第71話

あの後俺たちはロストエデンへ一人の獣人の少女ライムを連れて帰った。



街を歩いていて初めてライムを見たとき、彼女はぼろぼろの服を着て目はうつろでぼぉっと地べたに座っていた。

その姿が以前のメイと重なった俺は気づくと彼女に話しかけていた。



「君をロストエデンへ招待したいんだけどどうかな?君と同じくらいの子が4人いて楽しいよ。君もきっと気にいる」


だが、彼女は少しこちらを見ただけでまたぼぉっとどこか遠くを見ていた。



返事は無かったが放っておくことができなかった俺は強引に彼女の手を引き、案内してくれた獣人も驚くほどのスピードで彼女に決めた。

決めた後で案内してくれた獣人に聞くと彼女の親はずいぶん前に死んでしまったとのこと。

はじめこそ物乞のようなことをして食い繋いでいたが、そのうちに心が壊れてしまい、最近では一日中ここでぼおっとどこか遠くを見ているらしい。




連れ帰ったまでは良かったが、本当に大変なのはここからだった。

ライムは何かに反応することが全く無かったのだ。



食事を用意すれば一応食べる。だが、言葉を発することもないし、表情が変わることもない。


奈美と風呂へ入らせれば、奈美に手を引かれ抵抗することなく入る。だが、風呂の間もぼおっとどこかを見ていて髪を洗っているときでさえ目を閉じなくて奈美は相当焦ったようだ。


着替えを用意してもふかふかのベッドに寝かせても全く同じだった。



麻奈のグレーターヒールでワンチャン何とかなるんじゃないかと思ったが結果は変わらず。




そうこうしてあっという間に2週間が過ぎた。



そろそろ真剣にエルフの泉に連れて行こうかと思っていたとき、メイやリンそれにユイ、ジェシーが俺のところへやって来た。


「私たちがライムのお世話したいっ!」

そう強く主張するので、これも教育の一環かと思い、彼女たちに任せることにした。






〜〜〜〜2週間後〜〜〜〜


「兄様!!早く!こっちこっち!!」


手を強引に引っ張られてアレクセイの造った公園へ。



「見ててください!!

ん〜……それっ!」


ジャングルジムのてっぺんから後ろ向きに弧を描いて飛び降りる。

そして、見事に着地を決めVサインで笑うライム



この2週間ですっかりライムは元気になっていた。




この5日前に、メイたちがライムを連れて「ライムちゃん、喋るようになったよっ!」と報告に来た。

メイたちの後ろから出てきたライムはゆっくり俺に歩み寄り


「兄様…あそこから連れ出してくれた…ありがと…」

と、おずおず感謝した。


メイは「ねっ!」と言い、にこっと笑った。



俺たちが何をしても癒せなかったライムの心をメイたちはあっさりと癒したのだ。



「私たちにかかれば当然のことですわ…ってどうしたんですのっ!?」


驚きと感動で膝をつき涙がとめどなく溢れた俺を見て、ユイが驚く。


メイが俺のそばへ来て「お兄ちゃん、よしよ〜し」と言いながら頭を撫でた。



涙を流したまま顔を上げると彼女らにあるはずのない天使の輪と純白の翼が見えた。


(て、天使だ…天使はココに実在したぞ!)




その後もライムは順調に回復していき、現在に至るというわけだ。

これでおわかりいただけただろう。

俺の妹たちがスーパーパーフェクトラブリーエンジェルであることを。

異論など万に一つもないだろうが、もし仮にあったとしたら強制勃起薬の刑に処す!!




そして、その間に彼女の処遇も決まった。

そう、土谷 楓だ。



「私はバッジオで住民たちの手伝いをしようと思うの」


彼女なりに悩んだ末にたどり着いた結論

その顔は晴れ晴れとしていた。



「それがいいと思うよ、僕もときどき様子を見に行くから」

ひばりが笑顔で返す。



「そうか。

自分で決め、ひばりが納得しているなら俺が反対する余地はない。

グリックスにはこちらから連絡しておこう。

それから、これを…」



そう言って俺はハンドガンを土谷に手渡した。



このハンドガンはマシンガン部隊が非常用に携帯しているものだ。マシンガン同様、造られた状態で既に装着されている。

だが、今まで使用したのを見たことはない。

それならば、不必要であろうということで土谷に餞別として与えようと思ったのだ。

ちなみに、俺が奈美を助ける際に使用したのもこのハンドガンだ。



「スキル無しではいざという時に困るだろう。これを護身用に持っておくといい。

弾薬は必要ない。

だから、練習してある程度使えるようにしておいた方がいいぞ」



「そんな……助けてもらったのに…貰えないよ…」と辞退する土谷



「良いんだ。

お前が死ぬとひばりが悲しむ。持っていけ」



彼女は涙を流し


「三鍵、ほんとに今までごめんなさい。

こんな謝罪で許されるわけないのはわかってる。これからの行いで少しずつ三鍵にもバッジオの人たちにも罪を償えたら……」



場がしんみりしてきたので俺は無雑作に手を振り


「ああ、気にするな。さっさと行け」

と、言い放つ。


隣でひばりが「素直じゃないんだから」と笑っていた。



そうしてバッジオ騒動は幕を閉じたのだった。





いや、ほんとは色々あったよ?

ジョーの巨大な蠅を見たナターシャがバーサクモードに入ったり、魔王とグリックスが怒鳴り込んできたり……etc





そうして日常を取り戻した俺たち。

だが、そんな日々は長くは続かなかった。



ナターシャから連絡が入る。


「司令官、ノーザイアが会談を申し込んできておりますがいかがいたしますか?」






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