第52話

〜ノーザイア城〜


一室では4人の女子生徒が泣き続けていた。

ひばり親衛隊だ。

いい加減他のクラスメイトたちはうんざりしていた。


1人の男子生徒が我慢の限界で声を荒げる。


「あのさぁ…いい加減にしろよ!?

神宮がいなくなって悲しいのはわかる。けど、かれこれ5日だぜ?いい加減諦めろよ!イラつくんだよ!!」


親衛隊のうちのリーダーである『土谷 楓』が言い返す。


「あんたに何がわかんのよ!!

ひばり君は私たちの全てなの!彼がいない世界なんて考えられないの!!ほっといて!」


「んだよ…それならお前らも出て行きゃーいいじゃねぇか。んで、どっかでのたれ死ね!」


見かねた他の男子生徒が止めに入る。

「オイ、言い過ぎだ。やめとけ」




その時、ふいに扉が開いた。

入ってきた人物を見て喧嘩していた2人も他の生徒も驚きで声が出なくなった。


最初に声を発したのは矢島だ。


「三鍵……」


そう、部屋におずおずと入ってきたのは異世界に飛ばされてから行方不明になっていた三鍵だった。

三鍵は小さな声でみんなに声をかけた。


「みんなごめん…俺だけ違うところに飛ばされちゃって……」



日比野が無言で三鍵に歩み寄り、そして殴り飛ばした。


「今さら何しに来た!?ここにもうお前の場所は無い!さっさと出て行け!!」


三鍵はよろよろと立ち上がり頬を押さえた。


「そんな…何かあった?俺なんかしたか?」


日比野は眼鏡を上げて


「お前に教えることは何もない!さっさとここから消えろ!!

………お前が代わりに死ねば良かったんだ…

そうだ!全部お前のせいだ!!」


三鍵は狼狽えて「なんなんだよ…俺のせいって何のことなんだ?」


「お前が代わりに…嶋崎の代わりに死ねば良かったんだ。誰からも必要とされてないお前が…」



他の生徒も口々に

「そうだ!副委員長じゃなくてめーが死ねば良かったんだ」

「あんたなら誰からも必要とされてない。今からでも死んだ詫びてきなよ」


土谷が叫ぶ。

「ひばり君の代わりにあんたがいなくなれば良かったのに…私たちのひばり君を返してよ!!」


そして大合唱が始まった。

「「「「「死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!」」」」」




三鍵は後退りして耳を塞いだ。

そして、大声で叫んだ。


「ちょっと待ってよ!!!!」


次の瞬間、しーんと静まり返る。

三鍵はまた小さな声に戻り話し始めた。


「頼むから俺の話を聞いてほしい。

俺が飛ばされたのはアーガイア国の小さな農村だったんだ。

魔族の国なんだけど、本当に平和なところでヒト種なのに迫害されるどころかみんな親切にしてくれた」


「そう、アーガイアではみんな仲良く暮らしているんだ。

だけど、ノーザイアはそんな平和な村を侵略して見せしめに住人を串刺しにしようとしている…」


矢島が三鍵を睨み


「……何が言いたい?」


三鍵は一歩前へ出てから手を差し出した。


「俺と一緒にアーガイアへ行かないか?

そこでなら働かなきゃいけないけど平和に暮らせる。みんなきっと気に入るよ」



黙って聞いていた日比野が

「そうか、そんな国が……それなら……」


三鍵が笑顔になった次の瞬間


「行くわけねーだろ!!ぶぁーかが!!

なんでそんな弱っちい国に行かなきゃなんねーんだよ!!バカに教えてやるよ。

ノーザイアの戦力を100とするとアーガイアの戦力はたったの10だ。わざわざ劣る国に移るバカがどこにいる!?」


みんなもゲラゲラ笑い出す。


「そんな…確かに戦力では劣っているかもしれないけど…だからって平和に暮らしてるところを侵略して殺すなんておかしいよ」


「魔族なんて気持ちわりぃんだよ!!そんなヤツら皆殺しにしてヒト種だけにしてしまえば良いんだ。相変わらずアホだなお前」




遠藤がみんなに向かって提案する。

「ねぇ、コイツ城の兵士に突き出そうよ。反逆者ですって。

そしたらそっこー処刑してくれるよ。ちょうどいいじゃん。みんなも鬱憤たまってるし、コイツの処刑見て少し気分晴らそうよ」


「ソレ良いね!」「さんせーい!」と口々に言い出した。

今度は「処刑!」の大合唱が始まった。





ひとしきりの大合唱のあと、扉の向こうから声がかけられる。


「これでわかったろ?こういうヤツらなんだよ」



そして扉が開き、入ってきたのは……もう1人の三鍵だった。


1人の女子生徒が混乱しながらも

「えっ!?三鍵…だってあんたはそこに…」



「そうだね、唯人の言う通りだった。残念だよ…僕はみんなを信じていたのに…」


そう言いながら煙に包まれた最初の三鍵。

煙がはれた後に立っていたのは『神宮

ひばり』だった。



ひばりのスキル『コピー』

任意の対象の姿形だけでなく声や匂いに至るまで全て完璧になりきる。更にその対象は生物に限らない。例えば、岩になりきることも可能だ。



「さ、ひばり行くぞ。もうここに用はないだろ。ここにいるとひばりの優しい心が腐る」



その言葉を聞いた瞬間、日比野が猛ダッシュで三鍵に殴りかかった。

だが、すんでのところでピタッと動きを止める。なぜなら日比野の額には三鍵が突きつけた銃口が光っていたからだ。



三鍵が残虐な笑みで言い放つ。


「ああ、言い忘れていた。

俺はロストエデン司令官の三鍵 唯人だ。要塞の司令官って言った方がわかりやすいか?」


「ねぇ…要塞ってまさか…」「三鍵が?」「うそだろ…」


そんな声を無視して三鍵は続ける。


「今日はひばりの頼みだからここで退く。だが、次に会ったときには躊躇なく殺す。

やはりお前らは敵だ。それが再確認できたのが唯一の収穫だな」



「あっ、そうだ。バカ野に教えてやるよ。

ノーザイアの戦力を100とするならロストエデンの戦力は


日比野は力なくその場にへたりこんだ。



土谷がひばりに向かって叫んだ。

「ひばり君待って!私たちも連れて行って!お願い…」


だが、ひばりは彼女らを一瞥し「さようなら」とだけ言い残し三鍵と部屋を出て行った。




後に残ったのは重苦しい沈黙だけだった。




※御礼※

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