第68話
(なんだろう…騒がしい…うぅん…)
辺りの騒がしさに眠っていた私は目を覚ました。
!!!!????
目を開けた私は自分が磔にされていることに気づいた。身体が動かせるか試してみたが、かろうじて動かせるのは首ぐらいだ。
パニックになった私は叫ぼうとするが口の中に何か詰められているらしく、くぐもった声が出ただけだった。
目の前にはミッケラン伯爵と2人の美女
そして、その周りには獣人
ミッケランや美女たちは相変わらずの笑顔だったが獣人の目は敵意に満ちている。
その時、隣のクソ男も起きたらしく必死にくぐもった声を出し、何かを叫び続けている。
2人の美女が私たちに近寄り、口の中の詰め物を取った。と、同時にクソ男が叫ぶ。
「ミッケラン伯爵!これは一体どうなっているんだ!!?こんなことをして許されると思っているのか!!」
ミッケランの表情は全く変わらない。同じ笑顔のままだ。
「こういうことだよ」
獣人たちの後ろから声がした。
(この声…ああ、そうなんだ…)
私は自分の身に死が迫っているだろうというのに、彼が獣人たちを助けたことにどこかホッとしていた。
そして、獣人たちが左右にわかれる。
その中央を堂々と歩いてきたのは私の想像通りの人物ー三鍵唯人ーだった。
後ろには三木島さん、鳥井さん、白衣の男、、、、それに……ひばり君
(三木島さん、鳥井さん生きてたんだ…)
「三鍵ぃ!!先生にこんなことしていいと思ってるのかッ!?早くほどけ!今なら土下座で許してやるッ!」
自分の置かれている状況がわからないクソ男は相手があの三鍵だとわかると青筋を立てて怒り狂っていた。
やれやれの仕草をした三鍵はクソ男に手をかざした。
「先生、話が先に進まないので少し黙っててもらっていいですか?」
手をかざされた瞬間、クソ男の口が閉ざされた。
「これで静かになった。で、なぜこうなってるか。でしたよね?
ジョー」
ジョーと呼ばれた白衣の男はミッケランや美女たちの前に出た。
そして、指をパチンと鳴らす。
すると、笑顔のミッケランたちの身体が頭から縦に裂けてゆく…
と、思ううちにその中から巨大な蠅が羽を広げて飛び立った。その蠅はジョーと呼ばれた白衣の男の周りを飛び回っている。
あまりの光景に絶句していた私が三鍵の方を見ると三鍵も口を押さえて呟いていた。
風に乗ってかすかに聞こえた声
「蠅かよ…なんかもっとこう、、うさぎさんとかにできなかったのか…」
要するにミッケランたちは操られていたのだ。身体の中からあの蠅に。
私が違和感を感じたのも間違いではなかったわけだ。
手を広げた三鍵は話を続ける。
「先生、これでご理解いただけましたか?
つまり、ノーザイアがバッジオを制圧したなんてのは真っ赤な嘘なんですよ。
ノーザイア軍が到着する前に我々ロストエデンが無血で制圧させてもらいました。
そして、ノーザイア軍を迎え撃って全滅させたというわけです」
クソ男は目を見開き、ようやく自分が罠にかけられたことを悟ったようだ。
三鍵は更に続ける。
「いやぁ、大変だったんですよ。
先生たちが到着する前にココに着くためにバトルバイクを爆速で飛ばしてきたんですから。
それで、獣人たちにかけられたスキルを解除しときました。
ですから、ほら彼らの目を見てください。敵意に満ち満ちているでしょう?先生たちを殺したくてうずうずしてるんですよ」
そう言って三鍵は歪んだ笑みを浮かべた。
私は三鍵の話を聞きながら、時折ひばり君を見ていた。
(ひばり君……悲しそう…私のせいで…本当にごめんね…)
ひばり君の悲しそうな顔を見ていたら涙がとめどなく溢れた。
そして私は嗚咽まじりの声で精一杯言った。
「ひばり…君、ほんとうにごめ…んなさい…私の……せいで悲しい……思いさせ…て
私、弱かった…私のせいでこの国の人にも……死んでも償えない……でも、そうしなきゃ…」
自分でも何を言いたいのかよくわからなかったけれどそれでも精一杯自分の今の想いを告げた。
ひばり君は答えなかった。当然だと思う。でも、最後に伝えられた。私は満足だ。後は処刑を待つだけ。
三鍵がはぁ…とため息をついてひばり君の方を向いて告げた。
「ひばり、そんな悲しそうな顔をするな。
アイツの処遇はお前に任せる。好きにして構わない」
驚いて顔をあげたひばり君
「そんなっ…でも…」
驚いたのは三木島さんや鳥井さんも同様だ。でも何も言わなかった。
「土谷さんは唯人に『僕の代わりにいなくなった方がいい』って言ったんだよ…唯人も聞いてたよね。
それに中学のときは唯人に嫌がらせだって…
それにそれにっ!バッジオの人たちだって…そんなんで僕が土谷さんを許してほしいって言って許せるのッ!?」
激しく首を振ったひばり君の肩に三鍵は優しく手を置いた。
「良いんだ。
前にも言ったが俺には全員を許すことなんてできない。アニメの主人公のように優しさの塊みたいな心は持ち合わせていない。
それでも、大好きな親友がトイレで泣くぐらい苦しんでいるのに見捨てるような心も持ち合わせていないんだ」
2人の間に爽やかな風がサァっと吹き抜けた。
ひばり君は顔を真っ赤にしてもじもじしながら
「唯人…大好きって…?」
三鍵は手をあちこち動かしあたふたしながら
「あ、あくまで!し、親友としてってことだぞ!!」
2人は同時にぷっと噴き出して笑いあった。
私も自分がどうなるかわからないのに思わず笑ってしまった。
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