第60話

マーリーン釣り上げ事件から4日経ったが、俺の予想通りの事態にはなっていなかった。

そろそろシルバーを帰還させようかと考えていたときに事態は急変した。



『獣人国家バッジオ』がギルファーへと進軍を開始したとナターシャから報告を受けた。

その数およそ4000


ナターシャによれば『バッジオ』はノーザイア帝国の南東にあって、そこの民はウルフと人間をかけ合わせたような見た目だそうだ。

魔法はほとんど使わないようだが身体能力が高く、戦闘はほとんど直接攻撃系。もし、仮にノーザイアが同じ構成で戦うのであれば倍の戦力が必要になるのではないかということだ。



その報告が終わると同時に魔王が飛びこんできた。


「た、大変だ!!バッジオが進軍を開始した!!」


ふぅ〜と息をつき俺は魔王に問う。


「ノーザイア以外は他の国を侵略しようとしたことは無いんじゃなかったのか?あれは嘘なのか?」


魔王は慌てて叫ぶ

「嘘ではない!!」



そこへ麻奈、ひばり、奈美も部屋へ入ってきた。魔王の真剣な様子に無言で成り行きを見守っている。



俺は冷静に魔王へと返す

「だが、今事実バッジオはギルファーを侵略しようと進軍を開始している。これをどう説明する?」


魔王からの返答はない。


「どうする気だ?ギルファーには4000の敵兵を撃退する戦力はあるのか?」


「…………無い」


「今から戻り部隊編成&行軍をしていると…まあ確実にギルファーは落ちているだろうな」



今まで成り行きを見守っていたひばりが口を開いた。

「でも唯人、何かおかしくないかい?」


俺は背もたれに体を預けながら「まあな」と返した。


「何がおかしいんだ?」魔王がひばりに問う


ひばりは地図を広げて

「バッジオがギルファーへと進軍するなら真っ直ぐ進みますよね?」

バッジオからギルファーへと指を動かすひばり


「あっ!!本当ですね…これはおかしいと思います」と麻奈


ひばりは麻奈を見ながら頷く。


「そう、このルートで行くと必ず『ノーザイア帝国領』を通らなきゃいけないんだ。

そんな他国の軍隊が通るのをノーザイアが許すと思うかい?ただでさえ負けが続いてるんだ。そんなことが国民に知られたら…」



そこまで沈黙を保っていた奈美がおもむろに口を開いた。


「…………『ビーストマスター』……」


みんなが一斉に奈美へと顔を向けた。

奈美は手を交差させながら

「あっ、いや…確かじゃ無いんです。

なんかそういうスキルがあったような?っていうだけで…

唯人様にそんなに見つめられると…♡」


「私たちは見えてないですか!犬っころだからしょうがないのかなぁ?

でも、おあいにく様!ご主人様が見てるのは私の豊満な胸ですから!!」



(はぁ…ケンカしかできんのかこいつらは)


ひばりが地図へと視線を向け

「だけど、そのスキルならノーザイアがバッジオの軍隊を通す理由にも納得できる」


俺がひばりに続く。


「つまり、ノーザイアとしてはどっちが勝とうといいわけだ。

バッジオが勝つとアーガイアを弱らせることができて更にロストエデンが常にアーガイアに味方するわけではないということもわかる。

アーガイアが勝てばバッジオが弱体化し、更に一気に制圧ができる。と」



魔王が腕を組みながら

「もし俺なら『獣人』をビーストマスターで支配下に置いて共闘する方法を選択するな」


麻奈も同感なのだろう。

「それもそうですね…」と続く。


(なるほど、俺にはノーザイアの考えが手に取るようにわかる)


「いや、それはないだろう。

キーとなるのは『ひばり』だ」


急に自分が鍵だと言われたひばりは慌てた。

「ぼ、僕?どうして?」



「順を追って説明しよう。

まず、『ビーストマスター』だが、これはおそらくいる。

で、そのスキルを持ってるのは誰だ?」


「唯人様、申し訳ございません。

持っているとすればクラスの誰かということは確実なのですが…」と奈美


「いや、構わない。

そう、クラスの誰かだ。で、最近ノーザイアで起こった出来事といえばなんだ?」


閃いた魔王が身を乗り出して言う。


「そうか!『神宮ひばりの裏切り』だな?」


俺は珍しく冴えてる魔王の方を向き頷いた。



だが、ひばりは「僕は裏切りなんてしてないよ。唯人と一緒が良かっただけで…」と驚いている。



「ノーザイア側からすればどうだ?

あっちはひばりのことをよく知らないだろ。そんなひばりがロストエデン側についたと報告されれば…」



麻奈がパンッと手を打ち

「『他も裏切るんじゃないか?』と考えるというわけですね?ご主人様」


「ああ、奈美の件の可能性もあるが…あれは住民には見られたが他の兵に見られてはないからな。ひばりの件で間違いないだろう」



「では、次だ。

もし、共闘しているときに『ビーストマスター』が裏切ったりスキルを解いたらどうなる?

スキルが切れたバッジオの兵は怒り狂い、ノーザイアはアーガイアとバッジオの両方と戦わなければならなくなるだろう。

中と外の両方から攻められれば大敗は必至だ」



「自分達は被害を受けずにどちらが勝っても自分達の利益になる、この方法を選択したんだろう」



(まだ腑に落ちないこともあるんだがな…)




※副反応ガチャで爆死した為、土・日と更新できません。

治り次第アップ再開致します。

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