第61話

一通り話し終えた俺にひばりが問う。


「唯人、どうするの??唯人の推論通りだとしても現実的にバッジオとの衝突は避けられないよね…」


椅子にもたれながら腕を伸ばす。


「ああ、実は手を打ってないわけではないんだ。

ガースがギルファーの警備隊長になったと聞いたときから嫌な予感しかしないって言ったろ?

でも、まさかノーザイア以外が攻めてくるとは予想してなかったけどな」



俺は4人にギルファー近くへ副官シルバーを派遣していることを伝えた。



「だが、そのシルバーとやらは一人なんだろ?他の兵が居なくては無理なんじゃないか?」と魔王


俺は余裕の表情で魔王へと返す。


「何言ってんだ??

兵ならいるだろ。ギルファーに」


「た、確かにいるがココの兵を基準にして考えてもらっては困る!

ギルファーに詰めている兵は約1000。そのうちの約3割が新兵なんだぞ」


「ほぉ〜そうか」と耳をほじりながら聞く俺


「とにかくシルバーに連絡を取ろう。

今まで出番が無かったから張り切るだろうしな。

それとガースにはお前から話をつけてくれ」




そして、俺は立体映像でシルバーに連絡を取った。シルバーはコール後すぐに応答した。



「だんな、場所変えませんかい?ここは全く釣れませんぜ。

アホなマーメイド以降さっぱりです」


「ああ、釣りはもういい。ご苦労だった。

ところで、そろそろ防衛指揮をしたいだろう?シルバー」


突然の俺の提案に戸惑うシルバー


「あっ、えっ、、そりゃそうですがロストエデンに攻め込むアホはいないでしょう?」


「まあその通りだが、その近くに『ギルファー』があるな?その街に『バッジオ』の兵約4000が向かっている。

副官シルバー・マーシュ!君に指令を下す。

『ギルファー』へ向かい、警備隊長ガースと連絡を取れ。

そして、、、バッジオ兵を殲滅せよ!!」



俺はシルバーの歓喜の表情を久しぶりに見た。以前『ノーザイアと敵対する』と宣言したとき以来だ。



「ハッ!!!お任せ下さい!!!」





ふぅ。あとはガースと連絡を取ったときに魔王に話をつけてもらえば、ひとまずギルファーは何とかなるだろう。

俺からガースに話してもいいが、魔王の命令と俺の命令では他の兵の納得度が全く違うからな。




「さてと、あとは『バッジオ』の方か…

これはどうするか…」


俺が考えこみ出すと、魔王が慌てて


「待て待て待て待て!

本当に今ので大丈夫なのか?相手は4倍の戦力、更にこちらは3割が新兵なんだぞ。

勝算はかなり低い、いや0に近い。今からでもココから兵を出して貰えないか?」



俺は魔王を見上げてはぁ…とため息をついてから


「勝算?俺の勝算では100だ。

副官シルバーは俺が信頼する防衛のスペシャリスト。任せておけば問題無い。

それよりもバッジオの国の方は……」



うーんと頭を悩ませ始めた俺の説得を諦めた魔王は他の3人に「本当に大丈夫だと思うか……?」と心配そうに問う。



「ご主人様(唯人・唯人様)が仰られてる(言ってる)ので!!!」


揃って3人笑顔で返事をしていた。




頭を悩ませた末に俺はヤツに連絡を取った。本来ならあまり任せたくはないんだがこの際仕方ない。

ヤツは二つ返事で了承し、悦びに満ち満ちた狂気の声が聞こえてきた。


(あー…あまり敵がどうなるか想像したくないな…)


それは他の4人でも同じらしく顔が引き攣っていた。




「ふぅ、とりあえずこれで当面の課題は終わったな。

あとは、、、」


麻奈が「まだあるのですか!?」と驚いている。


「まだ根本的なコトが解決してないだろ?

『ビーストマスター』の正体が。

俺の推論は恐らく間違ってない。

だが、腑に落ちないこともあるんだ」


奈美が「なぜ今なのか…ですよね?」


俺は大きく頷く。


「ああ、ビーストマスターがいるならサーニャ攻略のときなんか他にも使い所がたくさんあったはずだろ?

それなのになぜ今なんだ?何か変わったこと…」


「変わったことと言えば、あの時にもお伝えしましたが、ウザ井が土谷に暴行をしておりました」と奈美



そういえばそう言ってたな。

確かヴィジョンで見たのが土谷だったと。そして、向井が狂ったのではないか?とも。

その報告はあの2人の話とも合致する。

オタ岡とタラ吉だ。

あの2人も、あるとき急にブツブツ何か言いながら狂ったように向井が指揮をとりはじめたと話していた。



「ところで、3人はクラス全員のスキルは知らないんだよな?それは他のヤツらも同じだよな?」


3人揃って頷いた。

そして3人が自分の知っているクラスメイトのスキルを話した。


奈美が申し訳なさそうに

「森保や堂島なんかは自分のスキルを自慢していましたが…

私がもっとしっかり覚えていれば…」


その時、俺は気づいた。

森保や堂島はともかく麻奈が自分のスキルを自慢げに話したとは思えない。



「麻奈は自分のスキルを他のヤツらに話してないよな?

なのに、なぜサーニャ攻略に選ばれたんだ?」


「最初に担任の向井が全員のスキル確認を行っていましたから多分それだと思います」


他の2人も頷いた。

ひばりは「僕は嘘のスキルを教えておいたけどね」と付け加えた。



なるほど…担任なら全員のスキルを把握しておく必要があるということか。



(狂った・向井・指揮・殴った・土谷・いなくなったひばり…)



「そうか…わかった気がする。

ビーストマスターは『土谷楓』じゃないか?

奈美が聞いたのは土谷がトイレとかで呟いた独り言だった」


えっ!?と3人は一斉に驚く。


「でも、彼女は僕に『状態異常を治す』スキルだって言ったよ?」


「前に土谷はお前にこう言ったって言ってたよな?『ひばり君だけは必ず守ってあげる』って。

だが、『状態異常を治す』スキルでどうやってひばりを守るんだ?」


俺は更に続けた。



「恐らく土谷は最初のスキル確認のときにひばり同様嘘の報告をしたんだろう。

そして、どうしようも無くなったらひばりを連れて『バッジオ』へ逃れる予定だった。

もしかしたら嶋崎のことがあった夜にひばりを連れていこうとしたのかもしれない」



「でも、僕がその夜にいなくなった…」



「そして、あの日だ。

ひばりが居なくなったことで土谷は失意のどん底に陥っただろう。それで、何かの拍子にうっかり自分のスキルをバラしてしまった。それを向井が知って…

あとはわかるだろ?」



他の3人が息を飲むのがはっきり聞こえた。



(さてと、どうするかな……)

俺は天井を見上げた。




※矛盾してたらほんと申し訳ありません!

そこは皆様のスルースキルを遺憾なく発揮していただくということでお願いします。

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