第82話

「おい!いい加減に行くぞ」


俺は今デスクに必死にしがみつく魔王を引きはがそうとしていた。


「無理に決まってるだろ!

お前はあの悪夢を知らんから言えるんだ。

無理無理無理むりむりぃっ!!」


ドア付近ではルーミル・マーリーン・グリックスが、部屋の中では麻奈・ひばり・奈美が呆れた様子で子どものように駄々をこねる魔王を残念なモノを見る目で見つめていた。



今日はムガでドワーフと会談をすることになっている。

会談が決まってから魔王は頑なに『俺は行かん!!』と言い続けていた。


「そうだ!ひばりっ!!

お前の【コピー】で俺の代わりに行ってきてくれ」


はぁ…と溜息をついたひばり


「無理に決まってるじゃないですか。国と国との会談ですよ。

それに彼らと犬猿の仲であるグリックスさんも行くんですからあまりわがままを言うのはどうかと…」



会談が決まったときに知ったのだが、獣人とドワーフは仲が悪いらしい。

国境が接しているのも原因の一つではあるらしいんだが…

元の世界でも国境が接している国は領土問題やらで揉めることが多いのを俺は思い出していた。



そこへナターシャがやってきた。


「到着なさいましたがお通ししますか?」


力を緩めながら答える。

「ああ、超特急で頼む。

時間的にもギリギリだ。こんなアホなことで要塞移転など使いたくないからな」


魔王は俺の力が緩んだというのにガッチリデスクにしがみついていた。



ものの数分で頼みの綱が到着した。

怒りの表情でしがみつく魔王を見下ろしているフェルトさん


(おぉ怒ってる怒ってる…これは魔王死んだか?)


そして、フェルトさんは何の躊躇もなくしがみつく魔王のこめかみを思いっきりぶっ叩いた。


ぴくぴくと動けなくなった魔王の首根っこを引っ掴み笑顔でこちらを向く鬼もといフェルトさん


「さっ、みなさま参りましょう♪」



俺は目で『見たか?フェルトさんだけは怒らせてはならない。わかるな?』と皆に訴えた。


今、俺たちは完全に意識を共有したようだ。他の面々も冷や汗を流しながら頷いていた。





そして、ムガ城に約束の時刻ギリギリにたどり着いた俺たちは早速会談場所に通された。


だが、妙だ。

街を通ってくるときに見たドワーフはなぜかおっさんしかいなかった。

子どもや若い女は警戒して隠れているってのはわからないでもないが、いわゆるおばさんドワーフまでいないのはおかしい。



そんなことを考えていると、扉が開いた。

入ってきたのは一際良い身なりをしたドワーフとおっさんドワーフだった。


この身なりの良い方がドワーフの長だろう。

そのドワーフが席に着くと俺たちを見渡してから話し始めた。おっさんの方は後ろに控えたままだ。


「遠路はるばるよう来てくれた。

本来ならワシらが出向かなきゃならんところを本当にすまん」


そう言って素直に頭を下げるドワーフの長

そして、俺を見て


「そっちの若いのが例の要塞のだな。

ワシがドワーフの王であるトールだ。

ワシらはこんな話し方しかできんのじゃが許してくれぃ」


そう言ってまたも頭を下げるトール


「ええ、構いません。

私はロストエデン司令官の三鍵 唯人と申します。よろしくお願い致します」


大きく頷いたトール、次に魔王に目を留めた。


「シューベルト殿はどうされたんじゃ?なにやらいつもと様子が違うようじゃが」



魔王は鬼の一撃があまりにもヤバかったようでいまだに気絶していた。座ってはいるがだらんと下を向いたままである。

後ろに控えたフェルトさんが笑顔でトールへ答えた。


「お気になさらずに。

これは魔王様なりの最大限の敬意の表し方ですので。

ですよね?みなさん?」


そうなのか?と問いかけるトールに俺たちは揃って

「「「「イエッサーッ!!!」」」」

と軍人ばりに答えたのだった。



「まずは、ムガを、そしてワシを救ってくれたことをみなを代表して礼を言う」


(ん?何もしてないぞ?)


「実はムガは少し前からノーザイアに支配されておったのだ。ワシも幽閉されておってな。

じゃが、さきの戦いで帝国の至宝を打ち負かしてくれたお陰でノーザイアは慌ててムガから引き揚げたのじゃ」


「なるほど、そういうことでしたか。

会談に時間がかかったのも納得しました」


その言葉だけでほぼ全て納得した俺たちだったが、一名は全く理解していない様子だ。


「いいか?マーリーン

あとで五歳児でもよくわかるように絵本で説明してやるから今は諦めろ」



(こいつ最初もうちょっとマトモじゃなかったか?わざとアホの子を演じてるんじゃないだろうな?)


俺は出会った頃のマーリーンを思い浮かべてみた。

だが、すぐに釣られたことを思い出し、最初からアホの子だったことを再確認した。



ぷくっと頬を膨らませたマーリーン


(そういえば俺の心読めるんだっけか)


そんなことを考えていると、急にフェルトさんが怒りながら机を叩いた。


「ノーザイアのヤツらが女性を連れ去ったのですねっ!?

それで、今まで女性を見かけなかったと!!

相変わらず汚いヤツら」



そんなフェルトさんの言葉を受けてきょとんとするトール

それからトールは衝撃的なことを告げた。


「えっ、、、いや、、、そんなことはないんじゃが?

現にお主らの前にドワーフ界随一と謳われる美女がおるじゃろ」


俺たちはトールの衝撃の言葉に面食らってしまい口をポカンとあけたまま一斉にハモった。


「「「「はっ…???どこに??」」」」


「ワシの後ろにじゃ。ワシのかみさんでのぅ。ドワーフ史の中でも五本の指に入ると言われているほどの美女じゃ」


デレデレしながらトールが答えると後ろに控えたドワーフは嫌ですわと赤くなりながらトールの肩を叩いていた。



(は?はぁぁぁぁぁぁっ!?待て待て待て待て落ち着け俺。深呼吸だ。

コレはきっとドワーフ流のジョークに違いない。そうだ、そうに違いない。

いや、だってヒゲ生えてんじゃん。なんだ、てっきり騙されるとこだったぜ…)



そんなとき急に魔王が意識を取り戻した。


「ん…ここは?あれ?俺どうなっ…」


そして、トールの後ろに目を留めた魔王が急に立ち上がったかと思うと指をさして叫んだ。


「あっあっあっ!あ〜〜〜っ!!!

コイツらだ!!こんな感じのヤツらが大量に俺に……」


そこまで言った魔王はまたもや魂が抜けたように上を向いて気絶した。




※一旦区切ります。





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