第69話
俺とひばりがひとしきり笑いあった後、麻奈と奈美が近寄ってきて小声で囁いた。
「しかし、現実問題バッジオの人たちをどう説得されるのですか?
『ビーストマスター』張本人を許してくれといってもこの雰囲気では…
力で捻じ伏せて従わせますか?」
(オイオイ麻奈さん。おっぱいと同じくらい暴力的な…)
3人に向かって俺は自信たっぷりに胸を張った。
「まあ、見てろ。俺に秘策がある。とりあえずひばりは土谷をおろしてきてくれ」
早速嬉しそうに土谷をおろしにいくひばり
だが、その様子に獣人たちは不満たっぷりな雰囲気だ。
土谷をおろすひばりにまで敵意が向けられている。
(ロストエデンに助けて貰った恩でギリギリ耐えている…といったところか)
土谷がおろされ、俺たちのところへ。
次の瞬間土下座をしようとした土谷を俺は制した。
「ひとまずこの場を収めよう。話はそれからだ」
俺は向井が磔にされている前まで歩いていき、獣人たちの方を振り返った。
そして、大仰な身ぶりを交えて群衆に語りかけた。
「さて、君たちを操ったビーストマスターの処刑をはじめよう!!」
群衆から歓声があがる。
俺は磔にされている向井を指し
「この男こそが君たちの夫や恋人、父親を奪ったビーストマスターだ!!
そして、彼女はただ今回ノーザイアから彼のサポートとして派遣されてきたに過ぎない。
よって、彼女は今回の処刑の対象にはしない。
異論のある者はいるか?」
向井は目を見開いて抗議していたが、スキルで口を閉ざされているため何も言えない。
群衆ががやがやとどよめき、口々に
「けど、ノーザイアのヒト種でしょ?」「私たちを蹂躙するつもりだったはず…」「同罪でしょ」………など否定的な意見ばかりだ。
俺はそんな群衆を見回し
「そうか。なら、俺のことも処刑するか?」
群衆は再度どよめいた。みなが口々に
「同じヒト種だけど、あなたはバッジオを救ってくれたわ」「全然違うわ」と。
俺は自分の胸に手を当て
「俺はギルファーで君たちの夫や恋人を殺すよう命じた司令官だぞ?」
「けれど、それは侵略されようとしていたのだから当然だわ」「そうよ」「仕方ないことだもの」………etc
「だが、俺たちが君たちの夫や恋人を殺した。この事実は消えない。
しかし!!彼女はまだ何もしていない。そんな彼女を処刑すると?
ならば、君たちはノーザイアと同じということになるな」
一斉に困惑しだす群衆
「ノーザイアは何もしていない君たちを殺そうとした。
君たちは何もしていない彼女を殺そうとしている。
どこが違う?同じだ!
それに彼女の涙を見ただろう。彼女は悔いている。そんな彼女を処刑するというのか!?ノーザイアのやつらと同じになりたいというのかッ!?」
群衆は「そうだよね…」「うん、私たちはノーザイアのヤツらとは違う」「わかったわ」と同意する意見が生まれ始め瞬く間に群衆全てに広まった。
(ふぅ、とりあえずは何とかなったな…)内心冷や冷やしていた俺は安堵の息をついた。
だが、まだ終わりではない。
「この男だけだと復讐には足りないと思っているだろう?すぐに死んで終わりだと思っているだろう?
だが、安心してほしい。この男はすぐには死なない。3日3晩苦しめることが可能だ。
罪なく散っていった君たちの夫や恋人の無念を晴らすべく、今この時より一時たりとも休ませることなしに処刑を続けようではないか!!」
「「「「おー!」」」」
揃った返事で皆やる気に満ち満ちていた。
俺はジョー博士から更に改良された薬を受け取り向井に飲ませた。当然マリオネットのスキルを使ってだ。
獣人たちが思い思いの武器を手に(素手のものもいたが)嬉々として処刑を始めた。
俺はそんな彼らに一つアドバイスをした。
「あっ、言い忘れてたけど切断系は3日目にした方がいいぞ。その方が色んな場所で苦しんでもらうことができるだろ?」
そして、5人のもとへと向かう。
「すごかったよ、あっという間に群衆を納得させてしまうなんて。
でも、良かったの?あんな嘘ついて」
ひばりが賞賛とともに心配をしてくれる。
「ああ、嘘は自信を持ってつくのがミソだ。そうすると嘘も真になる。
それに、彼らは誰がビーストマスターか知らないはずだ。土谷だろうと向井だろうと変わらないんだよ。
まああそこで引き下がってくれたのは正直助かったけどな」
「ご主人様、なぜ獣人たちがビーストマスターが誰か知らないとわかったのですか?」
「簡単だ。兵だけでも3000以上いるんだ。一人一人にかけてたら時間がいくらあっても足りないし、必ず漏れも出る。
それに流石にその間に捕まるだろ。土谷は他のスキルを持ってないんだから」
一応最終手段として土谷をロストエデンが保護するので処刑したければ…というプランもあったのだが使わなくて済んだ。
そこへバッジオの王が数人の供回りを連れてやってくるのが見えた。
(はぁ…やっぱりこれやらなきゃダメか…誰か代わってくんないかな)
俺は天を見上げたが、これが強制イベントだろうことは明白だった。
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