスターに襲われたんだろうからしょうがない。

 でも、俺なんかよりよっぽどゲーム脳だよあいつら。


 後方から男の声が二つ聴こえた。


「やめろ秀太、あいつらは……」


「フレイムボール!」


 は?


 後ろを向けば、俺の頭蓋サイズの火球が迫って来ていた。

 避けるとかそういうスピード感じゃない。

 銃を避けられないのと一緒だ。少なくとも負傷している状態で避けられる物じゃない。


「カカカ!」


 骨が鳴る悲鳴と同時に、俺の身体がバラバラに砕けた。


「カカカ(逃げて……)」


 転がり、頭蓋だけになった俺は目だけで柊さんにそう訴えかける。


「ッチ、仕留めそこなった」


「待つんだ秀太、何かおかしい」


 どうやら二発目が来るまで余裕はあるらしい。

 けど、この身体じゃ逃げるとかそういう場合じゃない。


 こうなってしまえば、あいつらが俺に気が付いてくれる事を祈るしかない。


「大丈夫、一緒に行くよ」


 俺の頭蓋だけを拾い上げ、柊さんは逃走した。



――



 結論から言えば、逃げ切れた。

 まぁ、俺の首から下完全破壊プラス柊さんの右腕という決して安くない代償を伴ったが。


「痛いよツッキー」


「カカカ(すまん)」


 地面に文字を書くための腕すら失った俺は、もう感情を彼女に伝える事すらできない。

 柊さんは赤い血をドバドバと流している。

 腰巻を腕に巻いて血流を縛っているが、それでも出血多量は変わらない。


 喉を潤す代償がこれとか、ふざけてる。


 何か、打開策は無いのか?

 あるだろクソオタク。さっさとその使えない頭で物を考えろ。

 こんな状況くらいでしか使い道のない知識ばっかり無駄に蓄えて来ただろうが。


 ――あぁ、見つけた。


 俺は収納からゴブリンの死体を取り出す。

 収納制限ギリギリだが、一体だけ居れていたのだ。


 俺の滑形変化は、骨の形状を変化させる能力。

 そこにはどこにも『俺の骨しか無理』なんて条件は無い。


 お前の骨を俺の物にする。

 顎の骨を動かし、何とかゴブリンの死体に近づきスキルを発動させる。


 ――まずは俺の身体になれ。


 その命令は問題なく受理され、死体から骨がひとりでに抜き出て来て俺の身体として再構築された。


 次だ。頼むぞ。


「カカカ(スキル応用、スカルアーマー)」


 俺は俺の身体で柊さんの身体を包む。

 鎧の如く、そして腕を完全に塞ぎ、血が漏れない様に肩をきつく縛り付ける。


「カカカ(少し身体を借りるね)」


 意識を失ってしまった柊さんの身体を無断で動かす。

 柊さんの骨にアクセスし、内と外から骨を動かす。


 これなら、もっと高い戦闘力で戦える。


「グギャギャ!!」


 ちょうどいいタイミングでゴブリンが複数現れた。

 柊さんは一時しのぎの状態だ。

 これを打開するにはレベルアップかアイテムドロップくらいの幸運に賭けるしかない。

 そして恐らく自分自身が戦わなければ経験値は入らない。だから、柊さんの身体を動かしてモンスターを倒す必要がある。

 回復スキルが出るまでレベリングる!


「カカカカカ」


 通常のゴブリンが、片腕になってしまったとはいえスカルアーマー状態の柊さんに勝てると思うなよ。


『レベルが最大に達しました』

『種族進化が可能です。進化先を選択して下さい』

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