第70話

バッジオの王、つまり獣王

その見た目は髪はライオンのようで、身体は筋骨隆々であり死人部隊をも上回っているのがはっきりとわかる。尻尾は大きく威厳を感じる。



今回の一件の説明は側近にして、そこから獣王へという流れだった為、話すのはこれが初めてだ。


その獣王が口を開く。


「私は獣王グリックス。

この度はバッジオを救っていただき感謝致します」



(あれ?もっと、ガハハハ!我は獣王グリックスだ!助けてくれて感謝するぞ!的なのを想像していたんだが…)



見た目とは裏腹な物言いに面食らってしまった。俺の獣人のイメージはよくいえばフレンドリー、悪くいえばマナーがないだったからだ。


しかし、違うとなればこちらもそれなりの対応をしなければならない。



「ロストエデン司令官の三鍵唯人です。

こちらもバッジオを救うことができて嬉しい限りです」



俺の言葉を聞きながら土谷をジロジロ見ている獣王グリックス


「ふむ、今回は良しとしましょう。

お互いこれ以上の詮索は余計な衝突を生みます。

それで救っていただいた御礼を差し上げたいのですが何を御所望でしょうか?」



(コイツ……気づいてやがったのか。俺のハッタリを。

となるとまずいな。仕方ないここは…)



「では獣人の方を一名ロストエデンに招きたいのですが…」


グリックスは意外だという風に驚き


「それは人質ということでしょうか?」


俺は慌てて否定した。


「いいえ、我がロストエデンでは現在ヒト・魔族・エルフ・マーメイドが共に楽しく生活しております。そこに獣人も加わっていただきたいということです」


獣王グリックスは少し考え

「誰を御所望で?」



俺は本来ならメイたちと同じくらいの子を選ぶ予定だったのだが断腸の思いで獣王の周りにいるヒトでいうところの『おばさん』の獣人を指した。


「彼女などいかがでしょう?」



その瞬間獣王はクワッと目を見開き、今までの礼儀正しさはどこへやら…


「ダメだダメだ!!そんなのダメに決まっているだろう!

こっちは譲歩してやってるってのに全く譲歩無しかい!?喰い殺すぞこの野郎!!」



あまりの変わりように俺たち5人は呆気にとられた。



(譲歩無し?いや、こっちはこれ以上ないほどに譲歩しているんだが……)



俺はその時ふと気づいた。

獣王の周りにいるのが『おばさん』獣人ばかりだということに。



(いや、まさかな…ないない!あるはずないだろハッハッハッ!でも一応な…)



俺は一応冗談を装い

「まさかおばさん好き…なーんてことは無いですよね?ハッハッハッ」


獣王は目を泳がせ明らかに動揺して


「そ、そ、そんなわけないだろ!

この獣王ともあろう者がそんなわけッ!」




俺はたまたま近くを通りかかった6歳ぐらいの獣人の女の子の肩を掴み前へ出した。


しーん………


次に20歳ぐらいだと思われるお姉さん獣人の肩を掴み前へ。


しーん………


そして、45歳ぐらいのおばさん獣人の肩を掴み前へ。


はっはっはっっ……

獣王は舌を出し尻尾を振っている。

こちらの視線に気づいた獣王はごほんと咳払いし気を取り直した。




俺はつい叫んでしまっていた。


「『ババ専』じゃねーか!!!

どうりでお前の周りおばさんばっかりだと思ったわ!」


獣王は慌てて

「ち、違うぞ!!

少し歳を取っている方が色気があって発情するだけだ!」


俺はʅ(◞‿◟)ʃの仕草で

「それを人はババ専と呼ぶ。

ヘイ、ブラザー。正直に言った方がいいぞ。ババ専なんだろ?色んな性癖があるんだ。気にするな」


獣王はこちらを窺いつつ「お前は口が固いか?」と聞いてきた。


俺は胸を張って答えた。


「口が固いと調べれば僕の名前が一番初めに出てくるレベル!任せておいてくれたまえ」



麻奈たちは何か言いたそうだったが、俺の方を見るだけに止めておいたようだ。



獣王は恐る恐る告げる。そのサマに先程の威厳は微塵も感じない。


「実はそうなんだよ、若いとこれっぽっちも魅力を感じなくてな…熟して無いとダメなんだ。

だ、誰にも言うなよ!俺の威厳に関わるからな!」



どこかで聞いたセリフだな…と思いながら俺はぎこちない笑顔で返した。


「ま、まあ気にするな…

魔王もロリコンだしな。全く気にする必要はないと思うぞ。うんうん」


「と言いながらなぜ後ろへ下がっているんだ?」


俺は冷や汗をダラダラ流しながら


「き、気のせいじゃないか?全く引いてなんかいないぞ。大丈夫だ、おっけー牧場だ」



俺は話を変えようと必死に考えを巡らす。


「そ、そうだ。俺からアーガイア、サーニャ、アトランティスにバッジオと友好関係を結ぶよう進言してみよう」


「それはありがたいな!なにせバッジオは今戦力がほとんど無い状態だ。ぜひとも頼む」

と言いながら手を差し出し握手を求める獣王


俺はその手を回避しながら

「お、おう。任せておきたまえ!ハッハッハ!」と更に後ろへ下がった。




結局、メイたちと同じ年齢の獣人をロストエデンへ連れ帰ることになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〜後日 バッジオ城〜


勢いよく扉を開け、魔王が部屋へ入ったときにはルーミル、マーリーン、グリックスが揃っていた。

魔王は笑いを堪えきれず


「ぷぷっ…グリックスお前『ババ専』なんだってな!ワハハハハ!」


ルーミルとマーリーンも堪えきれず笑ってしまう。

「あんまり言っちゃ可哀想ですよ…フフ…」とルーミル


「そ、プフッ…そうですよ。イヒッ…好みはそれぞれなんですから…ヒヒヒヒ…」とマーリーン


グリックスは顔を真っ赤にして

「あ、アイツ!ハメやがったなぁぁぁぁ!

シューベルト!!てめえだってロリコンだろーが!」


「な、何言ってるんだ!!俺がロリコンなわけないだろッ!」


獣王は腕を組みながら


「俺はヤツから聞いてんだ!

お前の希望でヤツのところで小さな女の子ばかり生活させてるってな!!」


「は、はぁぁぁぁぁぁ!?

それはあいつの…あいつめぇぇぇぇ!!」



「「今度会ったらタダじゃおかねー!!」」

2人の叫びが部屋はおろか城全体にこだました。

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